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存在証明のアポトーシス1~稲穂は黄昏に揺れて~  作者: 古縁なえ
稲穂は黄昏に揺れて-3 終活<セイカツ>-
45/57

なくなくなくなくなくなくない


 授業の終了を待って教室に入った。俺の重役出勤に気付いたトトが手を振ってくる。


 ふくちゃんは早弁を敢行していた。いつもの事なので、一々突っ込んだりしない。


「ミッツマン、今日はサボりなのかと思ったぜ」


「二人に頼み事を済ませたら自主早退する予定だけどな」


「頼み事? なんだな?」


 カツサンドを頬張りながら聞く姿勢を作ってくれるふくちゃん。


「今、部室に秋穂さんが居るんだけど、二人もそっちに行ってくれないか?」


「授業の内容なんて殆ど解かんねーから、それは別に良いけど」


「いや、そこは理解をする努力をするべきだろ。じゃないと、時間の無駄だ」


 一応、俺達の学籍は日本都市立高等学校東校二年と言う事になっている。


 しかし、その学習課程は旧時代の産物とは大きく異なっていて、体育や道徳の授業に重きを置かれている。


 体育でストレスの発散をしつつ仲間意識だったり協調性を育み、道徳で人同士の争いを抑止するって公算だろう。


 一般教科は三科目で、歴史の一切を取り扱っていない。消失<ロスト>の対象は、過去の故人にまで及び、記録が徐々に失われているからだ。


 消失による影響を『自覚』させる行為はなるべく避けようとしているんだと思われる。


 って事で、道徳と体育以外の授業は数学と現国と理科になっている。


「そう言われてもなー。いくら内容が、旧時代では小学校高学年から中学生で習う程度のものでも、俺には基礎が無いから」


「トトにやる気があるなら俺が教えても良いけど」


 何かの役に立つと思って、授業に付いていけるようになるまでには勉強した。杏樹先生のスパルタ授業の賜である。俺をなじるあいつは活き活きとしていたように思う。


「いや、いい。今更モノにしても役立てるとは思えないし。それで、俺達は部室に行って何をすれば良いんだ?」


「特に何かをして欲しいってワケじゃないんだけど、強いていうなら秋穂さんの話相手を努めてくれ。ふくちゃんも、頼めるか?」


「お安いご用なんだな。その間、ミッツは何をするんだな」


 二人にならネタばらしをしても良いだろう。寧ろ、知ってもらっておいた方が動き易いぐらいか。


「西校に行こうと思ってる」


「西校? なんで? フルマラソンの距離並に離れてるんだよな」


 要領を得ない様子のトトに理解しやすく伝えてやる。


「例の歌姫を連れてくる」


「うたひめ? 歌姫……西校、歌姫……って」


 気付いたらしい。現場には立ち会ってたし、察しがついて当たり前だ。


「取材がどうのって話か!? でも、それとミッツマンにどんな関わりがあるんだ」


 その経緯を簡単に説明する。あの放送のあと、終活部宛に正式に取材を依頼するメールが届いたこと。


 それを秋穂さんが治安を理由に断ってしまったこと。そして、俺が行動を決めた動機──今日の出来事。


「ミッツの考えは把握したんだな。でも、大丈夫なんだな? 西高の歌姫は姫だけあって……」


「大丈夫じゃないけど、なんとかする」


 やってやれないことはなくもないような気がするように思わなくもない。


「無理すんなよ、ミッツマン。その役割なら俺が引き受けても問題ないよな?」


「ある。アポを取ってるワケじゃないから、現地に着いたら交渉能力を求められる」


「アポをとりゃいいだろ」


 能天気に宣うトト。とてもトトらしい。


「連絡先を知ってるのは秋穂さんなんだ。それをする為には、秋穂さんを間に通す必要がある」


「それの何が問題……あ、そうか。話の腰を折って悪い」


 秋穂さんが了承する筈がない。だから、この方法では駄目。


「この役割は俺が妥当なんだ。だから、二人は秋穂さんを頼むよ」


 抜け道なら幾らでもある。例えば、秋穂さんがラジオに投稿した際に送信したメールアドレス。


 公表されているものでなければ、リスナーから投稿が来る事はない。そこからコンタクトを取る方法もあるだろう。


 リスナーであるトトなら、何かの拍子に覚えているかも知れない。


「部則に則って、俺は秋穂さんの結末を彩りたい」


 これは、徹頭徹尾が俺のエゴだ。


「俺たち、だろ」


「なんだな」


 そんな物でも、やり方次第では誰かと共有できたりする。これは俺の人徳と言うより、秋穂さんの人格の賜物だな。


 時間はある。少ないけど、まだ残されている。


 治安が不安だと言うなら、俺が補えば良い。


 俺が、その最後を孤独にさせることはない。


 あとは、行動するかどうかだ。



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