雨宿り
真夏のリハビリ企画参加の第三弾。
注意、この物語は架空のお話です。
廃墟への浸入は不法浸入です、立派な犯罪ですので絶対真似しないでください。
一応ホラージャンルですので、苦手な方はお控えください、読もうとしていただけただけで私は嬉しいです。
勿論読んでいただけたらもっと嬉しいです。
真夏の夕方、山道をワゴン車が走り抜ける。
オカルト研究会の4人、夏休み期間を利用してドライブに来た。
運転している男はリーダーの阿部、奇妙な物事を好む。
隣で周りを見渡している男は分木、実は怖がりでUMAを研究している。
後部座席に座る2人の女性、左に居るのは千島は携帯を弄っている、彼女は占いが好き。
右に居るのは台崎、眠ってしまっているが都市伝説を語らせたら止まらない。
目的地は林の奥に眠っている廃病、A医院。
地元では有名な心霊スポットとして存在している。
千島は電波が入らなくなった携帯を閉じて外を眺めると鬱蒼とした林が続く。
突然車が激しく揺れる、窓を叩かれているような激しい音、暫くして車が止まると阿部は溜息をついて車を降りる。
タイヤを確認すると左前がパンクしている、スペアタイヤも無い、業者を呼ぼうにも電波がない、人を探そうにも対向車一台すら見ない。
阿部が途方に暮れていると車のドアが開閉する音がした、見上げると台崎が力無く車を降りて歩き出す。
窓を開けて分木が話した、車酔いしてしまい外の空気を吸いにいったらしい、しっかりしない足取りで何処までも行ってしまう。
阿部は全員車から降ろして台崎を追った、もしかしたら嘔吐を我慢しているのかもしれないが見失ったら厄介だ。
追いつくと台崎は振り向いて不気味な笑みを浮かべ全力で林の中に駆け出した。
慌てて3人で追いかけるが途中で台崎の姿を見失ってしまった、動揺する阿部、汗が止まらない分木、泣き出しそうな千島。
一度荷物を取りに車に戻る、台崎の事は心配だが辺りは薄暗い、手ぶらで歩くには危険すぎる。
戻ると窓にべったり大量の手形が付いていた。
2人を離し阿部がドアを開き中を確認、荷物を外に投げ出しドアを閉める。
安堵の息を漏らすと離れていた2人が大声を上げた、林から台崎が出て来たのだ。
4人は集まり一安心したかと思えたがまた台崎の様子が変わった、焦点が合わない瞳は林の奥を見つめている、ゆっくりと林の奥を指差した、その方角は先程台崎が出てきた場所。
千島は懐中電灯を林に当てると奥深くまで続く獣道がある、千島と分木は行きたくないと首を振るが、来た山道を戻るにも確実に夜になってしまう。
この場に待機し、朝に下山するのが一番賢い、一晩この車が宿になる。
台崎は時折先程の獣道を惚ける様に見つめる、日が完全に沈みかけたその時台崎が阿部を車の外に連れ出した。
その姿を茶化す分木と千島、日頃消極的な台崎がこの様な態度を取るなんて。
阿部の腕に抱きつきながら歩く女性は、見た目は台崎だが別人の様に感じる。
台崎の足が先程の獣道に向いている、このままでは阿部も連れてかれてしまう、異変を感じた分木が阿部から台崎を引き離すと台崎は突然泣き出した、千島が優しく台崎を抱きしめ落ち着かせる。
泣き止んだ台崎がまた獣道の先を指差す、優しい性格の分木は行けるとこまで行こうと言い出した。
千島は嫌がるが台崎はその場から戻ろうとしない、仕方なく阿部も道の先に行く決意すると渋々千島も付いてくる。
獣道を歩いていると日が沈み辺りは暗くなってしまった、LEDランタンを取り出し灯りをつけると奥の方に建物が見える。
薄汚れた壁に大きな入り口、数多くの割れた窓、当初の目的地だった廃病だ。
辿り着いてしまった、この場所に。
雨が降り出した、土砂降りで前が見えない程だ、急いで車に戻ろうとするが台崎が此処で雨宿りしようと言い出したのだ、正気とは思えないがその判断は正しい。
