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清純派魔導書と行く異世界旅行!  作者: 三澤いづみ
第一章 ハミンス・ワルツ
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第四話 『ひと○○の経験値』

説明回。


 決意を新たにしたものの、現実に変化が訪れたわけではない。

 ただ、気分は非常に楽になった。


「ありがとよ、……そういえば、名前はなんて言うんだ」


 魔導書とかこいつで済ませていたが、世界最高の魔導書を自称するくらいだ。何か壮大だったり洗練された名前がついているに違いない。


「ワタシの名前は、ご主人様につけていただきたいのです」


 魔導書は言った。

 契約する場合、主による魔導書の命名や改名は珍しくないらしく、それを求められた。


 良い名前など、すぐに思いつくわけでもない。

 正式な契約を交わすときまでに決めて欲しい、と上目遣いっぽい感じで言われた。魔導書なのに上目遣い。


 まずは目先のことである。

 魔法の前段階――威圧感の根源たる、魔力の制御だ。


「師事出来そうな相手が出来るまで、制御はこちらで行いますので! ご主人様の大魔力で適当にやると爆発するかもしれませんし!」


 とりあえず保留するしかなかった。

 あとは、一般的な魔法と、こいつと契約して使える特殊な魔法の違いについては知っておく必要がある。

 というか、魔法そのものがロマンである。


「大丈夫です。ワタシを使えば、ご主人様ならすぐ強くなれますから!」

「そういう話じゃなくてな」

「いえいえ、お聞きください! ご主人様に分かりやすい概念としては……いわゆるレベルアップですね! 敵を倒していくうちに、それに似たことが出来るのです!」


 異世界にある差異は、魔法とモンスターだけではなかった。


「つまりですね、モンスターも体内にマナ(魔力)を持っています。というかモンスターの肉体が特殊なマナで構成されているのです。倒した瞬間、そのマナは四散したり破裂したりして、周囲にまき散らされます。浮遊マナと呼ぶのですが、これは近くにいた人間の身体に浸透し、蓄積されます」

「ほう」


 昔やっていたRPGでずっと不思議だった。

 どうしてモンスターを倒すとレベルアップするのだろうか、と。


 ここで言うモンスターのマナは、つまり経験値。

 逃げたりしたら獲得できず、撃破によってのみ手に入る。

 そう考えると、理屈としては分かりやすい。なかなかよく出来た仕組みだ。


「しかし人間が元々持っているマナと、モンスターを殺して得たマナ。この二つは本来全く異なるので、混ざると拒絶反応を起こしてしまいます。だから、すべてを取り込めるわけではありませんし、量が多ければ多いほど反発して、危険が増えます」


 俺の疑問顔に反応して、魔導書はすぐに補足を入れた。


「それでもモンスターを倒して発生したマナを一定量浴びると、その分だけ本来自分が持っていたマナが強化されてゆくのです。量や頻度はひとによってまちまちですが、多くの場合、身体が頑強になったり、筋力が強くなったり、反射神経が鋭くなったり、魔力の最大許容量が伸びたりします。体力が増えて、疲労をしにくくなったり、頭の回転が良くなったりすることもあるようです」


 確かにレベルアップと呼称するのがぴったりな現象である。

 強敵を倒すことで、分かりやすく自らの糧になる。


「強いモンスターであればあるほどその肉体を構成するマナの量は多いです」

「ちなみに、その経験値――もといマナの届く距離は」

「死ぬ瞬間のモンスターを中心に、数メートルから数十メートルと幅があります。モンスターの各にもよりますね。離れれば離れるほど得られる量というか、影響は減るようです」

「障害物とかは突き抜けるのか」

「なるほど! さすがご主人様! 隣の部屋に閉じ込めたモンスターを壁越しに焼き殺したときどうなるか、ということですね!」


 人聞きが悪い。


「普通の石壁や岩、鉄、人体くらいなら突き抜けてきますから大丈夫ですよ!」

「遮断する方法はあるんだろ」

「特別な素材を挟むと遮蔽されるとは言われてますね。たとえばダンジョンの壁とか」


 なるほど。

 繋がっていない隣の部屋や壁越しの通路で他人が倒したモンスターの浮遊マナは得られないと。

 善し悪しである。


「ダンジョン内にある壁や扉などは基本的に浮遊マナを通しません。たとえば扉を開けた瞬間に中にいるモンスターを倒し、すぐさま閉めてしまえば浮遊マナはしばらく密室内に留まりますが……」

「そこに人間がいなければ?」

「勝手に減衰して、そのうちに霧散して消滅します。マナ自体は、極めて不安定な物質なので……媒体となるものがなければ長く留めおけない特性がありますので」


 媒体というのは、人体であったり、モンスターの肉体ということらしい。


「遠距離攻撃でとどめを刺しても、恩恵は受けられないってことか」

「量や濃度によるため、ある程度近くにいる必要がありますね。依り代を喪ったマナはどんどん薄れ、霧散してゆくため、時間が経ってもダメです。逆に言えば、モンスターが死ぬ瞬間に近くにいさえすれば、戦っていなくとも、ダメージを与えていなくとも、それだけで浮遊マナを獲得できます」


