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清純派魔導書と行く異世界旅行!  作者: 三澤いづみ
第二章 ネストン・ラプソディ

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第二十五話 『幕引き』

 


 ダンジョンコアの修復だが、まずコッペリアが玄室内で何かを行った。

 すると、部屋の中心、地面が開くと丸い卵のような銀色の珠が現れた。コッペリアの指示で、そこにアンジーが手を置いた。


 アンジーの右手が銀色卵に触れ、空いた左手を俺が握りしめる。

 次は俺の右手をティナが握りしめる。

 こうして三人で手を繋いだ状態になってから、コッペリアがアンジーの名前を見つけ出したタブレット端末もどきを操作した。


「じゃあ、リカバリークリスタル起動。対象:指定七十五番ダンジョンコア」


 フィリップはどうやってこれの使用方法を探り当てたのか不明だが、何か裏技的な手順があるのかもしれない。

 数秒後、アンジーの身体が光り輝いた。体内に溶け込んだリカバリークリスタルが発動したのだろう。


 見た目はまったく毀損した風ではないダンジョンコアだったが、アンジーの手が触れている場所に燐光が発生する。

 コッペリア曰く、これが修復している証拠らしい。そのまま延々と修理が完了するまでこの状態を保たなければならない。


 アンジーの手は小さく、熱い。

 握っている手の内側にじんわりとした温かさと、同時にしっとりとした汗を感じる。しかし手を離すわけにはいかない。

 アンジーの表情は苦悶にひきつっている。


「痛いのか? それとも、苦しいのか?」

「ち、ちがう。……なにか、わたしが、引き出されていくような……」

「自分の身体でリカバリークリスタルの代替をしているようなものだからね。マナの消費具合によっては普段感じないような奇妙な感覚になるかもしれないねえ」


 コッペリアの声は軽かった。


「あ……ああ……」

「大丈夫か!」

「ち、違うの。わかんない。なにこれ、知らない……こんなの知らない……」


 うわずった声だった。

 アンジーの額には汗が浮いていて、目はどこか茫洋として、あらぬ方向を見つめている。

 ただ俺の手を握りしめた左手にこもった力が、アンジーの抱いた不安を伝えてくる。


「あっ、あっ、あっ」

「……コッペリア。アンジーは本当に大丈夫なんだろうな」

「というか、ヨースケくん。君は何も感じないのかねえ」


 そういえば、と静かなティナを見る。

 ティナもアンジーと同じような、熱に浮かされた表情をして、必死に何かに耐えるように唇を噛み締め、俺の右手を握りつぶすような強さでぎゅっと締めた。


「よ、ヨースケ。これ、まずいかも……」


 具体的なことは何も分からない。

 ただ、ティナの潤んだ瞳と、蕩けたような表情は、マナ中毒として目の当たりにした症状とは随分と違った。


「コッペリア! 何か聞いてた話と違うぞ!」

「ええと、感じるものが想定とちょっと違うみたいだけど、修理にもマナの伝達にも不具合は出てないみたいだねえ。というか、ヨースケくんのマナも同じ量が引き出されてるはずなんだけど……」

「多少力は抜けていく感じはあるが」

「受ける感じが、男女で違うのかもしれないねえ。分かってると思うけど、絶対に手を離さないようにね。この状態でマナが途切れると、アンジェリカくんの負担が跳ね上がることになるから」

「分かった」


 俺の右と左で、アンジーとティナが落ち着き無く悶えている。

 何やらすごい勢いでもじもじとしたり、顔を上気させたり、何とも言えない吐息を漏らされたり、かとおもえば爪を立てるように握った手に力がこもったり、心配するなというのが無理な状況が続いている。

 コッペリアを見ると、若干困惑した様子だ。


「マナの消費量、ダンジョンコアの修復度合い、ともに順調だねえ」

「……本当に大丈夫なんだよな?」

「二人が感じているのは痛みではないようだし、大丈夫なんじゃないかな」


 コッペリアは端末を覗き込みながら、このままで問題無いと続けた。


「アンジー?」

「ご、ごめんヨースケ。……い、いまは、話しかけないで……」

「ティナ。どうだ」

「んっ……痛くはないんだけど……苦しいといえば、苦しいのよね……というか、コッペリア、あんた、こうなること……分かってた、でしょ……っ」

「本来、人間が強制的にマナを引き出されることは無いからねえ。喩えるなら、外で突然お腹が痛くなってすっごくトイレに行きたいとき、どこにもお手洗いが見つからなくて我慢出来なくはないけどすごく辛い状態の苦しさとか切なさが近いんじゃないかな? ああ、一応言っておくと私は自動人形だからトイレに行く必要がないから想像だけど」


