ワールドカップ前日②
「チッ・・・・何、グダグダやってんだァ!もう飛行機の時間だろ!いくぜェ」
「ああそうだな大地・・いこうぜ」
日本代表メンバーたちは、飛行機の搭乗口に移動した。
飛行機内。
飛行機の座席は全員エコノミークラスだ。
座席が隣同士になったのは、大空 空と明智 佐衛門、山田 大地と伊集院 一郎、愛媛マリアとみかん 上多 真琴と海原 クルトだった。
隣の席に座った佐衛門が空に話しかける。
「空はん、おひさしぶりどすな・・」
「ああ、ひさしぶりだな、佐衛門」
佐衛門は飛行機内なのに、豪華な着物と髪飾りをしていた。
「うち・・・あんたのおかげで、モンスタートランプ・・・続けられようになりましたわ・・・・ほんまにありがとう・・・・」
「ああ、そんなことか・・・どうでもいいよ。また今度、一緒にカードバトルやろうぜ」
「え・・・ええ・・・」
ドキドキ。
(はぁ・・・・なんやろう・・・この胸の痛み・・・・ズキズキする・・・・適当な理由でも、付き合っているとわかっただけで、胸が締め付けられるようなおもいどす・・・・まさか・・・・これが噂の・・・・・・)
「はぁ・・はぁ・・・・・そ・・その・・・空はん」
「ん?」
「そ・・・・その・・・・う・・うちにもまだ・・・・ちゃ・・・チャンスはありますやろか?」
「何が?」
「だ・・・だから・・・恋人になれる・・・・ちゃ・・・チャンスぅ・・・」
「ああ・・・恋人ね、毎日、一緒にカードバトルすることだろう・・・・なら、あるじゃないか」
「ほ・・ホンマに!嬉しい!」
佐衛門はうれしさのあまり、真っ赤な顔を扇子で覆った。
後ろの席で、その会話を聞いた真琴は思う。
(し・・・師匠・・・まさか・・・・毎日、一緒にモンスタートランプができれば、恋人は何人でも作れると思っているんじゃ?・・・・まあ・・・・マリアさんのあの説明と、師匠の天然さを合わせれば、その答えにいたっても仕方がないと思いますが・・・・それでも、佐衛門さんにはチャンスはありませんよ。その人は男ですから・・・・逆にチャンスがあったらヤバいです・・・・)
真琴は、空に対して、一抹の不安を抱きながらも、自分の隣にも、その不安様子があることを懸念する。
真琴の隣にいた海原 クルトは、携帯ゲーム機で遊びながら、さきほどから一言もしゃべってはいなかった。
「あの・・・・クルトくん」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
真琴がそんな沈黙に耐えられず、クルトに話かけるが、何も反応が返ってこない。
クルトは真琴の言葉を無視しているというより、完璧にまったく聞こえてないよう様子だった。
「あの・・・・・・・・クルトくぅん」
もう一度、話かける。
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
だが、やっぱり聞こえていないようだった。
「あのーーーーー!クルトくん!」
今度は息を吸い、大きめの声で話しかける。
「・・・・・・・・何?」
やっと声が届いたらしく、視線はずっと携帯ゲーム機に向けられていたが、こちらに話かけてくれた。
「あ・・・あの・・・・クルトくん、何やってるんですか?」
「ゲーム」
「なんの?」
「・・・・・・・・・」
コレ以上しゃべるのがめんどくさくなったのか、クルトは黙ってしまった。
(ううっ・・・・会話が持たない・・・・何、話していいかわからないよぉ・・・・・)
真琴はこれからハワイまで、この沈黙に耐え続けないと思うと、ガックリうなだれる。
そして大地と一郎の席では。
「ふん。まさか君なんかと、隣の席だとはねー・・・この僕の隣に座れたことを、感謝するべきだね」
一郎は大地に、さきほどからペラペラと、挑発にも似たような言葉を話し続けている。
だが、どこか大地に対して、怯えた雰囲気も持っていた。
前回のカードバトルで、こっぴどくやられたことが原因だろう。
「聞いているかい?聞いているよね?この僕の言葉だよ・・・日本チャンピオンのさー」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
(ウゼェーーー・・・!うるせぇー・・・・・・・寝よっ・・・・)
大地は、一郎とは正反対の方向を向くと、眠り始めた。
だが、そんな大地を無視するかのように、一郎はしゃべり続ける。
「言っておくけどねー・・・あの時の僕は、全然・・・本気じゃなかったんだよ・・・
わかってる?ん?わかってるよね?」
(ウザすぎる・・・・・・何度目だよ・・・・クソッたれっ・・・・)
酔っ払いのように、何度も同じ話しを続ける一郎に対して、大地はイライラしっぱしだった。
「今度は、本気をだしてやってあげるよ」
「本気は出すなよ・・・・」
大地は初めて、一郎の言葉に応える。
