上世界についての備考
さて、ここで話をいったんそれて、上世界と諸々のことを述べておきたいと思う。
――言ってみれば、舞台設定のメモ書き欄である。
この世界は、はるか大昔、世界が創世された頃は一つであった。しかし、神の判断により世界は半分となった。それが上世界と下世界である。
同時に、一年十二ヶ月も半分とされ二つの世界に振り分けられた。上世界に、四月、五月、六月、七月、八月、九月。下世界に、十月、十一月、十二月、一月、二月、三月といった具合に。
実際には、その一ヶ月を司る月姫と呼ばれる乙女たちが分けられたのであるが。
二つの世界は互いに干渉することなく、それぞれの歴史を歩んできた。
しかし、今から十九年前に〈大喪失〉なる事件が起きた。
何の因果か、下世界は上世界よりもはるかに科学を発展させた。科学の力で増長した傲慢さで彼らは天の神に挑もうと考え、バベルという塔を建設した。そして、バベルは天を貫くよりも前に、下世界の大地を貫いた。
ここに、上世界と下世界の初対面がなされ、それは初の戦争となった。
科学力に圧倒的に優る下世界は上世界を蹂躙した。上世界のほぼすべての土地が戦火の炎で焼き尽くされた。だが、最後の一歩のところで辛うじて上世界が踏みとどまれたのは、彼らの神への厚い信仰心であり、月姫とそれに仕える月守のおかげだった。
バベルは壊され、下世界側にも甚大な被害が出た。
そこで両者は終戦の協定を結んだ。
しかし、戦況は圧倒的に下世界が有利だったため、上世界は対価を支払わなければならなかった。
この時、上世界から四月、七月、八月の月姫が奪われた。
よって、上世界に残されたのは五月と六月と九月の三ヶ月となった。
今、上世界はかつての営みも忌々しきバベルもすべて水の底に沈んでしまっている。
地平線のずっと向こうまで延々とつづく、水面。
その中で、唯一、山の連なりが――現在、暦は九月であるから、紅葉で色づく木々が――顔を出している場所がある。
山は上から見ると、環状にまるくなっていて、その中の盆地に上世界の全住人が暮らしている。
そこは四が里という地名。そして、全体はおおよそ東西南北に分けられ、それぞれを東四が里、西四が里、南四が里、北四が里と呼ぶ。
レアの家があるのは南四が里で、今日、その外れの森に母の手紙に導かれて彼女は行き……その後に起こった事はすでに述べた。
そんなレアが悲鳴を響かせならがラケルとキュウビにぐんぐん猛スピードで連れて行かれる先は、東四が里のグレゴリアン女学校。学校といっても、山の中腹を切り開かれた土地に二階建てのこじんまりした校舎があるだけ――ちなみに、二階は生徒たちの寮部屋――。それでも、上世界には学校という教育機関はここ一つしかなく、よって、ここに集う十三才から十五才の女子たちが如何に特別かは分かるだろう。
――設定おわり。
話を戻す。場所はかくいうグレゴリアン女学校。