勇者は魔王 一話・兄弟は敵の始まり
勇者は英雄、世界に仇なす悪い魔王を倒すもの。
俺の家は代々勇者の家系だった。
両親は早くに死んだけど、俺には一つ下の妹と年の離れた兄がいて家族みんな幸せで、少しも寂しくなかった。
小さい頃は妹と二人で兄貴についてまわった。
魔物が出ても兄貴がカッコよく倒して俺達を守ってくれた。
だから――――俺は勇者になんてなりたくなかった。
俺は特に剣に優れているわけでも、魔力があるわけでもない。
だから兄貴みたいな奴こそ勇者にふさわしい。
そう思っていたのに――――――。
兄貴は3年前、俺達を置いて行方不明になった。
俺が妹のアリアを守ってやろう。
そう決めたばかりなのに、目をはなしたすきに妹のアリアがいなくなった。
心配になった俺はアリアの生きそうな森を探した。
茂みや枝をかぎ分けながら歩き進む。
すると、近くから鉄のような臭いがただよってきた。
まさかと思いながら歩き進んでいく。
「兄貴!?」
黒い鎧の男、髪は白くなっているがあれはまちがいなく行方不明だったアリオンだと確信した。
黒い鎧の兄貴の足元には魔物の死体と血まみれになった妹の姿があった。
「勇者ゼブル、強くなって魔王の俺を殺しにこい」
俺が勇者、兄貴は魔王。
、なんで、兄貴が…アリオンが魔王になっているんだ。
「兄貴!なんでだよ!?」
魔王なんて言われなければ、気がつかないフリを出来た。
また三人で暮らせると思ったのにな。
魔王は生きているのか死んでいるのかわからないアリアをつれて、姿を消した。
「アリア!!」
そうだ兄貴は魔王になった。
俺は勇者、魔王に連れ去られたアリアを助けに行くんだ。
認めたくないが、こうなったらしかたない。
誰もいなくなった部屋で、荷物をまとめていた俺は、食料を摘めるために調理場に入る。
ここには久しぶりに入った。
いつもアリアが料理の担当をしていた。
そのためここに入る機会はなかったのだ。
「なんだ…」
白と茶、あきらかに色の違う床の木板は違和感がある。
剥がしてみると一振りの剣が隠すように置いてあった。
おそらく勇者だけが使える伝説の剣なのだろう。
俺は試しに外に出て剣を降る。
剣を降ってもただ空を切る音がしただけで何もおきはしなかった。
「はは…なにが勇者だよ」
バカらしくなって、楽しくもないのに笑いがとまらない。
「あのーすいません!!」
声をかけられて、振り向いた。
そこには長い銀髪を一つに結った少女がいた。
「なんだ?」
用件を尋ねると、銀髪の少女が話した。
「実は…」
名をマリスといい、とある目的で旅をしていたが途中で道に迷ったらしい。
「旅をしているのはあんた一人だろ?」
でなければ仲間とはぐれたと言うはずだ。
「はい!私は協調性がありませんから!」
それは堂々と宣言することなのだろうか。
でも丁度マリスが一人で旅をしているなら、途中でも一緒に旅をしたい。
戦って強くなる以前に弱い一人で行動してあっさり魔物に殺られたら意味がないからだ。
「一緒に旅をしてくれないか?」
「いいですよ!」
こうして俺は勇者見習いとして旅することになった。
―――
魔王の城を探す前に、勇者の剣を使えるようにしないといけないが、鞘すら抜けない。
「使えない剣なんてゴミと変わりませんよ!」
たしかにその通りだ。
しかし、剣は捨てるわけにはいかない。
「新しい剣を買うしかないか」
使えないのでは宝の持ち腐れなので、武器屋にいく。
「よう兄ちゃん、武器がほしいのかぁ」
店に入ると武器を作れるのかすら怪しいヨボヨボのジジイがいた。
「ああ、俺勇者の息子なんだけどさ、鞘から剣が抜けなくてな」
「勇者の息子じゃと、剣が抜けんのにか?」
(うるせージジイ)
「俺は昨日から修行始めたからな、強くなりゃ多分抜けるだろ」
「ファー!」
(このじいさん大丈夫かよ)
「つべこべ言わないでさっさと武器を出してください!!」
