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皇帝陛下の絶盾  作者: 滝革患
皇帝陛下の絶盾
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皇帝陛下の絶盾 一話

 

 帝国の創成記念日。民達が城前に集まり皇帝の言葉を待つ。


「見ろ皇帝陛下だ」

「陛下~!」


 覆面で顔を隠した男、皇帝ファフトーンが民に手を振る。

 厳重な警備と絶対の防壁により周りを取り囲む6つの領地。

 またの名を(しょく)国から尊ばれる中心たる空中の庭園、大帝国ジュグジュプス。


「またの年も皆が豊かであるように、余は尽力しよう」


 滞り式典は終わり、着替えを済ませる。

 いつもは皇帝であることを悟られぬよう、貴族の子を装いながら暮らしている。


 一定の年になるまでの暗殺防止や皇帝として威厳が出るまでの配慮だ。

 ジュグの皇帝は20歳になると不老不死になり、自分の好きな時に死ねるのだ。

 先代達は早々に隠居し、旅をしながら気ままに暮らしている。


「ふー」


 移動を誰にもみられず安堵した矢先の事だった。


「貴方、ジュグの皇帝よね」


 黒髪の褐色の少女が問いかける。

 系統の似たアラビンやインダやトロカピアンと微かに事なり、あまり見慣れない装束だ。


「え、なんのことかな!?」

「私はエルジプスの宰相ルシーダ」


 エルジプス、ジュグの下に住まう地下の帝国都市。

 大昔に砂漠だったが、水没により滅び、伝説上に過ぎないもののはずだ。


 彼女はこちらに来た経緯をすべてを話してくれた。

 エルジプスは歴史とともに地下に葬られたが密かに文明は残っている。

 そしてエルジプスの女王はジュグの皇帝、つまり僕を暗殺しようとしているらしい。

 だから女王を裏切り、僕を護りに来たのだという。

 それが真実かはわからないが、暗殺に来たならわざわざ正体を明かす必要はない。

 だから一先ずは様子を見ることにしたが、城に滞在するなら周りの意見を聞く必要もある。


「えっと……」


 まずは信頼できる従兄と幼馴染に相談する事にしよう。


「古代地下都市から妖艶な美少女が現れて貴方を護りに来た?」

「うん」


 侯爵の息子で幼馴染のエギーユ。


「寝言は寝てから言ってくれよ」


 公爵の息子で従兄のシアン。


「いや、だって記念日に騒ぎを起こすわけにはいかないからさあ……」


 二人は怒っているというか、あきれている。


「まあこればっかりはファフに非はないか」

「そうですね」


 皇帝だと知っていても産まれた時からの付き合いだけに周囲の目がないときは遠慮がない。

 それに皇帝の姿をしていない時の立場は父の実家の伯爵家の次男という設定で二人より身分が低い。


「リア、彼女は異国からの賓客なんだ。陛下からもてなすようにと言われて男の僕にはドレスのセンスがないから君が服を選んでほしい」

「わかったわファフ」


彼女は伯爵家次男の時の仮の婚約者である。皇帝であることは知らされていない。

 不死皇帝が子を授かると赤子のままで成長が止まり邪魔になるので正体を明かす20になったら婚約を解消しなくてはならない。

 そもそも即位は男女順番制で継ぎの皇帝はシアンの公爵家から女児が選ばれる。


「おまたせ」

「ああ、うん」


 ルシーダはエンパリヤ風の腹部を締めないゆったりタイプのドレスだ。

 黒髪を引き立てるように淡い色のドレスで、まあ服はどうでもいいけど彼女はとても美人だと思う。

 ただあまり似合っていない気がするのはさっきの服が一番似合っていたからだろう。


 あまり城内を彷徨かれては彼女がスパイなら内装やら情報漏洩などするので父の実家である伯爵家で隔離することになった。

 母の実家は城に近いし、母の妹の子シアンの家でもあるからだ。


「えっと、あからさまに信用してなくてごめんね」

「このくらいの警戒は普通だし、なんなら地下牢で拷問したっていいのよ」


 彼女はこちらが脱帽するくらいの潔さだ。

 それより建国祭りはどうなっているだろうか、気になるが何故だか彼女から離れてはいけない気がする。


 ■■


「ロシトン大将、ご報告します!」

「はあ……報告とか面倒だからモナシーが聞いて、大将とかカッコ悪いからあんまでかい声で呼ばないでスーシーなんて握らないし」


