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清純派魔導書と行く異世界旅行!  作者: 三澤いづみ
第二章 ネストン・ラプソディ

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第二十二話 『大は小を兼ねる』

 


「ちょっと、ヨースケ」

「アンジーを連れて、出来る限り離れててくれ。金貨級より上ってことは、浮遊マナの量も相当だろう。ここに来て二人にマナ中毒になる危険は冒せない」

「待ちなさいっ! それじゃ、あれと一人で戦うことに……いえ、まさか、本気で倒すつもり?」


 俺が頷くと、ティナはすごい剣幕でまくし立ててきた。


「いくら魔導士であっても、相手はドラゴンなのよ! 二つ名持ちが数人組んでようやく倒せるって言われる、本物のボスモンスターなの! あんたは詠唱が要らない分だけ普通の魔法使いより隙は少ないでしょうけど、それだけで勝てる相手じゃないわ! 意固地にならずに、今からでも引き返しましょう? 二つの思惑がぶつかっているのなら、アンジーが最下層に辿り着く以外の解決があるかもしれない。そうでしょ? ドラゴンと戦うのは危険過ぎる。ヨースケ、お願いだから思いとどまって」

「ティナ、いくつか教えてほしいことがある。諦める前にいくつか聞かせてくれ。勝率が低そうなら手は出さない。約束する」

「納得出来たら絶対に引き返してもらうわ。それをまず約束して」


 俺は頷いた。ティナがしぶしぶ、といった風に質問を許可した。


「強烈な火焔系の魔法を使った場合、ダンジョンそのものに影響はあるか?」

「洞窟、迷宮に限らず、生きているダンジョン……つまり、モンスターが湧いているダンジョンであれば、壁も天井も床も、破壊はまず不可能よ。横穴を空けたり、地下に掘り進んでショートカットすることも出来ないわね」

「水魔法に耐性があるブルーウルフ相手に、《氷狂矢》を当てたことは覚えてるよな。あれと同じように、魔法の威力さえ高ければ、モンスターの耐性は抜けるか?」

「効率が悪い、とも言ったわ。ドラゴンは、地水火風の全部に耐性があるのよ」

「レッドドラゴンなら特に火属性に強い耐性がある。この推測は正しいか?」

「たまに見た目と違うのもいるけど、赤なら火、青なら水、緑は風、黄色は土属性のモンスターが多いわ。当然、同じ属性の攻撃には耐性がある。三回目だけど、ドラゴンの耐性は地水火風の全部よ。その上で、レッドドラゴンは火属性に特に強いでしょうけど」


 さすがは魔具級の面目躍如。金貨級が一芸特化とすれば、こちらは能力が高い水準でまとまっているがゆえの、隙がない強さだ。


「最後の質問だ。一発だけでいいから、先手を打てる状況か?」

「自分で見なさい。角を曲がって、まっすぐな通路の三十メートルくらい先に、最下層への道を塞ぐようにして立ち塞がってるから。さっきも気づかれたけど、追い掛けてこなかったところを見ると……釣って追い掛けさせて、その隙に潜り込むのも無理みたい」


 俺は言われた通りに通路の角まで歩いた。

 洞窟にもかかわらず、いやに直角な曲がり角から顔だけ出して先を見ると、たしかに直線通路がストレートに延びていて、そのずっと向こう側に赤いドラゴンの巨体があった。

 必ず現れる敵を屠るために、悠々と待ち構えている。

 そんな圧倒的な存在感が、赤いドラゴンの全身から噴き出していた。

 すぐに顔を引っ込めると、曲がり角に身を潜めて、頭の中で流れをシミュレーションする。


「スピカ」

「はい! 出番ですねご主人様!」

「話は聞いてたな」

「ええもう! 今か今かと待ちくたびれておりましたとも!」


「ティナ。今からあのドラゴンを倒すから、さっき言った通りアンジーを連れて、この場所からできるだけ遠ざかってくれ」

「ヨースケ、話を聞いてた?」

「そっちこそ。話を聞いて俺は勝てると踏んだ。逆に聞くが……どうしてドラゴンが倒せないと思うんだ?」

「ティナさん。わたし、ヨースケに任せたい」


 しばらく黙って聞いていたアンジーだったが、覚悟を決めた様子で口にした。

 嘆息したティナは、こめかみを抑えつつ、静かに言い返した。


「分かってるの? もし致命傷を与えられなかったら、怒り狂ったドラゴンがあたしたちを全力で殺しに来るわ。魔法使いは後衛職よ。しかも、魔法使いの強さの理由は大半が攻撃能力にあるから、防御はそのまま苦手分野になるのよ。この場に、あのハミンスの剛剣ブラスタインみたいな前衛がいれば、一発で仕留められなくても、まだリカバリーが効くだろうけど、……二人でもドラゴンの猛攻をずっと防ぎ続けるのは厳しいわ。それを一人で、なんて。ヨースケは勝てると言い切れるの?」

