ライバルVS②
「ひいいいいいっオイラが負けたどー・・カード取られるどー」
「失せな」
「ひっ?」
「とっとと失せろデブゥ!もう俺のまえに、姿をあらわすんじゃねェーぞ!今度見つけたら、カード全部・・・破り捨てるぜぇ・・ぎゃははっ」
「ひいいいいいい!」
裏前田 勝負は、這いつくばるようにドームを去っていた。
「あ・・兄貴ィィ待ってください」
その子分も一緒に。
「ったく・・・ジュリンしがいのねー連中だぜ」
その情けない去りぎわを、大地は、ため息をつき見ていた。
そして空のほうを振り返り。
「よう、空。見たか、この俺のいまの実力を」
「ああ、ドラゴンデッキを使ってるんだな・・」
それを聞いて 大地はすこし不機嫌な顔になる。
「・・・・・・・それがどうした・・・なにか文句でもあるのか?」
「いや別に」
「・・・・・・・ケッ、じゃあ俺はいくぜ」
「大地」
「!」
空は帰ろうとする大地を呼び止める。
そして、申し訳なさそうに笑って謝る。
「あのときはごめん」
「謝んじゃねェーー!」
その言葉に大地は、激昂する。
「謝って済む問題じゃねェーだろアレは!・・・・アレだけはよォ」
「そうだな・・・ごめん」
「俺はテメェーを許さねェー・・・どんなことがあっても」
その様子を真琴は、いたたまれない気持ちで見ていた。
(一体・・・師匠と大地君の間に、何があったんだろう?それに師匠のあんな悲しそうな顔・・初めてみる)
「俺とやりたいなら、約束の場所でやってやるよ・・・そこまで来な」
「決勝か・・・」
「チッ覚えていやがったか」
「あたりまえだろ」
その言葉に悪態をついて、大地は話し始める。
「・・・・・・東京でもうすぐ、モンスタートランプの大きな大会が開かれる。そこの決勝でなら、おまえのいい訳くらいは聞いてやるよ・・・まあ、どんないい訳だろうが、俺がおまえをジュリンしてやることにはかわらねェーがな、ぎゃははつ」
空はニッと笑い。
「絶対に行くさ、約束だ」
「・・・・ケッ、せいぜいかんばりな」
大地は振りからずドームを去っていった。
その姿を空は、ずっと見ていた。
無言で立ち尽くす空に、真琴は尋ねる。
「師匠・・・・あの人と師匠の間に、一体、何があったんですか?・・教えてください」
「・・・・・・・・」
空は答えようとはしなかった。
そんな空に、いつもより強い口調で、真琴は語りかける。
「あの人も師匠の友達ですけど、ボクだって師匠の友達です。大切な友達なんです!
だから教えてください。力になりたいんです。お願いします」
その言葉に一瞬、空の硬くなった表情が崩れ。
「ああ・・ありがとう真琴」
「・・・・あの人が言っていた、師匠が裏切ったってどういう意味ですか?何かの間違いに決まってます。ボクは信じません。空くんが人を裏切るなんて、だから真実を教えてください。僕に」
空はその重い口を開き、語り始めた。
「・・・・・あいつとは・・山田大地とは、4年前、はじめて出会ったんだ」
とある小学校の教室。
一人の生徒が、暗い雰囲気で席に座っていた。
前髪は、目がすべて隠されるほど長く、それが、よりいっそうその生徒の雰囲気を、暗くしていた。
まわりの生徒が、その生徒についてヒソヒソ話し始める。
「そういえば山田の奴、最近なんか暗いよな」
「知らないのか、あいつ、親に捨てられたんだよ」
「マジ?」
「まじまじ、でさー今じいちゃんのとこに引き取られて、暮らしてるらしいぜ」
「へー捨て子かー・・・かわいそう」
山田 大地。
彼は生きている意味を失っていた。
別に死にたいのではない。
ただ、自分がなんのために生きているか、わからなくなっていたのだ。
自分に生をあたえてくれた人達は、自分を捨ててどこかに行ってしまった。
自分はこの世界で生きていていいのだろうか、不要な存在ではないのだろうか。
彼は葛藤していた、自分の存在意義に。
「やあ 」
「・・・・・誰?」
大地は空と出会う。
運命的出な会いであった。