先の見えないやり取りにしびれを切らしたらしいマリスは、じいさんを脅している。
しかし、喜んでいるこのジジイ。
「わかったわい勇者ごっこの兄ちゃんには100GW、お嬢ちゃんは可愛いからタダで好きなもんやるわい」
店の中から自分で武器を選ぶことにした。
奥に隠すように黒い剣があった。
強そうだからこれにするか。
「兄ちゃん、それ勇者っぽくないぞい」
「ゼブルさん、私は素敵だと思います!!」
武器を買うためしぶしぶ100GWを支払い、店を出て旅を再開した。
「お、手頃そうな魔物か!?」
向こうの茂みがガサガサと動いた。
剣の切れ味を試せるかもしれない。
「ぷはー!!」
「え!?」
いつ襲いかかってきてもいいように剣を構えていたが、無駄だった。
長い茶の髪にピンクのドレス。
どっかの金持ちのお嬢様がなんで葉っぱまみれになってんだろ。
「ひめさまあああああああああああ」
こっちに叫びながら鬼のような顔をした騎士の男が走ってくる――――――。
====
「大丈夫ですかゼブルさん?」
「もうしわけありません…」
「いいよあんたのせいじゃないし」
悪いのは剣を下げなかった俺と衝突した騎士だ。
「わたくしはウィークエンド国の王女ノアルです」
「姫様の警護をしている騎士です」
ウィークエンドはたしかニューゴールド(ここ)の隣の国。
なんで隣国王女様がこんな所を歩いてるんだ。
「実は…先代の魔王の息子を名乗る魔族の青年に父が連れ去られたのです」
先代の魔王ってことはアリオンじゃないのか。
アリオンといい先代魔王の息子といい人を拐って何をたくらんでいるんだ。
俺と向こうは魔王の城に行くのが目的、というわけで二人も一緒に旅をすることになった。
テントの外で、焚き火をおこしてそこでマリスと二人きりになった。
そういやマリスが旅に出ている理由は濁されていたまま聞いていなかったのを思いだした。
「なあマリス、お前はなんで旅を?」
俺は何気なく旅の目的を尋ねる。
「私がなぜ旅に出ているかですか…?」
何か言えないわけでもあるのか、中々話そうとはしない。
「実は…生き別れた弟を探してるんです」
マリスは今にも泣きそうなほど悲しそうな顔をしている。
家族がいなくなったのだから無理もない。
兄弟の大切さは痛いほどわかる。
一緒に探してやりたいが魔王のこともあるし、向こうからしたらただの同情でしかない。
片手間に協力してもマリスは迷惑だろう。
「見つかるといいな」
俺にはこんな慰めの言葉しか言えなかった。
「はい聞いてもらって少しだけ楽になりました」
マリスはにこりと微笑んでノアル姫と共同のテントに入っていった。
気をつかってくれたのか、俺と話すのが嫌なだけか悶々と考え込む。
「眠らぬのか勇者」
騎士のマリオスが薪を持って来た。
「俺だけ何もしないで寝てるわけにはいかないだろ」
なによりこいつがテントに入ってきたら狭そうだ。
鎧もガシャガシャうるさいし邪魔だし。
外のほうがマシである。
「貴様の連れの女性も姫様も何もしていないが?」
「いやそうだけどさ、姫は姫だから別にいいんじゃね?」
偉い人がなんかやってると逆に困るのでおとなしくしていてもらいたい。
というか本来そういう考えをすべきなのは俺より騎士だろ。
「次期女王となられる姫様が世間を何も知らないのでは皆が困る」
「つっても今姫にやれることなんてあるか?」
お姫様が料理なんてピンとこない。
「姫様は剣術に長けておられる」
「へ…」
お姫様に武器持たせるってどんな国だよウィークエンド。
魔法かなんかかと思ったのに以外だぜ。
「そういやお前騎士のくせに剣持ってないんだな」
「ああ、槍と魔法で事足りる」
「お前、強そうだし、ちょっとこの剣降ってみてくれよ」
「これは…良い剣だ」
どうせ勇者じゃないと抜けないんだろうけど。
マリオスが剣を持った。
するといくら抜こうとしても抜けずに見られなかった刀身が姿をあらわした。
「なんでなんだああああ!?」
●
