母の遺言
九月のとある日の昼下がり。
雑木林の中で、一人の少女が立ち止まっている。
服装はかなりの軽装。ちょっとそこまで散歩にといった風。そして、荷物は肩から提げているポーチだけ。
「右~♪右~♪左~♪と来たからには、ここは右だよね!」
少女、レアは左右の分かれ道のうち、右の方を選び歩き出した。
が、五分も歩かないうちにまた左右の分かれ道にぶつかった。
「もうこれで五回目っ!嫌になっちゃう!さすがの私でもうんざりしてきて、気分はだだ下がりだよ……」
レアはポーチから封筒を取り出した。
中の手紙を開く。
『レア、お母さんの最後のお願いを聞いてください。
あなたにこの地図の場所に行って、ある方をお迎えしてもらいたいのです。もしあなたが私から何か一つでも受け継いでいるとしたら、きっと無事にたどり着けるでしょう。
その後のことは天なる神のお導きに身をゆだねなさい。
万が一、たどり着けなかった時は、東四が里のグレゴリアン女学校のエリという教師にこの手紙を渡してください』
「地図って、お母さん、これ、全然、地図になってないじゃん!森の入口が書かれてあって、ゴール――たぶん、ゴールだよね?――の木の所にばってんが書かれてあって、たったそれだけ!その間は全部まっしろ!まっしろにしちゃいたいくらい簡単なのかなって思ったら、五回も分かれ道!こんなの聞いてないよ~、お母さん~……はあ……」
レアは手紙を胸に持っていった。
うるっときそうになった顔を両手でバシバシと叩いた。
「だめだめ!私はもう13才だし、泣いたりなんかしない!それに、一年が三ヶ月しかない短い人生をお母さんの分まで明るく精一杯生きるって決めたんだ!よし!今はとにかく、前にぃ~、進めっ!」
レアは左右の分かれ道を交互に見比べた。
どちらも同じくらい木が茂っていて、同じくらい暗く、同じくらい道は奥へと続いていた。
レアは鼻の先に人差し指を当てた。
「右~♪右~♪左~♪右~♪お次は左~と見せかけて~♪もう一回、右!」
そして、レアは確信した足どりで分かれ道の右を選び歩いていった。