彼がそれに気づくのは、かなり先のことだが。
「あれ?自己紹介聞いてなかった。今日からこの学校に転校してきた、大空 空だ、よろしくな」
「・・・で 何?」
興味なさそうに大地は聞いた。
どうでもいい、そんな雰囲気だ。
「モンスタートランプやろうぜ。オレと」
大地とは真逆の雰囲気で、空は笑って言った。
「いやだ・・・・・・・・・でも、なんで、僕がモンスタートランプやると?」
「いや勘だけど」
「・・・・・・・」
「オレさーモンスタートランプやる奴は、なんとなくわかるんだよねー・・それが強い奴ならなおさら。おまえからはそういう強そうな匂いを感じる」
「意味不明。やりたくない」
「そっか、やろうぜ」
「話し聞いてる?」
「ああやろうぜ」
それが空と大地の、初めての出会いだった。
一年後
空と大地は、放課後の教室で、モンスタートランプでカードバトルをしていた。
「勝った、コレでオレの689連勝だな」
「さすが空だね。やっぱり強いよ・・・いや、僕が弱いのか」
「いや、そんなことはないぜ。大地は、大会じゃ結構上位にいるし、オレが強いだけ。いつか勝てるさ」
「ははっ、じゃあ手加減してよ」
「却下」
「だと思った。あはは」
大地は笑うようになった、空との出会いが彼を変えたのだ。
2人は毎日のように、モンスタートランプに明け暮れていた。
「空・・・地方大会優勝おめでとう。これで全国大会だね」
「何言ってんだ、大地もでるじゃん」
「でも・・俺は、ギリギリベスト8での、出場だから」
「トーナメント表みた?」
「あ・・・うん」
「決勝でオレたち当たるな」
「決勝って・・・全国大会だよ。無理だよ、俺は一回戦負け」
「じゃあ約束だ、決勝でカードバトルしようぜ」
「だから無理だって・・・まったく・・・・いつも君は人の話しを・・」
「あーあー聞こえないあーあーー」
「ふぅ・・・無理やりだなーキミはいつも・・まあ、でも、そのおかげで俺は、キミと友達になれたんだから、感謝してるよ、空」
「あははっおおげさだなー大地は」
「いや、君がいたおかげで、俺は立ち直れたんだ。キミは俺にとって、かけがないのない友人だよ」
「なんか照れくさいなーオレはただ、強そうな奴とカードバトルしたかっただけなんだけどなー」
「それでもキミに、お礼をいわせてくれ、ありがとう。キミに会えて俺はよかった」
「・・・・・・空」
「ん?」
「空はなにか夢はある?」
「夢?」
「俺は昔から、カードポリスになりたかったんだ」
「カードポリス?」
「人々のカードを奪う連中から、カードを守る仕事だよ」
「正義の味方みたいなのか?」
「ああ そうだね、僕は正義の味方になりたいんだ・・・・・・その、変じゃなかなーこんな弱い僕じゃ」
「強いって、だから大地は相手が悪いだけ」
「・・・・・空は・・・・空の夢はなんだい?」
「オレ?・・・・オレは・・・・・んーーーなにかピーンとくるものがないなー毎日楽しくモンスタートランプできればいいや・・くらいにしか」
「空らしいね・・・でも空なら、世界一のモンスターバトラーになるとか、だと思ったんだけど」
「お!ソレいいねーピーンときた。それでいいや」
「ははっ適当だなー」
「でも世界最強じゃつまらないなー」
「それ以上があるの?」
「宇宙最強にしようよ」
「え?」
「そっちのほうがかっこいいし、ワクワクするしな。よし決定」
「・・・・・宇宙人っているの?」
「いるかもしれないだろ」
「あははっそうだね、いたらいいね」
「大地も一緒に目指そうぜ」
「え?でも・・・僕にはもう夢が・・」
「じゃあ2人の夢ってことで目指そうぜ」
「2人の夢?」
「ああ、2人で宇宙最強のモンスターバトラーになるんだ。なっ、いいだろ?なっ」
「・・・2人で・・・か・・・・・・・・うんいいよ、なろう」
「じゃあ、こんどの全国大会の決勝で会おうぜ」
「だから無理だって俺なんかじゃ・・・・」
「そんなことで、2人で宇宙最強を目指せると思っているのかバカ者!心意気くらい決勝を目指せバカ者」
