妄想会話劇③~先輩と後輩の流星群~
「ねえ」
「なんすか、先輩?」
「何やってんだろうね、あたし達」
「何って、そりゃ天体観測ですよ。僕たち天文部ですから」
「そうだけど……。寒いし、単に空がキラキラしてるだけだし、あと寒いし……」
「空がキラキラしてるだけって……、それを見るのが天体観測じゃないですか……。それに、先輩が最初に言いだしたんですよ?天文部っぽいことしたいって」
「そうだけどさぁ……」
「はあ~、ちょっと待っててください」
ガサゴソ
キュッキュッ
コポコポ……
「何してんの?」
「はい、どうぞ」
「んん?温か!何これ?」
「ホットの紅茶です。先輩の好きなアップルティーですよ」
「おお!」
ゴクゴク
「ふはー!温まるわぁ!」
「そりゃよかった」
「それにしてもよくあたしがアップルティー好きって分かったね」
「そりゃ、あれだけ毎日毎日飲んでたらさすがに分かりますよ」
「え、あたしそんなに毎日飲んでる?」
「飲んでますね」
「まじかー、バレてないつもりだったんだけどな-」
「先輩は隠し事が出来ないタイプですね……」
「あ、それより!今日のその……ナントカ流星群ってのはいつ来るの?」
「ふたご座流星群ですね。もういつ来てもおかしくないはずですよ」
「お?そうなの?じゃあ見逃さないようにしなきゃ」
「…………」
「…………」
「先輩」
「なに?」
「先輩はなんで天文部に入ったんですか?星が好きそうな感じもしないし」
「部員が誰もいなかったからかな-。ほら、あたしだけの空間!みたいな?」
「まあ……そんなところだろうと思いましたけど……」
「君は?」
「へ?」
「君はなんで入ったの?」
「僕はその…………」
「……?」
「…………先輩、実は僕……先輩のこと……」
「あ!星!」
「え?」
「星!流れた!見てた?」
「え、いや、見てなかったです」
「あ!また来た!」
「ほんとだ!」
「今のは見てたね」
「はい」
「…………」
「…………」
「さっき君はあたしのことを隠し事が出来ないタイプだって言ってたけど、君も大概だよ?」
「え、それって……」
キラッ キラッキラッ
「あ、すごい……」
「……綺麗だね」
「綺麗……ですね」
「青春もきっと、あんな風だと思うんだよ。キラッって光って、一瞬で消える」
「はあ……」
「だから、分かっている問題には出来るだけ早く答えを出すべきだと思うんだよ」
「先輩……?」
「でも、あたし達から見れば一瞬で消える流れ星も、燃え上がって、ぶつかり合って、無限に思えるような時間を掛けて、そうやって大気圏を突き抜けてるんだろうね」
「あの……先輩の言ってることはよく分からないんですけど、今日天体観測したこと、後悔してますか?」
「してない。結構楽しかったよ」
「それを聞いて安心しました」
キラッ キラッキラッ
流星群の夜に、流れ星は流れる。
真夜中、学校の屋上、背中を丸めて空を見るふたり。
青春とは流れ星のように一瞬で消えてしまうのだろう。
だけど、燃え上がって、そして燃え尽きるその間、彼らは何よりもキラキラと輝く。
そんな妄想青春劇場です。