不安は募る
朝起きると、夫の食べ散らかした後があって、機嫌が治ったのかどうかよくわからなかったが、私が目を覚ましたことに気がつくと、とりあえず水を飲めと気遣ってくれた。
家のことは気にしなくていい、とりあえずこれで病院へ行けと、お金も置いていってくれた。
行ってらっしゃいと見送ると、玄関の外で夫が怒鳴っているような独り言が聞こえた。
よくわからない。
布団の中で、数時間過ごし、脱け殻のような気持ちで仕度をして、タクシーを呼んだら、夫から連絡があった。
きっと心配してくれているのだ。
よくわからない。
タクシーでは、⚪⚪病院前までと言ったのに、適当なところに下ろされそうになったのを「実は前回、救急車で運ばれてきたから建物を見ていないんです。降りたらどちらに歩いて行けばいいですか」の一言二言で回避する。とことん、ツイていない。
病院に着いたら着いたで、大きな病院の為、受付までたどり着くのも一苦労で、あれを持って、これを首から下げて、あっちへ行って、ここを曲がってと、そこそこ健康体でもしんどい距離を歩かされた。
採血をして、ひたすら結果を待つ。
予約じゃないから待ち時間が長くなると前もって聞いていた。仕方がないことだ。
2時間程待ち、やっと呼ばれて、問診と内診を受ける。
内診されながら、「うん、これから熱が出るよ」と言われて、何もそんなところを触りながらで無くてもいいのにと思った。
結果は、子宮内膜症と卵巣の腫瘍。
「手術も視野に入れて考えましょう」とか「いざ治療を始めたら、妊娠しずらくなってしまう」とか、そんなに悪いのかと愕然とする。
次回の診察でMRIをとり、結果によってはいよいよ手術、あるいは本格的な治療に移るという。
また、人に迷惑をかけてしまうなあと思った。
夫からまた連絡があったので、その事を伝えると、「しばらく仕事を休んだら?」という。
夫は賢い、高卒パートの私とは違い、早稲田の大学院を優秀な成績で卒業し、一流企業に勤め、自分の親くらいの年の部下を纏めるエリートだ。
だからきっと、大体の判断は正しい。
その夫がそういうのならば、きっとそうするべきなのだろう。
職場になんと言おう。電話越しなら、相手の嫌そうな顔を見ずに済むけれど、それにしたって気が重い。
会計を済ませ、処方箋を持って薬局へ行き、薬を貰ってからタクシーで帰った。
近所のスーパーに下ろしてもらい、昼飯の弁当と、夕飯にきつねうどんの材料を買った。
家に着いたら、気持ちがぐちゃぐちゃして、大声で喚きながら、とりあえず洗い物と洗濯をした。
食欲はなかったが、栄養をとるためだけに、弁当を口に運び、咀嚼した。味もろくに分からなかったけど、お茶で流し込み、薬を飲んで寝ようと思った。
大好きなジンベエザメのぬいぐるみ、ジンペーちゃんを抱っこして泣いた。
普通の人が普通にやっている、妊娠出産、仕事が出来ない自分が、社会に必要とされていないような気がして泣いた。
まして、夫もイライラしている。他人なら尚更、理解してくれないだろう。
転勤族だから、一人で誰にも頼れない。
ジンペーちゃんに、飲み込まれてしまいたいと思った。
はたして自分は、わざわざ治療するほど価値のある人間だろうかと考えた。
一通り泣いて、泣きながらTwitterに活動が少なくなると投稿した。
誰でもいいから、慰めて欲しかったのだ。
虚しい気持ちまま、きつねうどんを作って食べた。
温かい。
そのまま目を閉じて寝た。
夫はまだ帰らない。