 ミルクティーのような髪色をした男は気だるげにあくびを噛み殺した。


「城の警備はどうだ!」


 深朱紫(しんしゅし)髪の女が問う。


「は、問題ありません、モナシー大将補佐!」

「だそうです大将!!」


 ■■■


 彼女が現れて数日、案外なにもなくて平和だ。


「陛下、本日の最重要書類です」


 配下の持ってきたものはある国からの手紙だった。


「外交?」

「隣国であるヨウコウコクから招待状が届いたんだ」


 さすがに皇帝は行かないが、それなりの身分の男女かつ裏切らない者を外交官にする必要がある。


「ではエギーユとファフがいったらいいんじゃないか?」


 とシアンがいうので、それでいいかと納得する。


「婚約者が同伴するなら私はエギーユと同伴するから」


 うん、まあそれが自然なんだろう。でもなんか複雑な気分だなあ。それが何にたいしてなのか、自分でもわからない。


「あとは……」

「護衛でしたら我々にまかせてください」


 向こうのルールはしらないがあまり大人数で行くのは敵意があるという意味で、マナー違反になる。

 騎士団からは絶対の剣と呼ばれるロシトンとモナシーの二名のみが同伴する事になった。


「よくぞいらっしゃいました」


 第一王子パイティングが出迎えてくれた。


「皆麗しい女性をお連れだな」

「俺はあのお嬢様がタイプだ」


 王子の配下たちは小声で噂話をしている。


「本日皆さんをお招きしたのは――ある重要な情報を手にしたからなのです」


 なにやらただならぬ雰囲気だが、ひとまずは話を聞いてみよう。


「それは戦や不況などの危惧なのですか?」

「いえ、あの大盗賊についてです」


 盗賊といえばアラビンのラマー一族が有名だ。彼等は盗賊に加えて暗殺者も兼業している。

 以前はアラビンやインダで活動をしていたが、ここ数年は姿を表さない。


「消えたとされていたラマー一族が最近になってヨウコクにて活動を再開したようなのです」

「……それは、つまり他国にも再び危険が及ぶ可能性がありますね」


 これからヨウコクの被害案件の確認と、こちら側に奴等が来た場合の対策について考えなければならない。


「もぐもぐ時間~」

「……もぐもぐ時間」


 ルシーダがモナシーの言葉を真似る。盛大な食事会が開かれて、飲めや歌えやの騒ぎになっている。

 しかしヨウコクには品位があるのか、それほど悪酔いしていない。


「あの金髪は貴族令嬢らしい。あとの二人は騎士と平民だとさ」

「へーでも結構可愛いじゃん」


 あれは話し方からして貴族ではなく、平民からそこそこ成り上がった兵士だろう。


「なあなあ」

「一緒にあっちで飲まないか?」


 意図的に貴族のリアを避け、男達はルシーダへ声をかけたようだ。


「ルシーダ、エギーユが探してたよ」

「わかった」


 僕はリアの目を避けつつ、ルシーダを連れてバルコニーへ出た。


「婚約者は?」

「すぐ無かった事になるんだから、下手に関係を作ることも無いと思うんだ」


 仲良くなったらいざ離別するときに悲しいだろう。彼女は不死ではないから、伴侶にはできない。


「なら仮だって話しておけばいいのに、隠すと後がこじれる」

「それもそうだね……いつか話すよ」


 言ってしまうと彼女が傷つく。というのはいいわけだ。

 本当は偽りの婚約だと話して和やかな雰囲気が凍りつくのが怖いのだ。


「ところで、どうして私を助けたの?」

「君が心配だったから」


 それ以外に理由なんていらない。


「近くにはモナシーがいて、次は彼女が狙われるのに?」

「彼女には悪いけど君が無事ならそれでいいんだ」


 他の二人は彼女を信用していないし、だから助けるのは僕しかいないと思った。


「貴方は人をたらすのが上手い。私が馬鹿だったら騙されるくらいにね」

「それ……けなされてるよね?」

「私はそんなに賢くないわ」

「謙遜しすぎだよ」



「……では」


 先にバルコニーから会場へ戻ると、褐色の男がモナシーになにか声をかけて去った。


「どうしたの?」


 急に立ち止まったためルシーダは怪訝そうだ。


「ヨウコクには褐色の人が滅多にいないから珍しくて」

「……まさか」


 ルシーダは何やら知っている様子だ。


「もしかして、噂のアラビンから……?」

「断定はできないけど、モナシーさんに聞きましょう」


