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エメラルドの涙

五つの分かれ道を通ったレアは、雑木林を抜け、広い空き地に出た。

そこには一本の大きなイチョウの木が立っていた。

レアは嬉しさのあまり、その木に駆け寄って幹に抱きついた。


「やった!やったよ、お母さん!私、お母さんの最後のお願いを叶えることができたんだ!」


それから、レアはイチョウの幹から離れると、辺りをきょろきょろと見まわした。

ポーチから封筒を取り出して手紙を見る。


「うーん?『ある方をお迎えしてもらいたい』って誰のこと?てっきり、ここで誰かが待ってるって思ったんだけど……。え~、誰もいないじゃん。もしかして、もしかしちゃうと、これって、お母さんの最後のおちゃめないたずらだったりする?いやいや、さすがに、ね~。……え?ほんとに?」


レアはイチョウの周りを時間をかけて一周してみる。

見えるのは四方を取り囲む紅葉した木々だけ。

何も見つからず、とほうに暮れて首をがっくしと下へ落とした。


すると、その視線の先に祠があった。

今まで気づかなかったのが不思議なくらい、イチョウの木の根っこに挟まるその祠は、石が積まれただけの小さなものだったが、ありありと違和感が漂っていた。


レアはしゃがみ込んで祠の中を覗く。

何かがきらりとした気がして、手を伸ばした。つかんだ物を外へ出す。


太陽に照らされてまぶしく輝くそれは、握りこぶし大もある大きなエメラルドだった。


「わあ、きれい……でも、どうして、こんな所にこんな物が?……あれ?これ、なんだろう?」


エメラルドの表面には文字が刻まれてあった。

彼女にはまったく読むことができなかったが、文字は全体で形をなしていて、一個の紋章のように見えた。


次の瞬間だった。


エメラルドが輝き出した。

いや、輝くという生半可なものではなく、緑色の光が辺り一帯を埋め尽くして、大きな柱となって天を貫くかのよう。


あっけにとられていたレアは、ハッとして、エメラルドを投げ捨てた。


「あつっ!あつい、あつい、あつい!えっ!うそ!なによ、これっ!」


さっきまでエメラルドを握っていた右手の甲に、周りの緑の光よりも一段明るい緑の線が浮かび上がっていた。

それはエメラルドの表面に刻まれていたあの紋章と同じ。

レアは焦って擦るが、どんなに擦ってみても、紋章は消えない。


そのうち、辺りの緑の光はおさまった。

が、レアはそれに気づかず、右手甲を擦り続けていた。その紋章も薄らいでいき、消えてなくなった。

彼女はほっと安堵の息をついた。


突如、レアの左頬を強烈な痛みが襲った。


「どのツラさげてのこのこと来やがったッ!サラ!」


レアが頬を押さえて顔を上げると、衝撃でちかちかとする視界に人影があった。

すらりと高い背丈。長い髪は緑色。緑色の着物。胸元の少しの膨らみから察するに、性別は女?


そんな彼女が拳を握りしめてエメラルドの瞳をあかあかと燃やしてレアのことを睨んでいた。


女はレアの胸ぐらをつかみ上げた。

両足が地面から離れて、ぶらぶらとする。


「この裏切り者がッ!分かってんのかッ!お前のせいでハガルはたった一人で――ッ!おい!サラ!何とか答えやがれッ!」

「ちが……う……」

「あぁ?何が違うっつんだ!裏切り者がッ!」

「ちがう、私……サラ、じゃない……」


女はレアの胸ぐらを離した。

地面に尻もちをついたレアはげほげほと咳き込む。


「何すっとぼけたこと言ってやがる!お前、どっからどう見てもサラだろうが!」

「ちがう。サラは……げほっげほっ!……私の、お母さんの名前。私は、レア」

「レアだとぉ?クッ――!サラ!この期に及んでオレ様をからかいやがって!裏切り者なら裏切り者らしく、少しは態度を改めやがれッ!」

「ちがう、ほんとだってば……」


レアは手に持っていた母親の手紙を差し出した。

女は手紙を奪い取り目の前まで持っていく。


「まさか……本当に、こいつがサラの娘、なのか……そういや、確かにサラより一回り小さい気もするが……おい、お前!サラは今どこにいやがる!オレはあいつに一発ぶちかまさねえと気がすまねえんだッ!」

「そこにもちゃんと書いてあるでしょ?『最後のお願い』って。私のお母さんは――サラはちょうど七日前に病気で死んだんだ」

「サラが、死んだ?冗談だろ……」


女はたった数行の手紙を何度も繰り返し読んでいるようだった。


レアは女のエメラルドの瞳からつぅっと一筋の涙が流れるのを見た。


「クソッ!胸糞悪い!」


女は手紙をくしゃくしゃにして投げ捨てると、くるっと背中を向けた。


「そこのお前。オレ様の完全なる勘違いだ。殴ってすまなかったな……。だが、これだけはハッキリ言っておくぞ!オレ様はお前を絶対に認めない!お前なんかこの世に産まれてこなきゃよかったんだッ!」


次の瞬間、またも緑の光。

しかし、今度は天を貫くほどの強烈さはなく、レアのまぶたを一瞬閉じさせるだけ。


ゴトリ――


握りこぶし大のエメラルドが地面に転がった。


レアはそれを見てぽつりと呟く。


「月姫……」

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