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清純派魔導書と行く異世界旅行!  作者: 三澤いづみ
第四章 『テクノ・マジカディア』

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エピローグ


 マジカディアの大通りを、馬車は駆ける。

 これまで訪れた都市とは毛色の違う街並みと、それ以上に異色な場所の乗心地。

 流れていく風景の色合いが、どこか懐かしさを呼び起こす。

 この馬車は街灯同様、マジックランプが設置されている最新式らしい。

 おかげで深夜でも街道を通って、隣町までの運送してくれると教えてもらった。

 もう一晩くらいこの街に泊まっていってもよかったのだが、下手に留まると味を占めたミリエルが前言撤回、半年くらいこき使われかねない、とティナからこっそり忠告されたのだ。


 何やら危機感を抱いたティナの策略ではないし、俺も少々思うところがあったから、それに気づかないフリをして乗った、というわけでは決してない。

 やるべきことはやった。そう信じるからこその、次の地への出発なのだ。

 

「ヨースケ、この街は楽しかった?」

「色々ありすぎて、あんまり観光した気分にはなれなかったな」

「聞いた話だけでもお腹いっぱいだもの。当事者になったら大変だったでしょうし」


 中心部から離れると、昨日の騒動が嘘だったかのように平穏そのものの生活が見える。

 マジカディアは、大きな街だ。学院から遠ざかれば、そこには普通の暮らしが広がっている。

 魔法学院を要する、古代文明からの塔を中心に据えた、地下にダンジョンのある都市。

 一応、見るべき場所には足を踏み入れたことになるのだろう。

 慌ただしさのせいか、落ち着いて景色を見た時間はわずかだったけれど。


 結構な時間が経って、日が傾きだした頃。

 ティナが俺の肩を叩いて、馬車の窓から覗く夕空を指さした。


「あ、師匠から伝言があったわ。街を出てしばらくしたら、振り返ってみろって」

「へえ」

「観光で訪れたのに、自分の用事にばかり付き合わせちゃったお詫びだって言ってたけど」


 ちょうど馬車が街の北門に差し掛かった頃、夜の帳が落ちてきた。

 さっきまで橙に染まっていた空が、闇を溶かしたような紺青に塗り替えられていく。

 街中に設置されたマジックランプの光は今も明るく、星も見えづらい夜空だった。

 マジカディアの歓楽街を歩いた時にも思ったが、街の明るさは都市の夜景に似ている。


 門での手続きを終え、街の外へと。

 他の都市と同じように外周部には壁がある。野生のモンスターや猛獣対策だろう。

 まばらな草木も向こうに見えるが、街のそばと街道の周囲はきっちり整備されている。

 すっかり暗くなった風景のなか、街道沿いを馬車はまっすぐ走り続ける。


「そろそろか?」

「師匠は何を言いたかったのやら。……あ、そういえば今日って」


 振り返ったマジカディアは明るく、街の端から端まで、下から天を白く照らしていた。

 大量の街灯による白い光と、無数の家屋から漏れ射す暖色の灯り。

 魔法都市マジカディアの眩いばかりの夜の明るさが、だんだんと削れていく。

 ひとつ、またひとつと、光という光がどんどん減って、街全体が夜に溶けていくようだった。


「わあ……見事なくらい真っ暗ね」

「なんだ、あれは」


 馬車の窓から覗いた光景は、ひどく非現実的なくせに、どこか見慣れた光景でもあった。

 街並みから光が消え失せると、静寂に支配されたように闇に包まれてしまった。

 息を呑むような、圧倒的な暗さ。

 それまでがひどく明るく、どこか温かい光に満ちていたから、より強調される。


「ヨースケは知らなかったでしょうけど、今日はマジカディア全体が眠るのよ」

「つまり、一斉停電か」

「言葉の意味は分からないけど、ニュアンスは合ってそう」


 通りがかりに眺めたように、街全体に行き渡っていた大小さまざまなマジックランプ。

 街灯から、家々から、ありとあらゆる場所に設置されていた魔力光による照明器具。

 携帯用と違って、各家庭、各区画に存在する以上、どこからか魔力が注入されているはずだ。

 他の街に比べて大量の魔法使いがいるとはいえ、一人一人が回っているわけでもあるまい。

 つまり、発電所から電線を通して電力を送るような仕組みがあるに違いない。


「少しずつ光が増えてるけど……ほとんど暗いままね」

「オイルランプか何かだよな、あの灯り」

「自分で魔力込めれば一晩くらい保つでしょ。大事な場所には学院がひとを送るし」


 送電線ならぬ、送魔力網と表現するべきか。

 大本にあたる部分のメンテナンスが定期的に必要で、そのための一時停止なのだろう。

 偶然にも、あんな騒動のあった翌日というタイミングなのは良かったのか悪かったのか。


「恒例行事ってことか。混乱してる気配もないし、慣れてるっぽいな」

「魔力灯が街に配られた何十年も前から、半年に一回くらい光のない夜が来る」


 いや、偶然ではなかったのかもしれないと思い直した。

 学長オージェスの死に疑念を抱いたモノが二人いたことに加え、調査員が街を訪れたこと、その調査員が大魔法使いミールエールで、最後には中央塔に俺たちが突入することになった。