「運びます」
「は?」
「ゼブルさん、わたくしも運びます!」
「でもな…」
===
「ふーん、ここに勇者がいるのね~!」
黒い翼をはためかせ、そらを舞う黒髪の少女と銀髪の青年が勇者達のいるテントの近くに降りた。
一人でテント付近ににいたマリスは、ゼブルに知らせるために気がつかれないように走る。
==
「そういやノアル姫は何歳なんだ?」
背格好もアリアと同じくらいに見えるから、なんとなく気になった。
「この前13才になりました」
「そうか俺の妹と一つ違いか…」
アリア、今ごろどうしてるんだろうな。
「ゼブルさん!!テントの方に変な二人組がいます!」
俺がノアル姫と一緒に薪を運んでいると、マリスが血相を変えて走ってきた。
どうやら逃げてきたらしい。
「君…変な人だなんて、酷い言われようだな」「相変わらず失礼!」
マリスの後をついてきたのか、噂の二人はすぐに姿を見せる。
黒い翼が生えていて、魔族だと一瞬で理解した。
「貴方は…!」
ノアル姫の反応を見るに、この男が国王を捕えた張本人、先代魔王の息子なのかもしれない。
「おや、この前の小さなお姫様か」
向こうは対して興味がなさそうに、視点を変えた。
一応はノアル姫を認知をしているようだ。
「お父様をどこへやったのです!?」
ノアル姫は耐えきれなかったのか、そのまま泣いてしまった。
さっきまで気丈に振る舞っていたが、まだ13才だもんな。
マリスがノアル姫の頭を撫でた。
「煮ても焼いてもいないよ僕は菜食主義だからね」
「お兄様、ママゴト勇者くん、私のタイプだわ!」
黒髪の少女がべったりと俺に抱きついた。
これは人質にするチャンスだ。
俺は魔族の少女に剣を近づけて、逃げられないようにした。
「きゃー!熱烈な抱擁!?」
悦ばれてしまった。
さすかは魔族、翼がものすんごい力で圧迫してくる。
「この女がどうなってもいいのかよ魔族の兄ちゃん」
精一杯睨み付け、本気であることを示した。
「魔族に家族とか、仲間とかの情を期待しないほうがいいよ
第一君には殺気がない、そんなの脅しにもなってないね」
やはり相手は人間より強い、姿は若くても長く生きているらしい。
そういう差もあって、容易く見抜かれていたようだ。
「マギス遊んでないで、帰ろう」
「だって遊びにきたのよ兄様」
俺達にとって魔王の関係者は敵だ。
気軽に遊びにこられるなんてたまったもんじゃない。
「さっさと去れ!!でなきゃこいつの首を跳ねる!」
頭にきて、もう少しで理性をなくすところだった。
「うぐっ!」
掴んでいた魔族の少女の腕の骨が、少しきしむ音がした。
「わかった、大人しく帰るよ」
魔族からしたら人間の脅しは大したことないだろうに、以外とあっさり去っていった。
魔族の青年は、マギスをかかえながら低い位置で飛行する。
「お兄様…」
骨を尊称したマギスは苦しむ。
「あのままいたら良くてまっぷたつ、悪くて死んでいたね」
はじめは勇者の血をひくだけのただの人間という認識だった。
「奴は何者だろう…」
しかし、それは覆りゼブルには何かあるのだと、二人は確信した。
「ここにいたのか…」
この場にいなかったマリオスがようやく姿を見せた。
「マリオス!」
「どこいってたんだよ」
4人の中でまともに戦えるのはマリオスくらいだ。
あいつらがまぐれで引いたからよかったものの、次に遭遇したら、向こうは俺達を殺すかもしれない。
「剣をおさめないのか」
「まあ、だしっぱなしでは怪我をしますわ」
二人に指摘されるまで、剣を抜いたままだと気がつかなかった。
「ゼブルさん、テントに置いてあった勇者の剣も刀身が…」
しまおうとは思うが、躊躇した。
「…また抜けなくなるからな」
「それは確か…勇者の家系に伝わるという剣ですか?」
ノアル姫の問いに、俺はコクりと頷く。
俺は勇者に相応しくないってことなのか。
逆に兄貴が勇者になって、俺が魔王だったらよかったとさえ思う。
