闘技場でのPVP ※キャベツ視点
二人から聞いた話と全く同じ部屋だと思われる場所で、物思いに耽る。思案するのは単純なこと。自分で勝てるかどうか。
苦戦していたかどうかは兎も角、二人はこのゲームにおいて初めてのPVPで勝った。
お米は空手をやっていたからその頃のこと思い出したと考えれば自然。けれど、サカナはサッカーと水泳をやっていたこと以外にスポーツはやっていない。しかし別に蹴飛ばした訳ではない。しっかりとハルバードでトドメをさした。
プレイヤースキルによって勝てたと考えるのが一般的だけど、真似できるかと言われれば少し微妙。あれはバカみたいに強くなったモンスターと近接戦をしたからこそ身に付いた動きだと思う。基本的に避けるのに必死だったこっちはあんなに動けない。
勝敗は避けながら魔法準備を行って当てれるか。あれで培ったその技術を使わなければいけない。でないと俺だけ負けるなんて事になる。そういうのはちょっと遠慮したい。でないと、弄られるかもしれない。
「兄ちゃん、そろそろ移動するぜ」
「あ...はい」
お米から聞いたとおり、怒らせたくない感じの見た目だ。
スキンヘッドの時点でインドア派の俺とは対極な気がする中、鋭い目に頬に抉られた後の傷、腕には斧と剣の刺青。ちょっと関わりにくい感じが凄いする。
ちなみに、既存の住人について調べるスレがあって、其処で載ってた。確かこの街の闘技場の従業員は十五人ほどで、その殆どが裏方らしい。斧を使う戦士らしく、師事を乞う事ができるとか。
「じゃあ兄ちゃん、此処で待ちな。直ぐに来るぜ」
「あ、はい...」
グラウンド、とでも言えそうな場所に一人残されて待つ。俺も米と同じでコミュ障だから、まともな反応は期待できないと思いますけどねぇ。というかできたとしても話しかけたくないというか何というか。
まあそれはさておき、一体どんな相手が出てきてどれくらい自分の力量が試せるのか。それが一番気になる。暫くは動物と粘体を見たくない位の量の強化された奴等とのパーティー戦はどれくらいの力を俺は物にできたのか。
そんな事を思っていると、目の前のもう一つの吹き抜けの入口から大きな槍を持ったフルプレートの男がずんずんと入ってくる。きっとあいつが対戦相手なのだろう。相性の悪い相手がきた。いや、魔法使いの上にメインジョブが殆ど意味を成さないこの現状で得意な相手なんていないに近いのだけれども。
1対1で、接近戦。だとすると範囲攻撃は自分も巻き込むかもしれない。リアルエイムが試されるな。それから回避も。その点、氷魔法と風魔法はどちらかというと範囲系なのはふざけてると思う。
「...」
「...」
お互い何も言わないまま、カウントダウンが始まる。中二病的に言うなら、二人の決闘は静寂が立会人として命を削りあう準備を始めている、とかかな。うむ、我ながら即席としては良いんじゃなかろうか。
5...4...3...2...1...
「覚悟!」
槍を此方に向けながら突進して来るフルプレート。盾も一緒に前に突きだしている所を見るに、物理防御はそれで防ぐのだろう。
結構距離は開いている。突進して来るのを手短に相手の分析を始めよう。顔以外の場所で肌が露出していない鎧。言っちゃえば顔は丸出し。変わりに視界が幅広く確保できるのだろう。サカナが目指すのとは別の路線の鎧騎士、みたいな感じだろうか。あっちは肌の露出が無いフルプレートの鎧騎士みたいだし。
「これなら...」
相手が勢いよく突進して、あと僅か数歩で攻撃に移行できるぐらいのタイミングでアイスの詠唱に入れるように神経を集中させる。決まれば相手は動きを止められる。そしたら一方的に攻撃すればいい。繰り返せば容易に勝てる。
「せぇい!」
アイスの効果範囲に、今入ろうとする相手の足の動きと槍の稻先を確認して、魔法を発動させる準備をはかる。突きか、凪払いか、それも注意する要因だ。分からなければ痛手を被る。一番安全なのは無い。直ぐにでも回避し、魔法を発動した方がいいやもしれない。右斜め後ろに跳んで、魔法を発動させる。
「アイス」
此方が右に跳んだのを確認して凪ごうとしたらしいが、触れないアイスの射程は五メートル程。対して相手の持つ槍の長さは一般的だと思う二メートル程。突いたら高く見積もって三メートルぐらいだと思うから、凪げば当たるはずがない。見事に空振りして前のめりにつんのめる。足は僅かな間アイスによって動かせれない。今が攻撃のチャンス!
