第一章 運命の歯車が回り始めて〜聖華サイド〜
私ー龍宮妃聖華ーは、玉依毘売神社の境内にて、ある人物を待っていた。けれど、なかなか来ないから不機嫌。
玉依毘売神社は、その人物のためだけに騒いでいるというのに。
「斗真、何やってるのよ………」
五人中一人の幼馴染の名前をぼやきながら、足元を転がっていた小石に手を伸ばす。拾い上げ、掌で転がしてみる、が、何も起こることなどなくて。
「百合華姫様」
私を当主名で呼ぶのは、この神社ではただ一人。
「何かありましたか、魅鞠」
後ろを振り返りながら、彼女、否、名瀬魅鞠の名を呼ぶ。
「いえ、あの方は………まだいらっしゃらないのですか?」
「ええ。斗真を行かせたのが悪かったかしら」
「それはないと思います」
その言葉を聴き終えて、私は魅鞠に背を向けて空を見上げた。
何もない、真っ青な空。私がこの空を見上げても、綺麗と思う日は、一度もないだろう。
刹那。
身体の中を、電流が駆け抜けるような痛みが走った。その衝撃で、私は声にならない悲鳴を上げることになった。
「っ!!」
「百合華姫様!?」
顔を歪め、私はその場に倒れこんだ。
「姫様!?」
私は、魅鞠に支えられながら、境内に長座のような姿勢で座った。
「結界に、侵入、してきたわ」
息も絶え絶えに、私は魅鞠を見上げながら言葉を紡いだ。
「え………?」
私の言葉に、魅鞠は困惑していた。
結界を張っている、この鬼降村。本来、村の住人が出入りしたとしても、このような衝撃は受けることはない。故に、この村に、何者かが侵入したと私は考えた。それは、魅鞠も同じようで。
「どうなさいますか?」
「相手を調べます………だから、波紋を広げますーーーーー黒姫」
魅鞠に手を貸してもらい立ち上がりながら、名を呼ぶと、何もなかった私の隣から、水が揺れた時のような波紋が広がり、そこから黒一色の九尾が現れた。
その九尾こそが黒姫。私の式神の一体。
「黒姫、波紋を広げて。この村に入ってきた者を洗い出しなさい」
私が言葉を言い終わると、黒姫は頭上まで何もない空間を歩いた。すると、そこから黒い水が発生し、円になってそれが太陽や真っ青な空を隠して行く。
そして数分すると、鬼降村の空を覆い尽くした。けれど、その水は一般の人には見えてないだろう。
多い尽くしたのを確認した私は、目を閉じて、結界周辺に意識を集中させた。
「二人確認したわ。一人は斗真だから、一応、村には着いたのね」
目を閉じたまま、独り言のように呟いた。
やっと、待っていた人物が着いたようだ。
意識を解放すると、水が消えて、また太陽や真っ青な空が現れた。そして、黒姫も姿を消した。