「おっ、なんだい?・・・それは僕に対して、手加減してほしいってことかい?・・・仕方ないなー・・・土下座でもして頼むなら、手加減してあげるよ」
「本気だして、ここでは絶対、漏らすなよ」
「き・・貴様ァァ!」・
その言葉に、一郎は真っ赤になり、怒った瞬間、吐き気をもよおす。
「・・・・・・・ウプッ」
あまりにも興奮したせいと、元々乗り物酔いしやすい体質のせいで、飛行機酔いしてしまったようだ。
一郎は、トイレに駆け込む。
その様子を見て大地は。
「・・・・ったく・・・騒がしい奴だ・・・・・・・・・・・・・・ぐーぐーーー」
大地は眠りについた。
マリアとみかんの席では。
「なんであんたと、隣同士なのよ?」
「それは私の台詞だな・・・・」
マリアとみかんは互いに反対方向を向き、喋っていた。
すこし長い沈黙が続くと、みかんがマリアに尋ねる。
「・・・・・あんた・・・・・なんで空のこと好きなの?」
その言葉にマリアは、すこし真剣な顔をして、みかんの方を見て話す。
「好きではない・・・・・・」
「はあ?・・・じゃあなんで・・?・」
「愛だ」
「あ・・・愛?」
「愛しているからだ」
「なっ」
その言葉にかみかんは、自分が言われた訳ではないのに顔を赤らめる。
その様子を見てマリアは笑う。
「ふっ・・お子様にはわからないか・・・・」
そしてマリアはまた、反対の方を向いてしまった。
「なっ!・・・あ・・あたしだってね・・・・空のことを・・・・・・・」
「なんだ?」
みかんは言葉につまりながらも、その想いを吐きだそうとする。
「あ・・あ・・・あ・・あ・・・あうううううっ・・・・・」
だがダメだった。
「だからなんだと聞いている?私にさえ言えない言葉なのか?」
その挑発じみた言葉にみかんが切れる。
「愛しているわよ!」
「!」
みかんは立ちあがり、飛行機中に聞こえるくらいの大きな声で叫ぶ。
ざわざわ。
その言葉を聞いた乗客たちは、視線をみかんに集める。
みかんは真っ赤になり、縮こまるように席に座ってしまった。
「・・・・・・・」
「おまえなー・・・なんてバカでかい声で・・・・・」
マリアはあきれたように言う。
「う・・・うるさい・・・・あんたのせいでしょ・・・黙りなさいィ!」
観客たちは、ずっとみかんを見ている。
「ううっ視線が痛い・・・・アイドルで慣れているはずなのに・・・・ううっ」
その様子をみてマリアは、あきれたようにため息を漏らすと、立ちあがった。
「ふぅ・・・・仕方ない・・・・このまま、ハワイまでこの調子じゃ・・・隣の私までいたたまれない・・・・なんとかしよう・・・」
「!・・・ど・・どうする気?」
「こうする」
マリアはさわやかな顔でみかんに笑うと、以前つけていたぐるぐるメガネを装着して、以前と同じような口調で話し始めた。
「すいませぇーん、みなさぁん。実はわたしぃ・・・いまぁ、彼女からぁ愛の告白を受けちゃいましたぁ」
「はぁ!」
みかんはその言葉に、口をぱっくり開けて驚く。
「どうかぁ気にせずぅ・・・わたしたちのぉ今後をぉ・・・なまあたたかくぅ見守ってくださぁい」
「がっ・・・・・!」
みかんは絶句していた。
何故かその言葉に、何人かの乗客から拍手がおきる。
「ありがとぉござますぅ・・・みなさぁん」
その拍手にマリアは手を振りこたえ、座席に座りメガネをはずした。
横のみかんは口をパクパクさせ、青ざめていた。
「あ・・あんたねー!・・・な・・・なんてこと言ってくれたのよ!こ・・・これじゃあ完璧に逆効果じゃない!」
「そうか?あの告白のせいで、皆、私に告白したと思っている者も、少なからずいたんじゃないか?そんな疑いの目で見られるより、確定させほうが、いちいち、じろじろ見られることも減るだろう」
「疑われていたほうマシよ!」
「・・・やれやれ、かわいい子猫ちゃんのように、ニャ―ニャ―鳴かれても困る」
「だれが子猫ちゃんよ!ぶっ飛ばすわよォ!・・・表にでなさいマリア!勝負よ!」
「飛んでる最中なので、表にはでれないが・・・ここでカードバトルするなら受けて立とう」
「上等よ!ぶっ潰す!」
「ふっ・・・・たしかおまえは・・・まだ私に、一勝もしたことがなかったな・・・」
「う・・うるさいな!くっ・・・なんであんた、あんなに強いのよ!」
「それは・・・・・まあ・・・私が、日本モンスタートランプ協会の会長だからな」
「いちいち長いし、理由になってないわよ!」
「ふむっ・・たしかに、なら私にとってモンスタートランプは、命の絆であり、それ以上に大事な絆である・・・・からっと言っておこう」
「命?それ以上の絆?どういう意味よ?」
「それは・・・・乙女の秘密だ」
「・・・・・あんた・・・・その台詞、メチャクチャ似合わないんだけど」
「ふっ・・・それは弟にも言われる・・・・ふっ」
しばらくして飛行機は、ハワイに到着した。