「ゼブルさん、勇者の剣に拘らなくても、貴方にはちゃんと使える武器があるんですよ」
そうだ、俺には100GWで買った剣がある。
「マリスの言う通りだ…修行しないとな」
「では魔物を探しますか」
「剣術ならわたくしが教えます!」
俺とマリスはきょとりとした顔で、ノアル姫を見た。
確か昨日マリオスが剣術に長けているとは言っていた。
だがしかしさすがに三つも年下の子に習うのは超絶恥ずかしい。
せめてマリオスがオールラウンダーというかステレオというタイプか剣士なら頼めたが。
=====
「まず敵をよく見ます」
「はい先生!」
なんでマリスとマリオスまで特訓に参加してんだ。
そういやこの二人は名前が似ている。
まあ偶然だろう。
「敵にスキを見せないようにメンチを切りましょう」
「は…?」
なんか違くないか、剣術関係ないだろ姫サマ。
「敵が一瞬でも隙を見せた場合、そこを狙って剣を振り下ろします」
敵の隙をつくなんて初心者には無理難題、上級者すぎるだろう。
夕飯の時間まで素振りが続いた。
こんな素振りだけでアリアを助けにいけるのか、不安だ。
「…今日、魔族のフリフリドレスの子に抱きつかれてましたね」
マリスが肉を少し食べて、もじもじしながらこちらをチラチラ見ている。
「初耳だ」
「貴方はあの場にいませんでしたもの
どこにいたのか白状なさい」
姫はマリオスに凄む。
しかし、可愛い子が少し睨んだ程度なので恐くない。
「この肉を狩っていたのですが…」
あまりに自然に調理していたから気がつかなかったが、この肉はこいつが狩ってたのか。
「酒場でワインでも飲んでたのかと…疑ってわるかった」
「まだ酒の飲める年ではないので」
はて、酒って何歳から飲めるんだったかな。
「あの、ウィークエンドでお酒は何歳からですか?」
「たしか17才からですわ」
「お前…いくつなんだよ」
「14だ」
ガタイも大人と変わらないのに俺の一つ下でアリアと同い年には見えない。
「あ、話がそれましたお昼に貴方がいない間に…」
今日二人の魔族について話した。
「しかも!ゼブルさんがマギスさんに抱きついたんです!」
「はあ…」
「ゼブルさんはああいう子が好きなんですね」
あの殺伐とした場面を見ていたのになんで好きなんてことになるんだ。
マリスはわざと言ってるのか本気でそう見えたのか、わからなくなった。
「なあノアル姫、こんな素振りしてるだけで強くなれんのか?」
「素振りは強くなるためにしているのではありませんよ?」
「え!?」
ならこれは無駄なことじゃないか。
「剣術であろうと他のことであろうと、この一見無駄に見える行動で筋肉をつけたりします
素振りは大事な基礎ですから」
よく見たら姫の手は傷だらけになっていた。
何度も傷が出来て、治ってを繰り返したような、お姫様らしくはないが、努力をした手だった。
始めに会ったときはお姫様に対する偏見というか、ただのか弱い女の子だと思っていた。
でも違ったんだな。
「くそっ…早く強くなりてえ…」
マメだらけに痛んだ手を見て、今まで修行をしてこなかったことを悔いる。
ノアル姫のお陰で、自分が怠けてきたことを直感し、三日くらい剣を振り続けた。
「ゼブルさん休んだほうが…」
マリスが俺の手に包帯を巻きながら心配そうに傷を見ている。
「でもさ、俺は今まで兄貴に期待してて、自分が勇者になるなんて思ってなくてさ
修行なんてこれっぽっちもしてなかったからな
こんなんじゃ死ぬ気で無理しても魔王は倒せないだろ?」
「そんなに急いで強くならなくても…後一ヶ月で強くなれるわけがないですし…」
「別に一ヶ月で強くて立派な勇者になろうとは思ってないけどさ」
欲を言えば明日にでも強くなってアリアを助けにいきたい。
魔王退治なんて本当はどうでもいい。
アリアと兄貴が戻ってきてまた三人で暮らせればそれでいいんだ。
深い意味なんてないだろうが、マリスがどうして一ヶ月なんて範囲にしたのかわからない。
――――