「何・・・・そのキャラ?」
「にひひっ鬼軍曹。大地はいつも消極的だからな、これくらいビシッと言わないと・・・・それに、たかが全国大会の決勝だぜ、オレたちの夢にくらべれば、小さい小さい」
「・・・・・・・・そうだね、たかが全国大会の決勝だね。俺たちの夢に比べれば全然ちっちゃいね・・・うんわかった、決勝で会おう。空」
「ああ約束だ、大地」
2人は指切りをした。
2人には、宇宙最強は1人しかなれない、そんなことはわかっていた。
でもそういうのとは違う。
2人で目指すから意味があるのだ。
2人だからこそ開ける道もあるのだ。
2人はライバル。
永遠のライバル。
互いを互いが高め、強くしていく。
そんな関係こそ、2人が本当に望んだ、夢だったのかもしれない。
全国大会、その翌日の夜。
大地の家に、一本の電話がかかってくる。
トゥルルルルルル。
「はい山田です」
「あっ大地!」
「あっ空!どうしたの、こんな時間に?明日、全国大会だよ?」
「じつは明日の大会、家の用事で出られなくなったんだ」
「えええええええええ!本当に?」
「ああ、ごめん約束守れなくって、ほんっっっとゴメン」
「・・・・そっか・・・仕方ないよ、家の用事なら・・・俺もその気持ちはわかるから」
「そっかごめん」
「いいよ・・・それに、一番残念なのは、空なんだし。約束ならまたいつでも果たせるよ。俺たちの夢は、まだまだこれから果てしなく遠いんだ・・・・元気だして」
「ああ・・・・ごめんな・・・大地」
「だから謝らなくていいって」
「でさーオレ、たぶん大会の会場にいけるのは、決勝戦が始まってくらいだと思うんだよ」
「そっか、決勝は見れるんだ」
「ああ」
「だから決勝で戦う大地のこと、応援してるから、絶対、優勝しろよ」
「うん、できるかどうかわからないけど、気持ちだけは絶対優勝する気でやるよ」
「ああがんばれ大地・・・じゃあな・・・また一緒に、いつかモンスタートランプやろうぜ」
「え?・・・・あ・・うん・・またね空」
「・・・なんだろう空・・・今日はいつもよりずっと・・ずっと変だった・・・・・・」
全国大会決勝が終わり。
「全国大会、優勝者は・・・・・山田 大地君です」
ワアアアアアアアアアアアアアア。
観客席から割れんばかり歓声がおきる。
1位の壇上には、山田 大地が立っていた。
大地は嬉しかった。
だが、優勝の喜びより、ずっと嬉しかったのは、空との約束を守れたこと。
(やった・・・やったよ空。俺、優勝したんだよ。この会場のどこかで、キミは見ていてくれてるよね?)
壇上の大地に、大会関係者のお姉さんが、見たことのある箱を持って近づいてくる。
「君が、山田 大地くんね」
「は・・はい、お・・・俺になんか用ですか?」
「じつはね・・・決勝の途中、この箱を、あなたに渡してほしいって子から、受け取ったのよ」
その見覚えのある箱を大地は受け取る
開けてみた。
「こ・・・これは、空の全カードじゃないか・・・それに、空のドラゴンデッキまで。なんで僕に・・・・」
「たしかに渡したわよ・・・・あ、そうだ・・・それと、はい、この紙も、君に渡してほしいって」
「!」
「こ・・・これは・・・・・・・」
その紙を読んで、大地の体は、ぷるぷると震えていた。
空の字で、そこには、こう書かれていた。
『ごめん大地、オレ、引っ越すことになった。だからモンスタートランプ続けられなくなった、ごめん。このデッキとカードはおまえに託す。またな』
「なっなんなんだよコレ!なんなんだよォォ空ぁぁぁぁぁ!!!」
大地は、壇上の上で叫んだ。
(なんだったんだよ・・俺との約束は?・・・一緒にモンスタートランプで宇宙最強になろうって、約束したじゃないか・・・俺を裏切るのか?俺を捨てたあいつらのように・・・・引っ越しても続けられるはずだろ?いつかまた、2人でどこかの大会の決勝で、戦えばいいじゃないか・・・・それなのに・・・やめるってなんだよォォ!)