「...アイスブロウ!...ウィンドカッター!」
「あぐが!」
放ったアイスブロウとウィンドカッターをモロに直撃した鎧はかなりHPが減ってるだろう。残念ながら状態異常にはならなかったけど、アイスの効果は充分に役立った。しかしさっきの攻撃でウィンドカッターはあまり相性が良いとは言えなかった。やはり鎧の守ってる範囲が多いからか。
(アイスブロウは氷塊をぶつける物理打撃攻撃を与える魔法。追加効果で氷結が低確率で付与。ウィンドカッターは風の斬撃を与える魔法。切れ味は固定)
「卑劣...」
相手が体制を立て直したので、威力を上げたウィンドを自分にぶつけて戦線離脱する。決して高いとは言えない貧弱HPなので、あまり被弾は許されないが、どのみち相手の攻撃一発でやられる可能性も高いので何も言うまい。いつかはこれが解消したら良いと思う。
「...アイスナイフ」
「卑怯な...」
多分相手が言いたいのは彼方の土俵で戦えないからこその愚痴だと思うが、此方だって負けたいわけではない。必勝など無いのだから地道な戦いは堅実であって卑怯でない。だから物理と魔法援護を使って後ろで戦うのだ。というかそれはどちらも言いたい事だろうし。(アイスナイフは複数の刃渡り八センチ程のナイフを複数生成する魔法。MPの量を増やせば数が増える)
「投げナイフの練習だ」
「そんな物は攻撃にはなりえん」
そんな事を平然と言われたので生み出した五本のナイフのうち一本を取って頑張って投げてみる。残念ながら飛距離が届かなくて若干恥ずかしかったが、言ったとおりあれは練習だ。構わない。残りは魔法の力で飛ばす。三本を盾で防がれ、一本を外し、最後の一本が顔を掠った。顔を赤くしながら、此方を睨む鎧。どうやら本当に小さな攻撃にはなったらしい。
...にしても妙に堅苦しいな。ロールプレイかな?
「次こそは」
そう言って盾を構えて速足で近付いてくる鎧。学習したらしい。走ったらカウンターがくる。ならゆっくり行けばいい、とか考えている訳ではないだろうが、一応距離を取りながら発動させる魔法を選ぶ。と言っても使える魔法の種類が減った今、さほど選ぶこともないけれど。
「...ぎぃ」
何だか苛ついている様な鎧から逃げるようにグルグル回る俺に、ドンドン速く動いて追ってくる鎧。脳筋って考えて良いのだろうか。まあいいさ。選んだ魔法を使うとしよう。
「...デビルフェイス...アイスブロウ」
デビルフェイスを発動させて相手のステータス低下を一応狙う。まあ当たれば御の字、ファンブルでも構わない。それと平行してアイスブロウを放つ。さてどうなる。(デビルフェイスは相手に恐怖の状態異常を確率で付与する。デビルフェイスの恐怖の効果はステータスの微弱低下。効果時間は多少長め)
「ちっ!」
デビルフェイスはファンブルだったが、アイスブロウは狙った軌跡を描き、下に下がった盾を回避し足に当たった。しかし、狙ったのは腰だったのだが。まぁ当たったから良しとしよう。
しかし、足を防ごうとした盾は下に動いた。頭は無防備だ。今がチャンス!
「...アイスブロウ!...アイスブロウ!」
「ぐああ!」
頭に一つ、胴に一つをねらい発射させる。鎧はどちらを防ぐか悩んでしまって、どちらも当たってしまった。それと同時に鎧は飛んで、YOU WINの文字が。
「ちっ」
よしよし。順調な滑り出しだ。この調子で闘技場で勝ち越したい。戦うときは心に余裕が持てるようにしたいからね。