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第五話


 私の四人の友人達に、小説のリクエストを尋ねた結果、彼らが好き勝手に考えたお題はこのようになりました。


〉夢を見る人工知能

〉↑が、結婚式を挙げたいと夢見る

〉何ヲタでもいいから、オタクが出てくる話

〉ジャンル:ミステリー


 この四つのキーワードからどんな物語ができるのか、ご自分で想像してから、本編をお楽しみください。



【桜】

〉では、次は、わたくしが質問しますわ。

【トラップ】

〉書き込む前に三回は見直せよ。無駄遣いするな。

【けんすけ】

〉相変わらずの辛口コメントだけど、

〉慣れてくるとなんとなく愛嬌があるね。

【チュール】

〉質問できる人間があと少しだからな。

〉効果的なやつを一つ頼むぜ。

【GameMaster】

〉ここらで、一発確定してくれても構わないにゃ。

〉名探偵に遠慮する事ないにゃ。

【ホームズ】

〉その通りよ。

〉冷静にね。

【桜】

〉かしこまりました。

〉ポイントは、頭を使ってやることではなく、

〉体を使ってやること・経験を尋ねることだと

〉思うんです。つまり、

〉【質問】キスをした経験がありますか?

〉_



   ◆ ◆ ◆



   『名探偵の掟 ~人の境界~ 第五話』



   ◆ ◆ ◆



「なるほど、そう来る訳ね」

 如月弥生(きさらぎやよい)は楽しそうに頷いた。

 活き活きとした輝く瞳は、名探偵である彼女の、あふれんばかりの自信を感じさせた。

 場所は、僕――市原勝也(いちはらかつや)――通称イチガツの一人暮らしの部屋。机に置かれたノートパソコンの前である。

 僕達の目の前では、淹れたてのコーヒーが湯気を立てている。

 チャットに参加しているメンバーの中から、人間のフリをしている一台の人工知能を特定する、という謎。その唯一の手がかりとなる【質問】を、おそらく格闘家である【チュール】に続いて、趣味人【桜】が使った、と言う訳だ。

「【桜】はなかなかの切れ者だわ。この質問の仕方はなかなか考えられているわね」

「切れ者はともかく、考えられているってのは?」

 僕は、思ったままを口にした。

「体を使ってやること・経験を聞くべきだ、ってポイントにまで【桜】は到達しているわ。これは、ほぼ一回で人工知能かどうかを特定できるポイントなのよ」

 その言葉に、僕は驚かされる。

「え? 一回で特定?」

「つまり、人間ならば誰もがしていること、例えば握手とか、もっと言えばまばたきとか呼吸とかをしたことがあるかどうかを聞けば良いのよ。ただし、質問の仕方を工夫しないと」

「あ、『誰か一人が』って解答になっちゃうのか」

「その通り。きっと【桜】は、それを考慮した上で、あえてYESとNOに別れる質問をしたのね。少なくともこの質問で人工知能ではないと特定される人が出てくるはずよ。……でも、もしかしたら」

「もしかしたら?」

「名探偵に花を持たせてくれようとしているかもしれないわ。【桜】はこの状況を楽しんでるのよ」

 そう言って、彼女はその【質問】に、YESと打ち込む。その解答について、彼女と付き合い始めて四年になる僕からは、特にコメントする必要はないだろう。



〉【質問】キスをした経験がありますか?

〉GameMaster: NO

〉けんすけ: NO

〉桜: NO

〉チュール: NO

〉トラップ: YES

〉ホームズ: YES

【けんすけ】

〉これはこれで意外な結果かな。

〉若干セクハラ気味な質問にもとれなくないけど。

【桜】

〉真実の追究のためですわ。

〉でも、不快に思った方がいたら申し訳ありません。

【ホームズ】

〉別に気にしていないわ。

〉鋭い質問の使い方だったわ。グッジョブ。

【GameMaster】

〉確かに、これで人工知能が誰なのか、絞り込まれて

〉しまったかにゃ。

〉あえて体がないとは言わないけど、

〉確かにキスさせて見たことはなかったね。

【チュール】

〉でもキスかあ。いいなあ。

〉結婚してぇ。

【トラップ】

〉無駄口を書き込むな。

〉よし。では次は俺が質問を使おう。

〉解答によっては、一撃で人工知能を特定してやる。



「お。いよいよ【トラップ】の質問か」

 僕は、身を乗り出すようにしてディスプレイを覗き込んだ。【桜】の質問にも感心したが、切れ者っぽい雰囲気を滲ませているのは、断然【トラップ】だと思う。具体的に指摘することはできないが、ただ者ではない気配がディスプレイの活字から感じられるような気がするのだ。

