MRI検査
朝、夫が抱きしめて、頭を撫でてくれた。
いよいよMRI検査の日だ。
タクシーで病院へ向かい、事前に聞いていた受付や手順を踏み、放射線科へ向かう。
窓口のお姉さんに予約表を見せると、チェックシートシートを書くようにと言われた。
検査に当たり、金属を身に付けないようにという念押しで、私はメガネとスマホ以外は特に当てはまらなかった。
チェックシートを返すと、「お預かりします。看護師が呼びに来るまでお待ちください」と言われ、私は大人しく近くの椅子に座った。
すると、窓口のお姉さんが慌ててこちらにきたので、何か不手際があったのだろうかと立ち上がったら、「お手洗い、先に済ませておいてくださいね」と囁かれた。
お姉さんの人柄もあって、2人だけの秘密だよと言いたげなその雰囲気に、少し和んだ。
5分もしないうちに、陽気な看護師さんが呼びに来た。第一印象で「陽気な人」と感じることは早々ないように思うが、彼女はやはり陽気な看護師さんだった。
名前と検査部位を確認され、大まかな流れを説明される。私はふんふんと、頷くだけだ。
「それじゃあ、早速検査に┉┉あっ、トイレはいいですか?」看護師さんが指さしたので、すぐ目の前にトイレがあったことを知る。
私は無意識に、トイレを見つめながら順番待ちをしていたのだ。
「大丈夫です」と答えると、こちらですと案内され、RPGのように、私は看護師さんの後ろを着いていった。
ロッカー付の試着室のような場所に案内され、「貴重品は全てロッカーへ入れて、必ず鍵をかけてください。メガネも平気なら外しちゃって下さい。靴下はそのままで、肌着一枚になって、これを着てくださいね」とペラペラの服を渡された。「お着替え終わったら、ピンクの椅子でお待ちください」
私は試着室のカーテンを閉めると、言われた通りに着替える。視力が頗る悪いのでメガネは、そのままだ。ロッカーの鍵をかけ、ピンクの椅子で待つ。
ピンクの椅子は4人掛けソファーのような長椅子で、3つ程並んでいたが、待つのは私一人だけだった。
寒さを感じることはなかったが、不意にくしゃみが出た時に、看護師さんが何処からともなく現れた。手に、注射が入ったトレーを持っている。
「これから痛い注射をします」看護師さんがあくまでも笑顔なので、冗談だと思い、私は本当に陽気な人だなあと和んだ。
看護師さんは看護師さんで、そんな私の心を見透かしたのか、「本当に、痛いんです。ごめんなさい」と、何故か謝った。
先に金属検査をすると言われ、変な機械の前で1週周るようにいわれる。問題なかったようで、すぐに注射にうつった。
注射は、本当に痛かった。針を差した瞬間はなんてことはないのだが、液体が入ってきた途端にズシッと腕が重くなるような痛みがあって、思わず「ぐぁあ┉」と撃たれた兵士のような声がでた。
「痛いねー、ズシッときますよねー、ごめんなさいねー、ここ揉んでおきますねー」と、無意識に韻を踏む陽気な看護師さん。返事をする間もなく、針を抜いた皮膚を揉んで、またどこかへ消えた。なすがままである。
どうぞと呼ばれ、中に入った瞬間に、メガネと鍵を預けるように言われた。こうなるともう、よく見えない。
こちらを頭にして、仰向けになって下さいと優しい技士さん。私は手探りで、恐る恐る仰向けになる。
微調整の後、動かないように腹部を拘束される。「ちょっときつめに絞めておきましたからね」と陽気な看護師さんが言うと、優しい技士さんがふふふと可愛く笑った。私はよく分からなかったが、ありがとうございますと答えた。
「お腹に重しを乗せますね」と技士さん。必要な器具なのは間違いないが、これがなかなか重くて、圧迫された下腹部が痛かった。でも我慢できない程ではない。
「気分は悪くないですか?」
私は大丈夫ですと答えた。
「ちょっとうるさくなるので、ヘッドフォンをしますね」と技士さん。
「寒いと行けないから、毛布掛けますね」と看護師さん。
至れり尽くせりだ。
2人が別室へ移ると、ヘッドフォンからヒーリングミュージックが流れてきて、私の体は機械の中へとゆっくり吸い込まれていった。
ゴオンゴオンゴオンゴオン。
ガアンガアンガアンガアン。
ポッポッポッポッポッポ。
ヒーリングミュージックは、機械の音に完全に負けている。残念だ。
10分程経って、造影剤を注射され、再び機械の中へ。もうヘッドフォンは当てにしていなかった。
「終わりましたよー」とヘッドフォンから声がして、ハッとした。少し眠っていたのかもしれない。
機械の外に出され、具合が悪くないか確認されながら、拘束を外される。
「先に外しておきますね」と看護師さんが言うと、技士さんがふふふと笑った。やはりよく分からないけど、私はありがとうございますと答えた。仲が良さそうで何よりだ。
メガネと鍵を受け取り、着替えて、会計伝票を受けとる。結果は明日だと言われて、そのまま会計して帰ることになった。
会計の待ち時間に、職場に退職する旨を電話した。私が職場で倒れた時に、救急車を呼んでくれた方が出た。
「よく頑張ったね」「寂しくなるよ、お大事にね」と、思いがけない言葉に涙が零れそうになったが、迷惑をかけて申し訳ない、手続き等でも面倒をかけるけど、どうかよろしくといったことを伝え、電話を切った。
深く溜め息をついて、会計をする。
1万円。やはり、MRIは高い。