紹介状をもらう
現金なもので、水族館に旅行に行って以来、私はすっかり自信と元気を取り戻していた。
暢気に水族館で買って貰ったぬいぐるみで遊ぶ余裕まで出てきて、ご機嫌な毎日である。
とはいえ、このまま自由気ままに遊んで過ごすつもりはない。
以前から聞いていた夫の転勤が、ついに東京に決まったので、引っ越しに向けてたくさんやることができた。
荷造り、手続き、数えたら切りがないが、とりあえず病院に連絡をし、理由を話すと紹介状を用意してくれるという。至れり尽くせりだ。
というわけで、突然の別れ。最後の通院である。
診察室に入るなり「聞きましたよ」と先生。「また、ずいぶんと遠くのほうに┉┉」
そうなんです、と私は答える。「東京のほうになるのですが、実はまだ住所が決まっていないので、もし可能ならば、病院を指定しない紹介状を頂けませんか」
先生は、私の後ろに立っている看護師さんを見た。「だそうなんですが」
看護師さんは、申し訳なさそうに、「手続きの都合上、病院名を空欄にすることは出来ないんです」と言った。
そうですか、と私は呟く。「それじゃあ、念のために下調べしていた病院がありますので、そちら宛にお願いします」
そんなこともあろうかと、目星をつけていて良かった。
紹介状に必要な情報を一通り伝えると、今度は処方箋の話に移った。
「もしかしたら、転居先で忙しかったりして、病院に行けないこともあるかもしれませんから、多めに薬を出しておきますね」と先生が言う。
本当に親身になってくださるいい先生だ。出来ることならずっと通い続けたかったなと、少し残念に思った。
紹介状を受け取り、会計を済ませ、多めに出してもらった薬を貰う。
薬局のお姉さんが、「良かったらどうぞ」と温かい缶コーヒーをくれた。
東京に行っても、いい病院が見つかるといいなと思った。