「これで、彼が口だけの辛口コメンテーターか、それとも本当に『罠使い』なのか分かるわね」

 弥生もディスプレイを見ながら言う。

 今ひとつ、その『罠使い』というのがどういうものなのか、僕には分からなかったが、もしも読んで字のごとくだとしたら、つまり――。



〉一番重要な点は、人工知能だけを特定する質問では

〉ダメだと言うことだ。人工知能と、誰かもう一人が

〉該当する質問をしなければいけない。

〉その点【桜】の質問は悪くなかった。

〉俺と【ホームズ】が人工知能でないと特定できた。

〉俺は、別の観点から絞り込む。

〉このチャットに入る時に全員が書いた

〉プロフィールを覚えているか?

〉あそこに『人間/人工知能』という項目があった。

〉今、確認したが、全員が人間と書いている。

〉つまり、人工知能は嘘を書き込んでいる。



 そう、彼が読んで字のごとく『罠使い』であるならば、このチャットが始まった時にはすでに――。



〉ちなみに、俺のプロフィールは全て嘘だ。



 ――全員が、彼の罠の中にいることになる。



〉つまり、俺と人工知能はプロフィールに

〉嘘を書き込んでいるということだ。

〉これを手がかりにして、チェックメイトだ。

〉【質問】プロフィールに嘘を書き込んだ?

〉_



「ああ!」

 僕は思わず声を上げていた。

 彼の言う通り、チェックメイトだ。

 これで特定された。

 自分と人工知能があてはまる質問、そんなことができれば、確かに一撃で人工知能だと特定できる。

 緻密に考え込まれた発想と、そしてあらかじめ自分自身が嘘を書き込んでいる――彼が自発的にそうしたということはつまり、これは『罠』だ――ということが、この質問を可能にしたのだろう。

 【トラップ】の名は伊達ではないという事か。

 次の質問の結果、【トラップ】の他にYESの表示が現れた者が、人工知能だ。

「弥生さん、これで詰みじゃないか。なんてこった。名探偵の出番が――」

「いいえ」

 珍しく弥生は苦い表情を見せながら首を横に振って見せた。

「確かにこの質問は必殺の一撃だわ。でも、ダメ。これでは上手く行かないわ」

 そう言って、本当に残念そうに――。

 YESと打ち込んだ。



〉【質問】プロフィールに嘘を書き込んだ?

〉全員がYESと答えました。



 その答えを見て。

 僕は思わず絶句してしまった。



【トラップ】

〉あははははははははは!

