プロローグ
前作「清純派魔導書と行く異世界旅行」の改訂版となります。
改訂前と共通している部分もありますが、色々と手を加えたため、主人公の行動や物語の展開が多々変わっております。
前作をお読みいただいた方も、これから初めて読む方も、楽しんでいただければ幸いです。
死んだ、と思った。
凄まじい衝撃だった。為す術もなく吹き飛ばされたはずだ。
あるべき痛みはまったくなかった。
頬に冷たい風を感じた。
「……死んで、ない?」
声も出た。
咄嗟に閉じた目。まぶたを開いてみた。
「俺は……生きてる……生きてるっ!」
太陽の光が直接降り注いできて、いやに明るかった。
周囲がなんだかすっきりしていた。大規模な爆発のせいで電車の屋根が吹き飛んだのかとも思ったが、そんなレベルじゃなかった。
誰もいない。
たまさか現場に近づいてしまった少女はおろか、その母親も、爆弾魔とそれを捕まえようとしていた十数人の姿も見当たらなかった。
俺がいたのは電車の座席だったはずだ。
その名残すら微塵もなかった。
なんだかよく分からない建物の痕跡、崩壊した建造物や壊れた壁、何やらの一部がむき出しになった奇妙な跡地、言うなれば遺跡の中心に俺は座り込んでいた。
記憶が混乱しているのかと疑ったが、自分の格好を確かめてそれを否定した。
そして、この遺跡の周囲、見渡す限りは巨大な植物で取り囲まれている。
遺跡の敷地内には一切生えていないが、その外側は緑色の柱とモジャモジャの触手で埋もれており、びっしりと繁茂して隙間も見えない。
鬱蒼として、二階建ての屋根より背が高く、こんな不気味な植物は見たことも聞いたこともない。
空間を塞ぐようにみっちりと立ち並んだ緑色の壁に、息苦しさ、圧迫感を覚えて、とりあえず目を逸らす。
幸い、この崩壊した遺跡はそこそこの広さがあった。
おぞましい植物に囲まれていても、ここだけエアポケットのように平穏で、頭上には青空も見えるし、太陽の光も十分に射し込んできている。
喫緊の危険は無さそうだし、まずは冷静になる必要がある。
尻餅をついていた俺は立ち上がり、服とズボンについた土埃を払う。
俺は誰だ。
馬鹿馬鹿しい問いではあるが、必要だった。
――陰山陽介。
大丈夫。自分のことは分かる。
直前のことはしっかり覚えている。
就職活動を始めてから受けた会社の数は百数十社。しかし面接になった途端、すべて断られた。努めて明るく振る舞ってきたものの、最後の希望もついに潰えた。
交通費すら出してもらえず、失意のままに帰宅する途中、路地裏に呼び込まれて謎の黒ローブから一冊の本を入手した。
帰りの電車賃を除いて、財布の中身全部だ。
なけなしの全財産を費やしたのだ。
真っ黒だが黒塗りなどなく、一切修正はないとの触れ込みの怪しい本だったが、俺が購入を決意したのは決してやましい気持ちではない。
すべては純粋な好奇心ゆえの行動だった。
真っ暗な先行きを照らしてくれる一条の光を求めたのだ。
こうして手に入れた謎の本を鞄に突っ込み、挫折と誘惑に満ちた恐ろしい都会から脱出するため、急いで下りの電車に飛び乗った。
よし、ここまでは良い。ちゃんと覚えている。その後だ。
都会はやはり、危険だった。
いつも通り、いや、いつも以上に不運なことに、俺は逃げ場のない電車内での爆弾テロに巻き込まれたのだ。
そこで同じく巻き込まれた少女を庇おうとして――