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第一部 はた迷惑な召喚士(3)

第1話で、次回の投稿は26日です!と書いたくせにうっかり25日に投稿してしまいました(汗)。

なので、3話を26日に投稿します。

今後気をつけます・・・。


どうぞお楽しみ下さい。

「で、今まで不便だとか思ったことはなかったのか?」


男はあきれ顔で自分を召喚した張本人を見た。


「だって、ボクひとりだし・・・誰にも聞かれたこと、なかったなぁ」


スープをスプーンでいつまでもぐるぐるぐるぐるとかき混ぜている脳天気そうなその表情。これが元神様だと、一体誰が思うだろうか。

そう考えてから、こいつはほとんどの時間をひとりで過ごしているのだと思うとちくりと心が痛んだ。


名前も必要がないほどに、ひとりなのだ。ずっと。

そう考えてから、一瞬沸き上がった憂鬱な気持ちを振り払う。


あの夢は、昔起こったことで、自分には責任はないんだ。

こいつがひとりでいることに対して、後ろめたい気持ちを抱く必要だってない。

そうだ、大体が。

サエという女にしても、何故そんな簡単なことをしてやらないのだろうか?

人に飼われている犬や猫だって名前はついているんだぞ?


「名前・・・ないと、ダメなの?」


しばしの沈黙の後、不意に少し心細そうに男を見てそう問うその表情から思わず男は目を背けた。


名前すら与えられず、どこともしれない場所でたったひとり。

・・・それじゃ、まるで存在しないみたいじゃないか。

その言葉を、男は飲み込んだ。



--------



「とりあえず、作っておいた。工具があんまりなかったから、適当だけどな」


と、ボクが召喚をしてから10日ほどたったある日、お兄さんは言った。

表に出てみると、ボクから見るとどこが『適当』なのか分からないくらい立派な建物が出来ていた。


新しい木の匂いが、小屋に近づくほどにボクの体を包んでいく。

見た目よりも軽い扉を開くと、薄暗い中でも壁際に作られた棚がぼんやりと見えた。

ここに、採れた野菜や瓶詰めの果物なんかを置けるなぁと思うと、ボクの心は踊った。

人がふたり入っても余裕のある広さの小屋の中は、不思議と落ち着く空間だった。


「・・・『かんな』」


不意に、お兄さんが呟いた。


「かんながあればな、もっと綺麗な仕上げになったんだが」


それが何なのか、ボクには分からない。

多分、小屋を作るのに便利なものなのだろうなということだけ想像できる。

黙ったままのボクに、お兄さんは言った。


「だから、『かんな』はお前の名前にしよう、と思うんだが」


ボクはぱちくりと瞬きをした。

名前?ボクに?


その瞬間、何かがぶわっとボクの全身を駆け巡って、ボクは自分で自分の体を抱きしめた。

今までにない不思議な感覚がした。

でも、嫌な気分じゃない。

なんだろう。

ボクは、初めて今、ここに産まれた気がした。


「かんな」


そう呟いてみた。

それはボクの中へ染み込んで行く。

とても大切な、意味のある存在として。


「かんなって言うのはな、」


お兄さんはそんなボクの様子をじっと眺めていたけれど、しばらくして口を開いた。


かんなって言うのはな、色んなものの表面を滑らかにするための道具だ。

こういう、切り出した板なんかを削って、ぼろぼろだった表面を綺麗に生まれ変わらせる。それは見事にな。

俺たち大工にとっては絶対に必要なもので、奥が深い道具なんだ。

俺なんか、まだまだオヤジにも敵わない三流も三流なんだけどな。


それでも、俺だってもう少しマシに作れたはずなんだけどな、とお兄さんは小屋の壁をそっと撫でた。

ボクもお兄さんに倣って手を伸ばす。

お兄さんに切り出された木は、確かに表面が荒くて指がちくちくする。


「こういうささくれを、滑らかにしてくれる。本当に、残念だ」


そしてボクの頭に大きな手を乗せる。


「・・・だから、足らない分をお前に任せる。お前が『かんな』になれ」


そんな、無茶苦茶な。

だけど。

上手く言葉にできないけど、お兄さんの言う『足らない分』というのが、この小屋の仕上げのことだけじゃないとボクにはぼんやりと理解出来た。



---------



「そう、名前をもらったの」


珍しくサエさんが驚いた表情を浮かべて言った。

ボクは得意げに、うん、と強く頷いた。


「『かんな』って言うんだ。ボク、いろんなものを綺麗に仕上げるようにって!」


興奮して、自分でも何を言っているのか分からない。

でも、サエさんはかんなと言うものを知っているようで、しばらく考え込んでから、


「カツオブシが食べたいわね・・・」


と呟いていた。

そして今度、ボクの所へ来る時に、『かんな』も持って来てくれると約束してくれた。

サエさんは、まだ小屋の周りをうろうろして、ちょこちょこと何か作業をしているお兄さんを見た。


「良かったわね、『かんな』。あなたは今日、生まれ直したんだわ」


不意にボクは後ろから抱きしめられた。サエさんの温もりと柔らかさに包まれる・・・ボクは家族のことも覚えていないけれど、お母さんというのはこういう感じなのかなと呟いた。


サエさんはそれを聞いた瞬間にボクの体からぱっと離れると、ちょっと不本意そうに言った。


「おかあさんじゃなくて、おねえさんよ?かんな」

お読みいただきありがとうございます!


1回の文章量が短すぎる気が最近して来ましたっ(汗)。

さらっと読んでいただけたらと思ったのですが・・・もうちょっと長い方が良いのでしょうか?


次回は3月1日更新予定です。

こ、今度はちゃんと間違えないようにしますっ!


ご意見ご感想などいただけると嬉しいです。

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