第二部 暴れん坊王子と一兵卒(1)
今回から第二部に突入です。
大体一部で3,4話完結を目指しています(今のところは)。
どうぞお楽しみください。
ああ、これは死んだな。
僕はきつく目を閉じた。
事の顛末は、この国の腐敗した政治に始まる。
汚職が絶えないこの国の権力者たちに国民は辟易しつつも、渋々従うしかなかった。
いつだって、権力の前に人は無力だ。
そんな訳で、無力な人生にもささやかな安定を求めて僕は無難な子供時代を送り、無難な就職先を探した。
そして僕の努力はそれなりに実を結ぶ。領民の信頼も篤い片田舎の領主の元、警備兵として安定した収入と生活を手に入れたのだ。
ところで、この国を憂い、辟易しているのは国民だけではなかった。
第3王子、シンノース様がそのおひとり。ただし、まだ臣下に対して大きな影響力を持つわけでもなく、国政の場では彼の意見は無力に等しかった。
そこで彼が考えたのは、内側から無理なら外側から攻め落とそう!・・・という趣旨なのかは良く分からないが、とにかくある日突然、ただの商人のボンボン息子、シノースという偽りの身分を手に入れたシンノース王子の二重人生が始まった。
暇があれば城を抜け出しては、『商人の息子シノース』はどこかの貿易商やら怪しげなギルドやらと癒着しているらしき臣下に巧みに取り入ったり探りの手を入れたりして、逃れられない証拠を掴んだ挙げ句に高らかに宣言するのだ。
「そなたには私が誰か分からぬか!」
そして、おもむろに王位継承者のみが用いる紋章が豪奢に入ったマントをまとい正体を証しつつ威嚇をし(そんな嵩張るアイテムがどこから出てくるのか見た者はいない)、
「ええい!こいつは王子の名を騙った偽物よ!皆の者、斬り捨てよ!!」
と逆ギレした臣下の命により兵士たちが襲いかかるや否や、個人契約を交わしたアサシン数人と共に国を汚した臣下を成敗していくのである。
気の毒なのは事情も知らぬ兵士たち。
主君の命令によりとりあえず集結したものの手練れのアサシンにより瞬殺。不条理以外の何者でもない。
そんな噂は庶民の間では密かに広まり、自称商人のボンボンのシノースが実は第三王子シンノース様であることは庶民の多くの知るところとなったが、とりあえず誰もが知らないふりをする(特に領主など相手には)という大人の対応をすることで色々なバランスが保たれているのだった。
と同時に、各領地の兵士にも噂は広まった。
どうやら、国に仇なす逆賊と認定された領主として自らの主が『成敗』される場合、一介の兵士に生き残る道はふたつ。
ひとつは、全力で逃げること・・・ただし、どこからともなく現れるアサシンの刃で死亡する可能性あり。
ふたつめは、王子に直接向かっていくこと・・・何故なら、王子は自ら『不殺』を信条としているらしく、その大きな刃は実は刃引きされており、斬られるというより殴られることによって骨の数本は持って行かれても一命を取り留める者が多いらしいからだ。
もっとも、そんな巨大な金属の塊で殴られたら死ぬ確率も高いのだが、王子の中の『不殺』ではオッケーラインなのだろう。
とまあ前置きが長くなったのだが、僕はまさに今、潔癖だと信じていた我が主がなにやら(理由など知る由もない)やらかしたために巻き込まれた理不尽な戦いの中、アサシンの繰り出した猛毒のナイフによって右目を貫かれるところだった。
ああ、人生ってなんなんだ。
他人の業に巻き込まれて死ぬなんて、じゃあ今までの自分の努力は一体なんなんだ。
そうして、世界が暗転した。
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「あのぅ、大丈夫ですかー?」
最初に視界に入ったのは、逆光を浴びて輝く髪の輪郭。
あどけない子供の声には、今まさに繰り広げたれていた争いの片鱗など全く感じられない。
僕はしばらく固まったまま、ああ、やっぱり死んだのだなと思った。
しばらくして僕が上半身を起こすと、その子供は僕にそっと手を差し出した。
身にまとっているローブのまぶしいほどの純白。
これは、神の使いにちがいない。僕は神など信じてはいないけれど、迎えは誰にも等しくやって来ると言うことなんだろうか?
剣を握り続けて過ごしてきた僕の手とは違う、白く柔らかな手。
これが、天使というやつなんだろうか?
僕がおずおずと手を取ろうとすると、天使も僕に負けないほどに緊張気味に呟いた。
「あなたは、『救世主様』、ですか?」
「・・・はぁ?」
僕の言動から何かを察したらしい天使はがっくりと肩を落とした。
「・・・ですよね」
あああ、またしっぱい・・・と呟く声がこちらにまで聞こえて不安になる。
まさか、地獄行きだったのに手違いでこちらに呼んでしまったとか?
死後の世界までそんな不条理に包まれているとしたら、僕は一体どこに救いを求めたらいいんだ。
両手で頭を抱えようとして、先ほどまで身につけていた、仲間たちの血にまみれた鎧も冑も剣も、全てないのに気がついた。
むしろ、それ以外の装備も何もない、いわば産まれたままの姿だ。
そんな僕に向き直ると、天使ではないらしいその子供は、まっすぐに僕を見て再び手を伸ばした。
まっすぐに見られて平気ではない僕のことなどまるで気にしないで、無邪気に続ける。
「ボクの名前は『かんな』。『救世主様』を探してるの」
それから、お兄さんのところではみんな、服を着ないの?寒くない?と心底不思議そうに僕を見つめた。
僕はかんなと名乗った子供を思わず突き飛ばすと、全力で石造りの建物に駆け込んだ。
・・・その建物の中に女性が居るとも知らずに。
第二部、いかがでしたでしょうか。
第三王子シンノース様のモデルは皆様、大体お察しのことと思います(笑)。
いえ、私は幼少の頃から大好きなのですが。
次回の更新は3月7日20時となります。
3日に一度の定期更新目指してがんばります!
次もお読み頂けたら嬉しく思います。
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