 なにを話していたのかはしらないが、当人に直接聞けば済む。


「それでは皆様、ダンスをお楽しみください」


 曲が流れてそれどころではなくなった。モナシーがロシトン、リアはエギーユと踊っているし、邪魔をしたらいけないだろう。


「踊らないの?」

「え、いいの?」


 ルシーダが手を差し出しているので、その手をとった。


「これはペア代え自由のダンスみたいだし、リアは貴方がいないから他の人たちと踊っている」

「エルジプスでも踊るの?」

「わからないから貴方がリードして」


 ダンスなんて楽しくないと思ってたけど不馴れな彼女を支えながら踊るのは新鮮で楽しい。


「疲れた」

「じゃあ端にいこうか」


 新しい曲ではエギーユとモナシー、ロシトンとリアが踊っている。


「どう思う?」


 エギーユは剣術は苦手だがダンスはそれなりにできる。モナシーと背丈が同じくらいでダンスのペアとしては合わなそうだ。

 リアは貴族の子女らしくダンスが得意だがロシトンに圧され気味に見える。


「仕事仲間か家庭向きみたいな」

「なにそれ……あれが終わったら仮婚約者をダンスに誘ったら?」


 それはまあ、周りから見れば一度も誘わないのは変か。


「リア、踊ろうか?」

「ええ!」


 こんな無邪気に喜ばれると、余計に罪悪感がある。


「私と踊っていただけませんか?」

「喜んで!」


 モナシーは休憩なしでパイディング王子とおどり始めた。彼女は騎士だけあって体力がある。

 エギーユとロシトンは休憩するようだがルシーダは大丈夫だろうか?


「よそ見しちゃって……珍しいわね」


 ■


 ファフトーンがリアと踊っている。これは婚約者同士なのだから普通だ。

 わかっていて、自分から勧めた事だというのにこの気持ちはなに?


「エギーユ、モナシーと踊れてよかったね」


 二席向こうのロシトンが他意なく言った。


「……しかし、彼女を上手くリード出来ませんでしたが」


 二人と会話はしたことがないが、冷静そうで読めない男とつまらない貴族の子息という印象。


「騎士団の紅一点と踊れただけいいじゃないか」

「これでは一行に近づけません」


 エギーユはモナシーに好意があるようだ。ファフトーンは友人の一大事に気がついているのだろうか?


 ■


「楽しかった~」


 約一名は外交というより観光だろうが、無事に帰還できた。


「観光……じゃなくて 外交はどうだった?」

「まあ楽しかったですよ」


 いつもツンケンしているエギーユは珍しく機嫌がいい。


「あいつなにか良いことあったのか……?」


 シアンが引き気味にたずねてくる。


「ダンスしたから……」

「ダンス?」

「ダンスパーティーがあってね料理の雰囲気も近いから良かったよ」

「それでなんで機嫌いいのかわからんな」


 エギーユはなにをしても喜ばない。まあ政敵が不幸に会ったときにはちょっと笑ってるかもだが。


「ボクネンジン、鈍感」


 ルシーダが呟くと、わかってきた。


「「……色恋沙汰!?」」

「うん」

「まさか相手知ってるの?」

「うん」

「誰だ」


 シアンがエギーユの弱味にくいついている。


「モナシー」

「あーだめだ。他の女なら応援したがアイツは絶対だめだ」


 シアンの目が座っている。


「地雷物件なの?」


 なぜだめなのか、ルシーダが問う。


「アイツには婚約者がいるんだよ。騎士団のマドンナ……ってことで何人も玉砕してる」

「エギーユはこの事しらないの?」

「普通に知ってるんじゃないか?その婚約者って俺だし」


 今とんでもない事をサラッと言い出した。


「私、修羅場を見るのははじめてかもしれない」

「僕もだよ」

「あくまで仮だ」

「仮?」

「モナシーはベルフラン子爵家の一人娘だが前にアブラギッシュ伯爵が婚約を迫っててな」


 たしかに公爵の婚約者なら手出し出来ないだろう。


「でも結婚する気ないのに婚約していいの?」


 公爵と子爵じゃ身分差もあり、仮とはいえ破談になれば社交界の笑い種になる。


「それをお前に言われるとな……」

「ごめん」


 ――自分は更に手酷い真似をしようと言うのだから言えた義理ではない。


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