 コッペリアが言った。ティナがうめいた。


「……内情はだいぶ違うけど、最悪なくらい上手いたとえね……あんた本当に人形? 実は人間でしたって言い出さないわよね……」

「ま、まだ……?」

「あと半分くらいかねえ」

「……あ、あと半分……」


 別に何か悪いことをしているわけでもないし、この状況に対して俺にはやましいところもないのだが、あまりにも目に毒で、俺は無心になって、早く修理が終わることを、この時間がさっさと過ぎてくれるのを待った。




「コッペリア、そろそろか?」

「あと二割といったところなんだけど、少し問題が……」

「なんだ」

「二人はともかく、アンジェリカくんが、体力的に限界みたいだねえ。……思っていたよりも人間が脆弱だったことを忘れていたよ。このまま行くと、彼女の命に危険が及ぶかもしれないねえ」

「……おい」


 アンジーの様子を見ると、それまでの身悶えしている状況とは顔が違った。

 苦悶の表情を浮かべていた。

 何も言わなかったのは、声を発することすら苦痛だったからだ。

 あられもない姿を直視するのも悪いと、目を離していたのが悪かった。ティナはティナで自分のことで精一杯の状況だ。


「どうすればいい!?」

「そうだねえ。マナの伝達効率を上げるのが手っ取り早いんじゃないかな? ああ、それと今の状態で手を離すのはお薦めしないよ。今伝わっている分が滞ったらそれはそれで危険だし」

「つまり、俺がすべきなのは」

「人間の言うところの、キスだね。手を繋いだまま深い接触をするといいと思うよ。死ぬ危険を冒すことに比べれば、こんなの全然大したことないよねえ」


 落ち着き払った声だった。

 コッペリアのふふん、と言いたげな顔が憎らしかった。


 こいつ絶対に楽しんでやがる。

 しかし、コッペリアは嘘を吐いていない。嘘を吐く必要がない。かといって思惑がないわけではないのが非常に腹立たしい。


「い、いいよ……? ふぁーすときす、だけど……よーすけなら」


 必死の体で、苦しみながら、それでも声を出したアンジー。

 その掻き消えそうな小さな声に悔しさが滲んでいる。

 仕方ないと割り切るには、それなりに思うところもあったのだろう。

 だが、その辛そうな状態をそのままにしておくわけにもいかない。


「言っては何だけれど、これは医療行為のようなものさ。一般的に、窒息している相手に人口呼吸をすることを、キスの回数には数えないと思うけどねえ」

「ややこしくなるからお前は黙ってろ!」

「ヨースケくんはひどいなあ。私なりに心理的な障壁を減らしてあげようと助言してあげただけなのに。あ、一応別の方向を向いておこうか?」

「ヨースケ!」

「な、なんだ」

「キスは、仕方ない、でするもんじゃないわよ」

「ティナまでなんで話を大きくするんだ!」


 しばらく無言だったティナが、声に険しさを込めていた。

 アンジーは覚悟を決めたように目を瞑り、その瞬間を待っている。ティナの言っていることも分かる。女の子の夢というやつだろう。

 時も場所も状況も選べないのだから、せめて誠意を見せろ、と。


「アンジー」

「う、うん」

「……謝らないぞ」

「……うんっ」


 アンジーは苦悶の上に重ねるように、恥じらいつつも期待に満ちた顔をして、そして俺が唇を近づけたその瞬間、ポケットの中から聞こえた。


「あ、お困りのようでしたので、ご主人様からアンジーさんに流れるマナの量を増やしておきました。こうした調整は魔導書の領分ですからね、ちょちょいっと弄るだけで済みましたよ。出番がなかったので、たまには魔導書らしいことをしておきませんと!」

