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第一部 はた迷惑な召喚士(1)

ボクは召還士だ。

物心ついた頃から、この人気のない、まるで世界の果てのような場所でひとり暮らしている。


どうしてかって?

それは、実はボク自身にもよく分からない。

ただ・・・どうやらボクは『とんでもないこと』をやらかしてしまったようなのだ。

『ようなのだ』というのは、ボクには記憶が全くないからだ。




ボクの身の回りのことをしてくれるサエさんによると、かつてボクは、わりと優れた召喚士として将来を期待されていたらしい。

王国の孤児院でボクは育ち、そこで能力を見出されて養成所へ拾われた。

そして他の子供たちには教えられることも、もちろん使いこなすこともできない様々な術などを教わってきた。


ある時、ボクはどうやら古書部で見つけた古い本の一冊から『なんらかの召喚儀式』を見つけて、多分その頃のボクはとても自惚れていたのだろう、それを人目を忍んで実行してしまったのだ。


結果、ボクの記憶とともに養成所の三分の一は消し飛んでしまった、らしい。ヒトも、モノも、何もかも。




その惨劇の後、ボクはここに連れて来られて、それ以来ずっとここで暮らしている。

・・・というのが、サエさんから聞いた話だ。


どうしてボクが殺されないのかは不思議で仕方ない。

そもそも、ここがどこなのかも知らない。

これは、何らかの大人の都合、というものなのだろうか。

今のボクは、昔の才能はどこへやら、人よりそこそこ多めの魔力を持った、ただのやせ細った子供に過ぎない。


とにかく、それがボクが『認識』しているボクのおおよその人生だ。

そして、ボクがなぜだかずっと抱いているたった一つの不思議な願い。

誰かに強要されたわけでもないのに、そうしなければいけないと思い続けていること。


それは。



---------



ボクは、目の前でふらふらとしながら充血した目でこちらを見ている男の人にそっと手を差し伸べた。

アルコールの匂いがオーラのようにその身を包んでいる。


それでもボクは、その臭いを気にしないように努めて、出来るだけ厳かに口を開いた。



「・・・ようこそいらっしゃいました」



その人はボクの差し出した手をうろんな目で見ている。

相当酔っているのは間違いない。



「あなたが、『救世主様』ですか?」



次の瞬間、お兄さんのゲンコツがボクの頭に炸裂した。

そして悪態をつきながら石造りの床に倒れていびきをかきはじめた傍らで、ボクは涙目で頭を抱えながらうずくまった。



「また、失敗しちゃったよぉ・・・」



ボクが何故だかたった一つ抱いている使命感にも似た思い、それは『救世主様を召喚する』ことなのだ。



---------



「昨日はすまんかったな、ガキんちょ」


翌朝、昨夜とは真逆に青い顔をしたお兄さんがテーブルを挟んで座り、バツの悪そうな顔で言った。

とは言ってもバツが悪いのはお互い様で、ボクもうつむいて頷くだけしかできなかった。

まだ、頭はズキズキする。


「てっきり、モノ取りだか妖の類だと思ったんだ。まさか、道に迷った俺を助けてくれたなんてな」


そう言うと、お兄さんはテーブルに額をぶつける勢いで頭を下げた。

まだ酔いが残っているんだろうか。自分がどんなところにいるのか気付いてさえいない様子だ。

冷静に周囲を見渡してみればすぐにわかるような、こんな僻地まで迷い込む酔っ払いなんて居るはずがないのに。


ボクは本当のことを打ち明けようと顔をあげた。

ボクの引き起こした、この迷惑極まりない召喚の顛末を。

実は、と切り出したところで、鍵のかかっていないドアが開く音がした。

他に誰もいないこの土地では鍵なんか必要ないからだ。


「・・・サエさんだ」


ボクは立ち上がって、音のした方へ小走りに向かう。

息が詰まりそうな空気だったから、心底ホッとしながら。

何故だかサエさんは、いつもタイミング良く現れてボクを助けてくれる。


「あら、今日はお客様がいるのね」


両手いっぱいに抱えた藤のカゴからはとてもいい匂いがする。

焼きたてのパンが、カゴから少し頭をのぞかせている。

それから、爽やかな果物の香り、甘い何かの香り・・・そういったものが、酒臭かった部屋の中を浄化していく。



サエさんは、ここに住んでいるわけじゃない。

時々、ボクの身の回りの世話や、食料の調達なんかのためにここへやってくる、唯一の人だ。

どこから来ているのか、ボクは知らない。

前に尋ねてみたけれど、優しい瞳でボクを見てから、ナイショ、と言ってそれ以上は何も教えてくれなかった。


「うん、また失敗しちゃって・・・」


口にするまでもなくサエさんには分かっているんだろう、ボクの頭をぽんぽんと軽く叩いてからまだ頭をテーブルに載せたままのお兄さんの目の前にカゴを置いた。


「ねえ、外の畑に生えているハーブを適当に取って来てもらっていいかしら?それから、井戸からお水もね」


この人、二日酔いみたいだから、ね。

そう苦笑してから、サエさんはボクに向かって言った。

お兄さんはぼんやりと頭を上げた。そしてサエさんを見た途端に突然背筋をピシッと伸ばして椅子に座り直した。


サエさんを見た男の人は、だいたい同じような反応をする。


じゃあ、よろしくね。

サエさんの声を背後に聞きながら、ボクは外へと駆け出した。

はじめまして。手羽先と申します。

最後までお読みいただきありがとうございます。


初投稿なので、ガチガチに緊張しております。

次回は26日更新予定です。

気が向きましたらお立ち寄りくださいませ。


ご意見、ご感想などいただけたら幸いです(小躍りします)。

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