5-2
「この本面白いわね」
何気なく書斎の棚から手にして読んでみたもの、と言って読み終えたばかりでこちらに渡してくる。
「どんな話?」
「双子で生まれてすぐ別々に暮らすことになる兄妹のお話」
「ジュグでは双子は不吉だからね」
「エルジプスでは聞いたことないわ」
他愛ない国の習慣の話をして、いるとシアンが入っていいかとドアをノックしてきたのでルシーダが自室へ戻った。
「なあ、ファフ……」
シアンが考えながら話す準備をする。昔から快活のわりに、皇帝関係のときは考え込む癖があるんだよなあ……
おそらく、今回の敵について話したいのだろうと検討はつく。
「どうかした?」
「今更だが、ルシーダという女、信用して大丈夫か?」
その問いかけは、想像していなかった。
彼女が怪しいなんて最初からわかりきっていることで、どう答えるか考えつかない。
「え、それはほんとに今更だね。今回のことで気にかかることでも?」
妙に冷静になった。感情のない、定型文のような生返事をする事しかできなかった。
「まず正体がバレていない。……なんて、都合のいい選択肢は無くして考えていいぞ。ルシーダが傍にいたから、お前の正体がバレたんだろう?」
「……つまり、皇帝を守りに来たのが真実であろうとなかろうと、より危険になったということだよね」
「……わかってるんじゃないか。てっきり篭絡されて完全に信用しているかとばかり」
「僕は彼女がどう動こうと殺されるつもりはないから」
「ちゃんと皇帝らしい言葉も言えるようになったか……補佐としては安心したよ」
「そっか、じゃあまだ納得いってない事ある?」
「無い事もないが……流石に今から本人に問いただすわけにもいかないだろう」
「それもそうだね」
「確認なんだが……万が一、奴が裏切っていたらどうする?」
「別に、向こうに戻れなくすればいいと思うけど?」
「まだ話してるか……」
エギーユは、次のイベントについて二人に話をしたかったが、ドア付近からピリついていて、とても入れる雰囲気ではなかった。
このままこっそりと部屋から離れたところを見計らって、ドアが開いた後に改めて二人のところへ偶然を装っていく。