「……」

「……」


「……スピカ、空気読みなさいよ」


「え、これ、ワタシが責められる流れですか?」

「スピカさん。わざとだよね?」


 すっかり表情から苦痛が取り払われたアンジーが据わった目で、俺のポケットのふくらみを冷たく見つめている。


「やっぱり同類じゃないか」

「心外だねえ! 乙女心に配慮した私と、この空気読まない魔導書くんとを一緒にしないでほしいねえ!」

「心外です! ご主人様がロリコン呼ばわりされないために世間体を守ったワタシとそこの愉快犯を一緒にしないでください! スピカはご主人様を社会的な死から守ったに過ぎません!」


 ひどい話であった。

 しかし、俺たちの間の抜けたやり取りと裏腹に、ダンジョンコアの修復はきちんと完了したらしい。コッペリアが嬉しそうに歓声を上げた。

 もう大丈夫との声に、ようやく解放されたアンジーとティナが、その場に膝から崩れ落ちた。


「大丈夫よ。ええ。問題無いわ」

「……だいじょーぶ」


 二人は力尽きたというよりも、気が抜けた、という表情をしていた。

 俺はそれ以上触れないことにした。

 これで、ひとまずの決着だった。



 静まりかえった玄室でコッペリアが何やら端末を操作している。

 ダンジョンに起きていた異常は、これですっかり元通りになったはずだ。魔具級はそもそもレッドドラゴン一匹だったし、金貨級もこれ以上増えることはない。

 しかし、災禍の残した爪痕が消えるわけではないと、ティナの問いで判明した。


「つまり、勝手には消えないってこと?」

「発生の手順が狂っていただけだから、次からは同じ場所は銀貨級銅貨級の通常パターンに戻るよ。そもそも出現したモンスターを後から自由に消せるのなら、レッドドラゴンも処理出来たと思わないかな?」


 言われてみればその通りではあった。ティナは嘆息した。


「結局、金貨級は誰かが駆除しなきゃいけないわけね」


 出現した金貨級は倒されるまでは居残る。

 変化のタイミングに居合わせたハンターには少なくない死者が出たはずだが、ロイを含め、その命も戻ることはない。

 どれほど市長や冒険者ギルド長が訴えたところで、こうして起きてしまった悲劇の印象を覆すには、長い年月が必要となるだろう。


 一度起きたことは、二度三度と起きない保証はない。

 コッペリアも口にした。

 メンテナンスされていないダンジョンコアは数百年単位で故障するのだ。


 コッペリアが端末を触ると、ダンジョンコアは再び玄室のなかに隠れ、姿を消した。

 普通の冒険者には発見することも操作することもできない場所だった。俺の魔法ですら破壊できないダンジョンの壁の中だ。手の出しようもない。


 ネストンダンジョンは元に戻った。しかし、もはや楽園ではなくなった。

 無邪気に、手軽に稼げる場所というイメージは、この一連の流れを知ったハンターからは消え失せたに違いなかった。


 それからコッペリアに聞いたのは、アンジーの今後についてだ。

 同じようなことが再び起きないとも限らない。

 アンジーの体内に溶け込んだリカバリークリスタルをどうにか引きはがす方法はないか。

 ティナが尋ねて、コッペリアが首を横に振った。


「それは、無理ってこと?」

「いや、完全に壊れてしまったみたいだねえ。リカバリークリスタルはもう再利用できないみたいだ」


 コッペリアは残念そうにしていた。

 他のダンジョンコアが壊れた場合、どうやって修繕するのか、新しい方法を探さなくてはいけないと呟いている。


 アンジー本人にとっては嬉しい事実だった。

 今後、リカバリークリスタルとコッペリアに振り回されることはない、ということを意味するからだ。

 続いて、今回の状況の混迷、そこに至った経緯について話が及んだ。


「もう少し平和的なやり方はなかったのか? 市長にあんな挑発的な手紙を送るとか」

「私なりに気を遣ったんだけどねえ。……相談した相手が悪かったのかねえ」

「……なに?」


 コッペリアは当たり前の顔をして言った。


「優先順位はダンジョンコアの方が高いけれど、近くにいる人間を必要以上に困らせるつもりはなかったから、さっき君たちと話したみたいに、前もってどうすればいいかを相談した結果があの手紙の内容だったんだけどねえ」