「勝てる」


「どうするつもり?」

「ティナも想像が付いているだろ。俺の魔法で消し飛ばす」

「……あたしが見た魔法じゃ、きっと無理よ。あの《轟雷嵐》も、速度ではなく威力優先にしたところで、ドラゴンの防御を貫けるかどうか。若干のダメージは与えられても、致命傷にはほど遠いわ。……言っても無駄みたいね」


 俺は断言した。スピカは無言でいることで、それを強調した。

 アンジーは、不安そうな顔ではあったが、意見はさっき口にした通りらしい。

 そして心配してくれていたティナもついに説得を諦めた。


「……あーもう! 分かった! 分かったわよ! 信じるわよ! そこまで言って失敗したらひどいからね! 魔導士の真の実力、見せてもらおうじゃない! でも、失敗したときのために、あたしも追撃できる距離で踏みとどまるから! もしヨースケがドラゴンを倒せた場合、これだけ離れていても、多少は浮遊マナの影響がありそうだけど……アンジーにも、そのくらいのリスクは飲んでもらうわ。いいわね!?」

「ご主人様、仕方ないのでは? ティナさんも妥協しそうにないですし」


 至近距離ではないし、遮蔽もある。

 そこまで劇的に悪影響がある距離ではないが、かといってマナ耐性は一般人でしかないアンジーにはかなりキツイ量だろう。


 距離による減衰は十分だと思われるが、ドラゴンが体内に含有しているマナが桁外れだった場合は、それでも影響圏内になりかねない。

 ただ、アンジー一人を遠ざけた場合は別のモンスターが現れた際に危険過ぎる。

 俺は頷いた。


「スピカ、いけるな?」

「もちろん。すでに準備は出来ております。……人前で使うのは初めてですね、ご主人様の最初にして最強のこの魔法」

「そうだな。さすがに、剛剣相手には使えなかったからな」

「……ちょっと、ヨースケ。今なんて……っ」


 さんざん待たせたが、これまでの鬱憤をすべて晴らすつもりで、俺はスピカに魔力と意思をこれでもかと送り込んだ。

 指し示した先には真っ赤なドラゴン。

 火炎魔法などまるで意に介さない、と全身で表現するような火耐性の塊。普通の魔法使いの火炎魔法では微風みたいな扱いだろう。


 今から使う魔法の魔力消費量は、俺の持つ魔力総量の半分。《氷狂矢》も《轟雷嵐》もこれに比べれば小指の先、雀の涙ほどの使用量だ。

 考えれば考えるほど馬鹿げた魔力の消耗だと、魔法を使い慣れてきた今なら理解出来る。


 今にして思えば、《轟雷嵐》と同じことを、無意識ながら最初から行っていた。

 あのときは広範囲のグランプルを殲滅するために範囲を優先した。それでも炎は凄まじい破壊を撒き散らしながら、森と見まごうグランプルを焼き滅ぼして、言葉通り一掃した。


 そして今、俺は威力を最優先として、その短い呪文を唱える。

 無数のグランプルに拡散させた破壊力を、たった一匹に収束させる。


「《不諦焔(フレア・ストーカー)》」


 目の前に出現した巨大な炎の塊が、空気を歪ませながら、赫赫と輝いた。


 いつかのように巨大化はしなかった。

 代わりに人間サイズに圧縮された太陽がレッドドラゴンへと一直線に突進した。

 通路はまっすぐで、逃げ場もない。

 接近する灼熱人形に気づいたドラゴンが、燃え盛るブレスを吐き出した。まるで通用せず、そのブレスを吸収しながら灼熱がドラゴンへと辿り着いた、その瞬間。


 レッドドラゴンは白白とした劫火に包まれた。

 その状態で魔法を放った俺へと反撃を試みようとした。


 しかし、ドラゴンが耐えられたのは一瞬だけだった。

 巨体は体内から沸騰した。鋼鉄の外皮が蒸発した。

 傍目にも凄絶な苦悶に苛まれた身をよじり、己を現す色の炎から逃れようとするも、あっという間に消し飛んだ。

 あまりにも呆気ない終わりだった。

 断末魔すら挙げる暇を与えられず、赤竜は滅びた。


 その焦熱の余波が俺の元まで届くのと、モンスターの死による浮遊マナが破裂するのとは、ほぼ同時だった。

 俺の切り札である《不諦焔》の眩い焔は、レッドドラゴンの鮮やかな死を見届けると同時に宙に溶けた。


「流石ご主人様、レッドドラゴンすら一発でしたね」

「切り札を切った甲斐はあったな」

「と、いうわけですティナさん。単なる魔導士ではこうはいきません。スピカの主たるご主人様だからこその必殺です。ご満足いただけましたか?」

「ティナ、どうした? 終わったぞ」

「……なに、今の」


 そこそこ離れていても、やはり大量の浮遊マナは届いた。

 中毒症状一歩手前といったところか。マナ酔いによってアンジーはぐったりしていた。

 それを支えるティナも、顔色は悪い。


「今のが、俺の魔法だ」

「嘘でしょ……レッドドラゴンを、一撃で?」

「魔力の半分が持って行かれたが、それだけの威力はあっただろ?」

「……あれが、半分消費で済むの? たったの? え、なに、《火炎玉》一発しか使えないのもいるような、世の中の魔法使いに喧嘩を売ってるの? あ、そうか、スピカの力なのね? ……うん、魔導書ってすごいわ。魔導士が伝説になるだけあるわ」