突然の雷雨で獣道を歩くのは危険、もし足を滑らせて山から転落したらそれこそ危険だ、4人は廃病に足を踏み入れた。
暗い建物は電気も通っていない、雨の音だけが木霊する。
廃墟の怖さは心霊だけではない、いつ床や天井が崩れるか解らない。
何より怖いのは人間、誰も近づかない廃墟には不法占拠者が居る可能性がある。
ホームレスや不良、どの道会話が成り立たない人間が多い、更に心配なのは千島と台崎、女性が居てそういう輩に遭遇するのは最悪な展開だ。
逸れないように阿部と台崎、分木と千島が手を繋ぎ歩く。
入り口の近くで過ごしたいのだが、それこそ誰かが来た時見つかってしまう。
一階は壁に落書きが多く見つかった、やはり此処では朝を迎えられない。
二階と地下へ続く階段を見つけた。
まずは二階を探索、踊り場に辿り着いた時、近くに雷が落ちた、窓から一瞬眩しい光が差し込む。
千島が悲鳴を上げた、雷などで悲鳴をあげる様な乙女では無かった筈だが……。
震える千島が雷が落ちた一瞬壁に不自然な影を見たという、分木は千島を励ます、本当は自分も怖くて堪らないのに千島の為に勇気を振り絞っている。
二階も同じく落書きだらけで、更に床には埃の上を歩いた足跡が残っている。
誰かいるかもしれない、もし千島の悲鳴を聞かれていたら、もし危ない人間が潜んでいたら、過去に肝試しに来た人間の足跡だと自分に言い聞かせる阿部。
4人は一階に戻る、地下への階段を除くとそこは闇、懐中電灯で先を照らすも先が見えない、阿部が先頭、分木が最後尾で女性2人を挟む様に整列して地下へ下る。
LEDランタンは明るく地下を照らす、しかし予想以上に地下は広い、意識しても自分の足音が響いてしまう。
カン……カン……
足音が響く。
カンカンカン。
足音が早くなる、阿部は振り向くと皆ついて来ている。
カンカンカンカンカン。
自分達以外の足音だ、阿部は台崎の手を引き走る、咄嗟に分木も千島の手を引きついてくる。
暫く逃げて、呼吸を整えて振り向くと2人が居ない、焦る阿部を台崎が宥める。
とにかく進むしかない、戻るにも何処から来たか解らなくなってしまった。
ゆっくりと進むと右側に伸びた通路から声が聞こえる、しかしそれは聞き覚えのある声、千島だ。
千島は必死に分木の名を呼びかけている、声のする方に台崎の手を引き向かうと2人と合流できた、分木は千島の手を引きゆっくりと歩いている。
阿部が頬を引っ叩くと分木は正気に戻った。
分木は優しい男だ、優しい心は憑依され易いと聞く、実際に体験するとは思わなかったが。
壊れそうな精神を抑え4人は個室に辿り着いた、他と比べて整頓されている。
この部屋で朝を待つ、長い夜が始まった。
雨風の些細な音に神経が反応する。
腕時計を見るともう夜中、あと3時間で日は登るだろう。
突然台崎が息を乱しながら阿部に馬乗りになる。
そして台崎の手が阿部の首に伸びる、目を見開き阿部の首を締め上げていく。
慌てて分木が台崎を取り押さえて引き離す、千島が台崎を抱き寄せると落ち着いた様だ。
時間は流れ雨が止み、日が昇る時間になった。
阿部も分木も一睡もできずに朝を迎えた、一階へ上がると割れたガラス張りの扉から日が差し込んでいる。
雨宿りが終わった。
車に戻ると手形は消えていた、歩いて山を下り業者を呼んで車を回収した後、近くの寺に向かった。
神聖な力でお祓いをしてもらい、4人は無事に帰ることができた。
千島は強い守護霊によって守られていたらしい、分木は男の霊を憑けていた、問題は台崎。
台崎に憑いたのはあの病室で亡くなった女性、A医院の院長に底知れない恨みを持っていたらしい、真実を聞かされたのは台崎だけ。
別室で待機していた阿部達の元へ泣きじゃくりながら帰って来て、台崎はこう言った。
愛しさと悲しみと憎しみが阿部に対して溢れ抑えられなくなったと。
もう2度と近づかないだろう。
あの阿部医院には。