〉こいつは良い! 傑作だ! この嘘つきどもめ。

〉俺がどれだけ画面の前で爆笑しているか

〉見せてやりたいぜ。



「――ああ、そうかぁ」

 僕は、ここでようやくこの質問が最初からダメだったということを理解した。

 何しろ、弥生さんはプロフィールに嘘を書き込んでいた。この結果を見る限り、他のメンバーも、全員だ。

「弥生さん、みんなのプロフィールを見てみよう」

 僕の言葉を受けて、弥生さんがチャット内容に合わせてそれぞれのプロフィールを表示させる。



【GameMaster】

〉一瞬、特定されたかと思ったにゃ。

〉でも、良く考えたら、私も嘘を書き込んでいたね。



【プロフィール:GameMaster】

【人間/人工知能】 人間

【男/女】 女

【血液型】 A型

【年齢】 29歳

【学年】 教授

【身長】 160

【体重】 ヒミツ

【髪】 黒のロング

【視力】 いつもメガネ

【好きなもの】 発明

【嫌いなもの】 論文作成の指導

【性格を一言であらわすと】 酔狂

【自分を一言であらわすと】 マッドサイエンティスト



〉身長をちょっとサバ読んでしまったね。

〉昔から背がちっちゃいのが悩みでね。

〉みんな会ったことあるから分かると思うけど、

〉本当は150ないくらいなんだにゃ。

【桜】

〉小柄で可愛らしいと思いましたのに。

〉気になさっていたんですのね。

〉って、この喋り方もやめた方が良いですよね。

〉ごめんなさい、僕も嘘ついてました。



【プロフィール:桜】

【人間/人工知能】 人間

【男/女】 女

【血液型】 O型

【年齢】 21

【学年】 学部3年

【身長】 162cm

【体重】 70kg

【髪】 軽く茶色にしています

【視力】 メガネ着用

【好きなもの】 アニメ、マンガ、特撮

【嫌いなもの】 体を動かすこと全般

【性格を一言であらわすと】 凝り性

【自分を一言であらわすと】 古いタイプのオタク



〉ごめんなさい。僕、本当は男です。

【チュール】

〉あやー。おんなじような人がおったんね。

〉実は、うちもや。



【プロフィール:チュール】

【人間/人工知能】 人間

【男/女】 男

【血液型】 O型

【年齢】 18才

【学年】 1年

【身長】 フツー

【体重】 ヒミツ

【髪】 短いけど後ろでしばってる

【視力】 コンタクト

【好きなもの】 格闘技

【嫌いなもの】 勉強

【性格を一言であらわすと】 一撃必殺

【自分を一言であらわすと】 結婚したい格闘バカ



〉うちも、実は女や。

〉これくらいの嘘は大丈夫やと思って。

〉かんにんな。

【けんすけ】

〉いや、完全にお互いさまだよ。



【プロフィール:けんすけ】

【人間/人工知能】 人間

【男/女】 男

【血液型】 A型

【年齢】 22

【学年】 学部4年

【身長】 175cm

【体重】 65kg

【髪】 明るい茶

【視力】 裸眼で1.5

【好きなもの】 テニス

【嫌いなもの】 部長挨拶

【性格を一言であらわすと】 明るい

【自分を一言であらわすと】 面倒見のよいテニス部長



〉本当は26才なんだよ。

〉浪人とか留年とかいろいろして、格好悪いから。

〉でも、確信犯で嘘ついてたヤツもいるんだろ?



【プロフィール:トラップ】

【人間/人工知能】 人間

【男/女】 男

【血液型】 B型

【年齢】 20

【学年】 2年

【身長】 172

【体重】 62

【髪】 黒

【視力】 メガネ

【好きなもの】 謀略

【嫌いなもの】 自分の思い通りにならないこと

【性格を一言であらわすと】 残忍

【自分を一言であらわすと】 罠使い



【トラップ】

〉ああ、罠だからな。

〉ちなみに、血液型から視力まで、全部嘘だ。

〉不明のままにさせてもらうぜ。

【ホームズ】

〉私も、その、身長がコンプレックスで……。



【プロフィール:ホームズ】

【人間/人工知能】 人間

【男/女】 女

【血液型】 AB

【年齢】 19歳

【学年】 学部1年

【身長】 160cm

【体重】 57kg

【髪】 肩に届かないくらい

【視力】 良い

【好きなもの】 謎解き

【嫌いなもの】 よく分からないこと

【性格を一言であらわすと】 沈着冷静

【自分を一言であらわすと】 名探偵



【桜】

〉ごめんなさい。僕が言ってもアレですけど、

〉小柄な女性は可愛いと思いますよ。

【チュール】

〉そうやで?

〉うちなんか、女のクセに身長高すぎて、

〉男どもに引かれてしまうくらいや。

【けんすけ】

〉いやいや、皆さん、中身で勝負ですよ。

【トラップ】

〉関係ないな。

【GameMaster】

〉にゃはは。

〉まあ、ホームズさんも、

〉同じちっちゃいもの同志、強く生きて行こうにゃ。



「あはは。こんなに慰められちゃってるし」

 そう言いながら、僕は弥生の顔を見た。

 弥生はディスプレイをにらみつけながら、頬を膨らませてムッとしている。

 と思ったのに。

 彼女は、唯一のコンプレックスである身長についてさんざん盛り上がられていることを、全く気にしていないようだった。

 いや、それどころか。

「ふふ」

 笑っていた。

「そう言う事ね……」

 彼女の横顔を驚いて見つめる僕には気付かずに、思わず口をついた、というように言葉がこぼれた。

 その表情は、紛れもなく名探偵の笑顔だった。

 その輝く瞳は、いつにも増して気迫に満ちていた。

 やがて、彼女は僕を見ると言った。

「名探偵の掟、その50。名探偵は、解決編の始まりを宣言すべし」



 弥生は、厳かに解決編の始まりを告げる。



「これで、全ての謎を解き明かすことができるわ」

「え――?」

 唐突に宣言されたその言葉に、僕はついて行けない。

 今の、プロフィールの嘘の中に、そんなにも重要な手がかりが隠されていたのだろうか。



「たった今からこの私が、人と人工知能との境界線を刻んであげるわ」



(『名探偵の掟 ~人の境界~ 第五話』完)



 続きます。

 次回をお楽しみに。


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