「ティナさん。ワタシが最高の魔導書であることは確かですが、それ以上に、ご主人様の大魔力あってこそのあの威力ですよ。さっきのは、消費魔力がそのまま威力に反映される仕組みの魔法ですから。ワタシの見立てだと、ティナさんが同じものを使っても、結構良い感じの威力になるんじゃないでしょうか」


 副音声で、がんばれ、がんばれ、と聞こえそうな口調だった。

 使い方や種類においてはティナに軍配が上がるだろうが、魔力量の一点で言えば、俺の方が遙かに上だろう。


「う~! いいわ。わかった。納得した! これが魔導士! これがヨースケ! そういうもんだと認識すればいいんでしょ! ……心配して損した」


 まったく納得していない顔で、ティナが言った。

 塞がれていた通路に残ったものは、もはや微動だにしない炭化した巨体、あるいは灰と化しながらもその肉体を消失してゆく色褪せたドラゴンの輪郭だった。

 立ち上る陽炎と共に、モンスターの痕跡一切が揺らめきながら消え去った地点には、金銀銅の見慣れた貨幣ではなく、小さな何かがひとつ、ダンジョンの地面の上に転がっていた。

 ドロップ品だ。


「ドラゴンは魔具級。つまり、マジックアイテムをドロップするのは当然ね。……それはヨースケのものよ」


 安全を確認すると、アンジーと共にティナが近づいて来て、ドラゴンのいた場所まで何気なく歩いていった。

 足下に落ちていたものを拾い上げると、俺に手渡してくる。


 それは暗い色の宝石のあしらわれた、鈍色の指輪だった。

 金銀の貨幣と違って、分かりやすい煌めきはない。

 鈍色といっても鉄や真鍮、燻し銀とも異なる色合いだ。

 質感としてはプラチナが一番近いが、不思議な輝きを内に秘めているように感じられ、白金とは近いだけで本質的にはまるで別物の気がする。

 言うなれば、要鑑定品(なぞのゆびわ?)だ。


 マジックアイテム、というからには何らかの効果を持っているのだろう。

 ただ、詳しいことが分かるまでは指に付けるのは躊躇われる。


「ミスリル製の指輪ね。ミスリルなんて、あたしも一度しか見たことがないわ」

「これが?」

「この宝石も、普通の鉱石じゃないんでしょうね。正体は分からないけど……レッドドラゴン殺しで手に入れたドロップがしょぼい品物のハズがないわ。というか、ヨースケはなんであの大量の浮遊マナを浴びてもピンピンしてるのよ。おかしいでしょ」


 ティナがぱち、ぱち、ぱちと鈍い拍手の音を響かせた。色々飲み込んで、祝福するような笑顔を見せている。

 話しているうちに復調してきたようで、大きく伸びをした。


「あーあ。たった一日で抜かれちゃった」

「どういう意味だ」

「魔具級を一人で倒す、なんて実力の証明には十分過ぎる。二つ名を贈られて当然の功績ってこと。……今もっとも二つ名に近い、なんて名乗りに織り交ぜてたあたしの立場が無いわね。おめでとう、ヨースケ」

「……まあ、それはどうでもいいとして」

「どうでも良くないわよ! 二つ名持ちになれるのよ!?」

「いや、今はそれどころじゃないし」

「あ! ……ごめんなさい。つい」


 ティナも思い出したように、アンジーを見た。

 アンジーは青ざめたままだが、気にしていないと笑った。


 二つ名にこだわりのあるティナが興奮するのは勝手だが、ここに来ている理由は、アンジーの今後に関わる事態の解決を目指してのことだった。


 俺は先へと進むことを提案した。もう地図を見る必要は無い。レッドドラゴンが塞いでいた、さほど大きくない通路は、ダンジョン最下層へ続く道だった。

 赤竜の他にモンスターは出現しなかった。そのまま最終目的地であるダンジョン最下層、その最奥にある玄室へと辿り着いた。


 ここまで来て足止めがあるはずもなく、扉は容易く開いた。

 慎重に、まずは玄室の中を確かめる。


 奇襲が無いことを確信してから、まず俺から先に室内へと足を踏み入れると、そこに待っていたのは、見覚えのある黒いローブだった。

 黒いフードを被っていて、その顔はどうしてか、靄がかったように、あるいは闇に包まれたようによく見えない。


「おやおや、これはこれは……知った顔だ。お久しぶりだねえ。どうやら、その魔導書が君の手元に辿り着いたのは、やっぱり運命だったようだ。善哉善哉」


 見間違えるはずもない。

 そこにいたのは、俺にスピカを……黒い本を売ってくれた、いつかの黒ローブだった。

 


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