「ゼノン、マギス」
若い白い髪の男は、青年と少女の魔人を呼ぶ。
「人間のクセに偉そうにしないでよ!」
マギスは目の前の男に強く反発した。
「俺はお前等の父親と正当な契約をしたまでだ」
白髪の男はそれ以上の言葉を発せないように、マギスを威圧した。
「フフ…仮にお前が偽りの魔王となろうとも、僕やマギスを下僕のように従えられる理由にはならないね」
「あはははは、お前等、魔族のワリにおもしれーな!!」
白髪の男は、魔族の長を名乗るには相応しくないほど、人らしく豪快に笑った。
はじめの雰囲気と、今の姿には落差があり、呆気にとられた二人はただ目を丸くした。
「なんなのよ前魔王と契約したーとか偉そうに…!」
マギスはムシャクシャと感情をたかぶらせ、落ち着かない様子のまま自室に戻る。
‘用は済んだ’と白髪の男は呟き移動した。
「…真の魔王の座は僕のものだよ勇者の末裔アリオン」
ゼノンは去り行く白髪の男に、怒りと憎しみの混ざり合った気味の悪い笑みを浮かべる。
――――――――――
〔毎日剣をふり続けているだけ、本当に国を背負えるように、私は強くなんてなれるの――――〕
幼き日、父である王とノアル姫は剣の修行をしていた。
『ちちうえ、もう腕が疲れました…』
姫の手の平は傷だらけで、皮がむけた痛みから剣を握る力が抜けて、そのままするりと地面に落とした。
周りの兵士達は幼い姫が武器をとる事に心を痛める。
他国の姫は、城内で静かに暮らすものなのに、ノアル姫は外で剣を学ぶことを強制されている。
それが兵士達から見て、可哀想だからであった。
『ちちうえ、なぜ剣をふるだけなんですか
こんなことをしてムダではないんですか?』
姫はただ剣を上下左右にふるより、敵を倒すことを学びたい。
王にそう意思を表した。
『ノアル。一見無駄に見える事も必要なんですよ』
『ははうえ!』
―――――
「……姫?」
ゼブルが姫を呼んだ。しかし無反応。
「おーい。ノアル姫」
ゼブルは姫の顔を近くで覗き込んでいた。
「え…きゃああ!」
姫はゼブルの顔が目の前にあったことに、驚いて後ずさる。
「大丈夫か?」
ゼブルは不思議そうにたずねる。
「…はい!もんだいありません」
どぎまぎしながら、姫は剣を鞘におさめた。
「マリスさん」
姫はどのくらい沈黙していたのかをたずねた。
「数刻ほどぼうっとしていましたよ?」
マリスは大体1刻ほどだと答えた。
「そうですか」
「何を考えていらしたんですか?」
「父や母といた昔を思い出していました
マリスさんはそういうことありますか?」
「もちろんありますよ!弟のこととか…」
(弟、探してやらないとな)
遠方から二人の会話を聞いていたゼブルは、明日にでも強くなってマリスやノアルを助けてやりたいと思った。
「お腹好きましたね」
さてと森で夜飯の肉を――――
狩れるわけがない。
「さてと寝るかー」
翌日、なんか強くなってたから魔王城にいくことにした。
道中でなんか色々と絡まれた。バッタバッタとなぎ倒す。
「はっ!」
素振りの力は偉大だ。
「ゼブルさんすごいです!」
マリスがほめてくれた。
「よせやい照れるじゃねーか」
―――――【魔王城】
「マギス、お前の夫となる男を選んだ」
と銀髪の男は言う。
「はあ!?なに勝手にきめてるのよ!!」
「ふふふ……祝言が楽しみですねぇワタシの花嫁さん」
「誰がアンタなんかの花嫁になるもんですか!!」
●
「なんだか寒くなりましたね」
「くしゅっ」
寒さから姫はくしゃみをした。
「マリスは寒くないのか?」
マントを着ているといってもマリスの服はヘソと腕が出ている。
下はロングスカートだがこれから先は雪山があるらしいので問題だらけだ。
「私は寒さを感じないので」
マリスは杖をくるくる振り回した。
「へー魔法ってすごいなー」
マリオスは姫に毛布を買っていた。あいつ自身は鎧で寒くないのだろう。
オレは自分の上着を買った。
「よし、いざ雪山へ!」