「一応、聞くが、誰に話を持ちかけたんだ?」

「君たちが冒険者ギルドと呼ぶ場所の、一番偉いひとに声を掛けたんだよねえ」

「ネストンの、冒険者ギルドの一番偉い……オズボーンに?」

「そんな名前だったねえ。いつの時代も、ダンジョンに来るのは冒険者だからね。だったらネストンの街の、冒険者ギルド長に伝えるのが一番手っ取り早いじゃないか。そしたらあの街では市長さんが一番偉いと教えてくれたから、それを動かすためにどんな文面にすべきかを添削してもらったんだよ……おや、どうしたんだい、そんな顔して」


 面識のないアンジーはともかく、俺とティナは唖然としていたに違いない。

 市長に終始押されっぱなしで、どうしてあんな人物がネストン冒険者ギルド長なんて座に収まっているのかずっと不思議だった。

 有能にも見えず、市長に比べて覇気もない。


 だが、コッペリアのことを、ダンジョンとダンジョンコアのこと、そして起きた異変とアンジーについて知っていたとするならば、話は全く違ってくる。

 全員がオズボーンについて見誤っていた。

 長い付き合いのある市長ですら、あの様子のまま欺き通していたに違いない。


 コッペリアは数日前の時点で彼に接触を図っていた。ダンジョンに異変が起きるまで誰にも伝えなかった。手紙をバラまいて市長の自由を縛りつつ権勢を削ぎ、そしてアンジーを先に確保しようと裏で手を回していた可能性がある。


 ついに疑問は解消された。

 殴るべき黒幕もとうとう見つかった。


 金貨級だらけのダンジョン。そして通常は打倒が困難である魔具級のレッドドラゴンの存在。オズボーンが予めこの異変に備えていたとすれば、ダンジョンコアの異常が回復するまでに、何かを仕掛ける可能性が高い。

 そのタイムリミットは俺とティナ、そしてアンジーが街にいたことで前倒しになったはずだ。


 焦ったオズボーンが何をしでかすか。

 これから数時間かけて、またダンジョンの中を戻っていくあいだに、オズボーンの企みが進行している可能性もある。


「コッペリア。ひとつ頼めるか?」

「構わないよ。こうしてダンジョンコアの修理にも成功した以上、私には君たちに借りがあるからねえ」

「今から書く手紙を市長に直接届けてくれ。自分だけなら転移できるんだろ?」

「便利な能力だけど、無尽蔵に使えるわけじゃないんだけどねえ」


 そして俺は二人が回復するまでのあいだに、市長に対し、事件のあらましを素早く書き上げて、コッペリアに託すことになった。

 コッペリアが転移する直前に、俺はずっと考えていたことを尋ねた。


「最後にひとつ教えてくれ。この世界に俺を呼んだのはお前なのか?」

「私ではないねえ。原因は分からないし、さっきも言ったけど私には人間を転移させる力はないね。もしかしたら、その魔導書くんを、この世界に呼び戻した者がいるのかもしれないねえ」

「コッペリアさん」

「なにかな」

「ワタシにはスピカという名があります。ご主人様から頂いた大切な名が。魔導書くん魔導書くんと呼ぶのはそろそろやめていただけませんか?」

「スピカくん」

「なんです?」

「私は少し、君が羨ましいねえ」


 コッペリアは宙に溶けるように姿を消し、玄室内いるのは三人になった。

 十分な休息を取ったのち、残った三人でダンジョンから脱出を図った。

 アンジーのマナ中毒の危険が消えたわけではないため、帰り道も慎重に進む。


 逃げ切れなかったダークスライムだけ処理して金貨を得たり、復旧したゴブリン軍団を魔法一発で蹴散らして、そうして俺たちは安全重視でじっくり時間をかけて帰還した。

 出口まで辿り着くと、外が明るい。

 すでに夜が明けていたらしい。


 外に出た俺たちを待っていたのは、オズボーンと、もう一人。

 見覚えのある駆け出しハンター。名前は確か、レニーといったか。

 石像になっていた少年だ。


 死んだロイが彼を助けるために、コカトリスに挑んだのも、そんなに遠いことではないのに懐かしく感じる。

 その彼がオズボーンによって、人質にされている。首に鋭い短剣を突きつけられたところだった。

 二人を囲んで、やはり見覚えのあるパーティが固唾を呑んで見守っている。

 俺たちにとっては、いきなり過ぎる状況だった。少なくとも、ダンジョンの入り口前で目にすることはまったく想定外のやり取りである。


「くそっ、くそっ、くそっ! なんでバレた! あと少しだった! あと少しでシュヴァインの野郎を追い落とせたはずだったんだ! ……何がレッドドラゴンだ! 何が金貨級モンスターだらけだ! いつだ。なんでバレた。なんでハンターどもが俺のことを追ってくる……? 俺はネストン冒険者ギルドのトップだぞ! あのクソ豚市長よりも、ずっとハンターのために尽くしてきた男だぞ! その俺が、なんで逃げなきゃならない!? シュヴァインみたいな豚野郎が、どうして俺より認められられる!?」