「ふざけんな!」
ドガッ。
大地は壇上の床を、両手でおもいっきり叩く。
その手からは血が滲んでいた。
(空ァァ・・・おまえは、あいつらと一緒だ・・・おまえは、俺を捨てたんだ・・・2人の夢と絆を捨てたんだ。許さない空・・おまえをだけは、絶対に許さない・・・・)
「空ああああああああああああ!」
ゴォオオオオオオオオ。
海外にむかう、飛行機の中、空とその母親と妹が、座席に座っていた。
「よかったの空?大地くんにちゃんとお別れ言わなくても」
「ああ、飛行機の時間もなかったしね、それに、今日は大事な大会があったから、そんな時に引っ越すだなんて言ったら、きっと大地は負けちゃうよ。オレだって昨日、オヤジにモンスタートランプやめろって言われたうえ、モンスタートランプのまったくない国に引っ越す、なーんて言われた時は、死ぬほどヘコんだし、そんなことあいつには言えないよ」
うつむき喋る空は、飛行機の窓の外を見た。
「それに・・・ちゃんとお別れを言って、やめる事情を話したら、あいつも一緒に、モンスタートランプやめちかまうしれない。オレはいまは・・・モンスタートランプをやめなくちゃならならない、けど、いつかまた・・・絶対、モンスタートランプをやってみせるんだ。そのときに言うんだ、あいつに・・・・また、モンスタートランプやろうぜ・・・ってさ、あいつに・・オレの大切な友達に」
空の頬を涙がつたう。
「そ・・・そんなことが・・・・・」
「なあ、真琴・・・・オレのせいであいつは、あんなになったのかな?オレのせいで変わっちまったのかな・・・あいつは」
「・・・・・・・」
真琴は言葉がでなかった。
「あの・・・」
「!」
1人の少女が2人に話しかけてきた。
その両手には、子猫が抱き抱えられている。
「その・・さっきのバンダナのお兄さんの、お友達ですか?」
「ああ親友だ」
(師匠・・・)
「じゃあ、あの・・・伝えてくれますか。さっきは助けてくれて、ありがとうって」
「!」
「え?それってどうゆうこと」
真琴は、猫を抱きかかえた少女に尋ねてみる。
「あの・・・さっきのいじわるなお兄さんが、この猫ちゃんをいじめてたの。だからわたしやめっていったの。でもやめてくれなくて、それでわたしが泣いちゃっている時、あのバンダナのお兄さんが、その人にカードバトル挑んで、助けてくれたの・・・だから」
それを聞いた空は、いままでも曇っていた顔を晴らし、ニコやかに笑って答える。
「そっか・・・・・わかった、伝えておく。決勝でまた、あいつに会うからさ」
「はいよろしくお願いします」
「にゃー」
猫と少女は、手を振りながら去っていった。
『僕は正義の味方になりたいんだ』
少女の言葉を聞いて、あのとき大地が言っていた言葉を、空は思い出す。
空は確信した、大地が何も変わっていないことを。
「師匠」
「ああ、変わってなかった。大地は大地のままだった。オレの大切な親友のままだ、何も変わっちゃいない・・・・あとは、オレの想いを、決勝であいつにぶつけるだけだ」
「はい!きっと伝わります、師匠の気持ち、絶対っ!あの人も本当は師匠と仲直りしたいんだと思います。でも素直になれなくて・・・だからあんなこと言ったんです、決勝までこいって」
空はニッと笑い。
「そうだな・・・・まずは約束を1つ守るか。・・・・大地、いってやるよ・・・・おまえのすぐ側まで絶対にいって、伝えてやる。オレの気持ちをカードにこめて、カードバトルでおまえに伝えてやる。待ってろよ大地!」
「ガンバです師匠」
こうして師匠と大地くん、二人の親友の3年ぶりの再会は、最悪の形に終わった。
でも、きっといつか、二人はわかりあえるとボクは思う。
だってもう二人は再開し、また結ばれたのだから、モンスタートランプというカードの絆で。
でも、その結末が、あんな形で終わるなんて、誰も予想することはできなかった。