 予定が早まっただけで、汚泥に取り憑かれたハルマックは本来なら即座に対応するのが難しい、今日この時間このタイミングで、ことを起こすつもりだったのかもしれない。


「……本当はね、中央塔だけはこんな暗い晩にも輝き続けてたの」

「大きな街の真ん中で、一番背の高い建物だけが光ってるわけか。そりゃ見応えあるだろうな」

「すっかり忘れてたけど、その光景を見せて驚かせようと思ってたのに」


 残念がるティナに、俺はひとり納得した。

 決戦兵器テクノ・マジカディア。

 街の中央に屹立していた塔、魔法使いたちの誇りであったあの巨大ビルめいた外観。

 一切の光の失われた暗夜においては、さぞかし眩く、神秘的に見上げられたことだろう。

 魔法都市の観光の締めとしては、実現していれば最高だったのかもしれない。

 返す返す惜しいことをした。


 話しているあいだにも、馬車は休まず走り続けている。

 どんどん遠ざかっていく夜のマジカディア、暗闇に包まれた巨大な魔法都市。

 俺とティナは、眠りに包まれたような静寂と闇の塊から遠ざかっていく。


「あ……!」


 その瞬間、ミリエルの言伝の意味を、俺たちは知った。

 ちょうど魔法学院の敷地の中心から、魔法の光が打ち上げられたのを目の当たりにした。

 闇夜を切り裂くように放たれた一条の光線は、どんどん高く、どんどん大きく広がった。


 夜天を照らすのは、ほんの少し前に見た覚えのある、美しい光の魔法だった。

 在りし日の中央塔の頂点よりずっと先へ昇り、ずっとずっと高い場所まで届いて。

 膨れあがった光線の先端が、音も立てないままに、鳳仙花のように弾け飛んだ。


「すごいな……」

「ん……」


 闇が深いからこそ、いっそう美しく輝く光の乱舞。

 花火見物のような趣だが、使われているのは火薬ではなく魔法なのだろう。

 俺たちの様子で気づいたのか、たまたま目にして驚いたのか、馬車はその場に停まった。

 いつしか、御者と乗客が馬車から降りて、全員で発った街の上空を見上げている。

 ティナが楽しげに夜空を眺めている横で、スピカがこっそり声を発した。


「あの、ご主人様。これってルイザさんの魔法では……」

「こんな使い方もあったんだな」


 俺の魔力による補助なしで、これほど大規模な魔法が使えるとは考えにくい。

 つまり、破壊力は一切無く、ただただ見た目だけを似せた光の魔法だ。


 青に、赤に、黄色に。

 色とりどりに煌めきながら、遙か天の高みから降り注ぐ光の雨。

 またひとつ、もうひとつ。

 違う魔法、おそらくは使い手も違う淡い光の光弾が、あとを追うように空を彩る。


 二度目の魔法は砕け散り、幾重にも煌めきを跳ね返しながら、街全体へと降り注ぐ。

 夜空の半ばから溶けるように消えていく、月夜の雪めいた魔法の光。


 色や形状を変えながら、ひととおりの披露が終わると、また深い闇が戻ってきた。

 馬車に再び乗り込む途中、振り返ったティナが、俺にこう聞いてくる。


「ねえヨースケ。……マジカディア観光、どうだった?」

「最高だったに決まってる。最後の最後で、こんなものまで見せられたら、な」


 最初見せたかった光景とは違ったが、これはこれで満足のいく結果だったらしい。

 ティナはにんまりと笑って、俺の手を取ると、軽い足取りで座席へと向かったのだった。

 


 第四章「テクノ・マジカディア」これにて完結です。

 難産でしたが、急かさずにお待ちいただけたおかげでなんとか完成までこぎ着けました。

 待っててくれた方々、初めて読んでくれた方々、どちらも楽しんでくれたなら嬉しいです。


 皆様よりいただいた温かいご感想や応援、非常に嬉しく受け取っております。

 お読みいただき、ありがとうございました。

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