「へ、へへっ。やっぱりロイさんは正しかった……。あんた、馬鹿にしてる豚野郎より……よっぽど格好悪いぜ」

「失せろ雑魚が!」

「殺してみろよ、へたれクソ野郎。おれを殺したって、もう逃げられねえけどな……あんたが妙なコト考えなきゃ、ロイさんは死ななかったんだ……街のハンターが何人犠牲になったと……! ロイさんの言ってた通りだ。どっちも気にくわないが、市長のがまだマシだって」

「貴様もか! 貴様も、俺のことをあいつより下に見るのか! 儲け話に群がるハンターどもが! どいつもこいつも……冒険者ギルド長として必死に働いている俺より、好き勝手に動いて、金をバラまいて、そうやっていつも偉そうにしてるだけのシュヴァインを評価しやがって……」


 コッペリアは手紙の配達を上手くやってくれた。

 悠々とダンジョンの帰路を歩くあいだ、街の方では色々急展開があったようである。


 俺の予想では、クーデターか市長暗殺あたりを狙っていたはずだ。何かしらの騒ぎに乗じた企みが芋づる式に発覚して、オズボーンは街から逃亡を図った。

 そのときに慌てて飛び乗ったのが、ダンジョンまで迎えに来るために待機していた馬車で、御者はオズボーンが追われていることを知らなかった。

 俺たちが宿からアンジーを連れ出したときと同じで、予想外の抜け道になったのだろう。これにいち早く気づいて追い掛けてきたのが、リーダーを失ったばかりのロイのパーティーとレニー少年だった。

 こんなところだろう。

 おおよその事情が把握出来れば、もう遠慮することはない。


「お前らは魔法使いの……そうだ、お前らがいなければ! 俺の考えは、全部上手くいってたはずだったんだ! 邪魔しやがって……ここでも出てくるのか……!」


 ダンジョンから出るところだった俺たちに気づいたオズボーンが、威嚇するようにレニーをきつく締め上げ、叫んだ。

 苦痛に表情を歪めながらも、悲鳴は挙げないレニー。

 追い詰められたオズボーンが自暴自棄になって、そろそろ人質すらも手に掛けかねない様子だった。


 ティナが杖を片手に前に進む。口を噤んだまま、何の気負いもなく。

 そして呪文を唱えることもなく、オズボーンの前で立ち止まる。レニーより組みやすいと侮ったか、ナイフを振りかざしたオズボーンは、ティナに襲いかかる。


「魔法使いが呪文を唱えるより俺のナイフの方が――」


 ずしん、とオズボーンのみぞおちに、ロングスタッフの石突が突き刺さった。

 くの字に折れ曲がったオズボーンの腰骨をつま先で蹴り、地面に転がすとロングスタッフの重い部分を二度、三度と振り下ろす。


「あんたごときに魔法を使うのはもったいないわ」


 動きを止め、沈黙したオズボーンを見下ろして、ティナが笑った。

 完全に裏に潜って蠢動していた黒幕も、表舞台に連れ出されて、衆目に晒されてしまえばこんなものだろう。

 きっと、オズボーンは何もすべきではなかったのだ。余計なことをしなければ、もしかしたら自分に得な結末が転がり込んでいたかも知れない。コッペリアに妙なやり口を吹き込み、手紙をバラまいたことで、市長をやり込めたつもりで、実際には成功へ繋がる唯一の道を自らの手で断ち切ったのだ。


「あー、すっきりした」

「……ティナさん。なにをしてらっしゃるんでしょうか」

「戦闘その他諸々を、ずっとヨースケに任せきりだったから、多少は働いておこうかと思って」


 その後、ロープでオズボーンをぐるぐる巻きにして捕縛すると、間を置かずして現れた市長の部下に引き渡した。

 夜明けの光が強くなり、空が明るくなっていく。すべては片付いたのだ。


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