 攻撃しない回復役には嬉しい話だが、弓使いとかいたら損だ。


「護衛を戦わせて、パワーレベリングしてもらう者もいるようです。まあ、最低限モンスターの攻撃を避ける能力がないと……下手すれば死にますけど」

「大丈夫なのか、その流れって」

「普通は身の丈にあったモンスターと戦うことが推奨されます。浮遊マナを得ることで身体能力は上がりますが、実戦経験はまた別ですから」


 ただし、と魔導書は付け加えた。


「強力なモンスターを大量に撃破し、一度に限界を超えた量を受けた場合、モンスターの残したマナに汚染されます」

「汚染?」

「重ねて言いますが、自分のマナと、浮遊マナは反発するのです。普通でもかなりの負荷がかかるのに、許容量を大きく超えたら、下手をすれば即死します。そうでなくとも中毒症状を起こしたり、あるいは急激な変化で肉体が極端なダメージを受けたり……」


 あまり身体によいものには思えない。

 しかし一足飛びに強化しようと考えなければ、メリットも多い。話を聞く限り、スポーツ選手が身体を苛めて超回復を繰り返すのとさほど変わらない。


「マナの獲得――レベルアップが寿命に悪影響とかは、無いんだよな」

「浮遊マナを無理なく取り込んだ場合、おおむね、長生きするようです。冒険者ほど高レベルが多いことを合わせて考えると、戦闘で死亡した数だけ平均寿命が下げられているはずです。単純な肉体強化と考えても、頑健になりますからね」

「ならいいか」


「とはいえ、普通の方はそんな頻繁にモンスター退治は出来ませんし、ましてやレベルアップなど簡単ではありません。いくらかのモンスターを倒すだけでも、『マナ酔い』に悩まされたりしますから」

「マナ酔い?」

「浮遊マナを獲得すると――体内に一定量以上蓄積すると、体調を崩したり、感覚がずれたりするのです。異物を受け入れることですし、肉体の鍛錬とはまったく違う強化ですからね。強烈な副作用の危険があるマナ中毒のリスクがありますから、レベルアップとは困難な道のりなのです!」


 そこまで言って、魔導書は誇らしげにこう続けた。


「しかーし! ご主人様にマナ中毒の心配はまずありません! ご主人様のマナ許容量はあまりにも莫大で、どれだけ強力なモンスターを大量に殺害したところで、他の人間が気にするような副作用とは無縁です! つまり!」


「倒せば倒すだけ、浮遊マナを獲得できる、と」

「代わりに得られる恩恵は薄いかもしれません。なにしろ負荷も最小、反発も最低限となりますので」

「まあ、メリットの方が大きそうだ。覚えておこう」


 あとは、魔法について。

 本題に入ると、こいつのテンションが跳ね上がった。


「魔法についてですね! ざっくり説明しますと、普通の魔法使いが使うものは『詠唱魔法』です。魔力を通し、詠唱で設定を変え、呪文で起動する。すると定められた結果が得られる、ということになります!」


 ここまではいい。


「一方、ワタシのような魔導書と契約した場合、魔導士と呼ばれます。一般的な魔法使いからすれば格上の存在ですね。普通の魔法使いとの最大の違いは、詠唱無しで、呪文だけで魔法が発動する点でしょう。ただしデメリットもあります。詠唱魔法が一切使えなくなってしまうのです!」


 首をかしげたところ、すぐさま補足があった。


「魔導士は、魔導書を介してのみ魔法が使えます。代わりに詠唱魔法は使えなくなってしまいます。ここまでは大丈夫ですか。ついてきてますかご主人様!」

「魔法の使い方が、普通とは違う、ってことか」


 独占契約をすることに等しい。つまり窓口の一本化である。

 魔法の行使にあたっては、全部こいつを通してやってくれ。俺の代理人だから。そういう立場に置くことなのだ。

 まさしく一蓮托生。


 詠唱、呪文、発動の三アクションを必要とする魔法使いに対して、魔導士は詠唱相当の部分を魔導書に任せるため、呪文、発動の二アクションで同じような結果が出せる。

 もし敵対したら、この速度の差がどれほど大きいか。


 たとえば剣士なら、剣が鞘の中にあるか、すでに抜き放っている状態か、それくらい大きな差だ。

 但し、世の中には居合いや抜刀術もある。魔法使いでも、すごい早口とか、省略するとか、魔法を使うと見せかけて石を投げてくるとかもあり得るが……。


 慢心はしないでおこう。

 分からないのは、魔導書側の利点である。

 気遣ったつもりはないが、俺の表情を察して、こいつは笑った。


「ワタシのためにと思うなら、大事にしてください。ワタシが役割を果たせるように、ご主人様の力となれるように、存分に使って――愛してください。そうしてくれると信じたから、ワタシはご主人様に真の主となって欲しいんです!」


 健気なことを言う魔導書だった。


 

第四章のため、若干、文言の修正をしました。

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