おっさんが二人の昔話
「あかん。寒うて寝られへん。」
でかいおっさんはつぶやきダンボールを敷き詰めた寝床から起き上がった。
季節は冬。
家を持たないでかいおっさんには辛い季節だった。今日は今年一番の冷え込みでこの辺りでも死人がでるだろうとでかいおっさんは考えていた。
「おい、まっちゃん。まだ寝てへんやろ?」
でかいおっさんは隣のダンボールハウスに話かけた。
「なんやタケちゃん。遅くにどないしたんや。」
ダンボールハウスからハゲたおっさんが顔を出した。
「寒うて寝られへんねん。酒持っとったやろ。ちょっと分けてくれや。」
「あんなん飲んでもてあらへんがな。酒やったらせいちゃんがウィスキー持ってたで。」
「せいちゃんて公園で寝とるせいちゃんかいや?」
「ちゃうちゃう。職安の前で寝とる歯ぁ無い方のせいちゃんや。」
「ああ、あの歯抜けかいや。あのダボこの前寝床の縄張りで口きいたったのにロクに礼も言わんで、ほんまごう沸くわ!よっしゃ、ちょっともろて来るわ。」
そういいでかいおっさんはせいちゃんと呼ばれる歯抜けのおっさんの元に向かった。
10分後
「お、タケちゃんどうやった?貰えたか?」
「まっちゃん起きとったんかいや。歯抜けのガキ、さらのウィスキー二本も隠し持っとったから一本取り上げてきたったわ。」
そう言いタケちゃんは上機嫌で笑った。
「せいちゃんちょっと前まで原発の仕事行ってたから奮発したんやろ。」
「なんせ、ええ酒が手に入ってゆうこと無いわ。まっちゃんも飲むやろ?コップ持ってきいな。」
「ほな遠慮無く。」
そうしてでかいおっさん(タケちゃん)とハゲたおっさん(まっちゃん)は酒盛りを始めた。
酒盛りを始めて二時間。ウィスキーも残り少なくなってきている。
「あかん、ようけ飲んでもたー。酔っ払ってもうたわ。」
「なんやまっちゃん。もう酔うたんかいや。」
「そういうタケちゃんも酔うとるやんか。さっきからおんなじ話しとるで。」
そういってまっちゃんは笑った。愛嬌のある人懐こい笑みだった。
「なあ、タケちゃん聞いてええか?」
「なんや畏まって。どないしたんや?」
「いやな、この辺住んでるもんが昔の事話したがらへんのはわかっとるんやけど、俺らつるみ出してもう10年なるやろ?」
「もうそんなたつか。」
「せやからな、俺はここらの奴でもほんまに気許せるのはタケちゃんだけやねん。強面で恐がられてるけど芯が通ってるとこ見てたらカッコええなって思うねん。こんな生活してたら後何年生きてるかわからへんけど、親友が昔なにしてたかちょっと気になってな。」
「なんも大して面白い話ちゃうで。」
「ええねん。聞かせてや。」
「まあなんや。噂で聞いとるかもしれへんけど極道してたんや。もう30年以上前や。ほんで下手うって豚箱入って出てきたら組は解散しとってな。行くとこも無いし、他に出来る仕事も無い。気がついたらここのドヤに流れてきてた。それだけや。」
タケちゃんは遠くを眺めて言った。
「後悔してないゆうたら嘘になるけどな。当時の儂はそうするしかなかったからのう。最近はそうでも無いけど、昔は殺した相手が良く夢に出てきたもんや。」
「ん?タケちゃん人殺したんか?」
「ああ、口が滑ったわ。これは話すつもりなかってんけどな。忘れてくれや。」
「いやかめへんねん。話してくれて嬉しいわ。それに人殺したゆうことなら俺も大して変わらへんわ。」
「ほんまかいや、まっちゃん。そんな風に見えへんけどな。」
「いや、俺は直接殺したわけちゃうねんけどな。今でこそこんなんやけど昔はこれでも銀行員やったんや。バブル弾けた頃は大変やってな。その頃融資課長やってんけどな、ここで融資したらなこいつ首くくらなあかんなと思ってもなんもでけへんかった。担当先の社長さん何人も自殺しはったな。」
「そうゆう時代やったんや。まっちゃんは悪ないやんけ。」
「そうゆうてくれるのは嬉しいけどな。可愛がってくれた人が自分の力不足で死ぬのは辛いで。ほんで嫌になって銀行やめてな。色々仕事して、一時は自分で経営もしてたんやけど、信用してた部下に金持ち逃げされてな。どうしようも無くなってここに流れてきたんや。」
まっちゃんは力無く笑った。
タケちゃんは空を見上げながらコップ酒の容器に入れたウィスキーを飲んでいる。
「暗い話になってもたな。ごめんやで、せっかく酒ご馳走してくれてんのに。」
「いや、かめへん。」
「寝よか。もう遅いで。」
「そうやな。ゆうても明日の予定もなんもあれへんけどな。」
「ほんまやな。生きてるだけや。」
「・・・生きてるだけや・・・」
タケちゃんは空を見上げている。まっちゃんはタケちゃんを見た後同じように空を見上げた。
「やり直せたらええのにな。」
「・・・そやな。」
二人は空を見上げた。雪が降り出した。
二人のおっさんは目を瞑る。
雪は二人のおっさんの体に積もり、そのまま二人は起き上がる事は無かった。
初投稿です。
初回は重めですが、軽く笑える作品になればと思います。
次回からが本番です。