ワールドカップ前日①
いよいよ明日、モンスタートランプ・ワールドカップ大会の1回戦が、始まろうとしていた。
この大会は土日を利用し、一週間ごとに一回戦ずつ戦っていくのだ。
一回戦ごとにその場所を変え、さまざま場所で戦っていく、一回戦目と開会式は、ハワイで行われる。
それに向けて、日本代表のメンバーは、ロビーに集まってきていた。
ロビーにいるメンバーは山田 大地、明智 佐衛門、伊集院 一郎、愛媛 みかん、そしてサポーターの、上多 真琴、日本モンスタートランプ協会の会長である、海原 マリアの6人だ。
マリアがみなの前にでて話す。
「それでは、皆、集まったようだな・・・もうすぐ大会の会場であるハワイへの便がでる。各自忘れ物のないようにしっかり準備をしてほしい」
サポーターである真琴が手をあげマリアに質問をする。
「あの・・・師匠がまだいないんですけど・・・寝坊したら大変だからって先に空港に行くって、おととい電話がきたんですけど・・」。
「ああ・・・それなら大丈夫、いる場所ならわかっている」
「あっ・・・そ・・そうなんですか?・・なら大丈夫ですね」
真琴はホッと胸を撫で下ろす。
「それと皆に紹介しよう・・・うちの弟を・・・・」
「え?弟・・・・」
マリアがロビーのベンチに座っている、携帯ゲーム機で遊んでいる少年に声をかける。
「クルトこい!」
「・・・・・・・・・・・・・」
マリアが呼ぶと、その少年は、めんどくさそうにゆっくり立ちあがると、こっちに近づいてきた。
「私の弟、クルトだ。よろしく頼む」
マリアがクルト呼ぶ少年の背中を軽く叩く。
みかんがマリアに言った。
「あ・・あんた・・・な・・なんで、弟なんて連れてきてるのよ?連れていけるのは、選手のサポーターだけでしょ?会長は連れてきていいなんて話、聞いてないわよ」
「いや選手だ」
「は?」
「うちの弟が、このまえの日本代表決定戦で勝ち上がった、最後の一人だ」
「えっ!そ・・・そうだったんですか?・・マリアさんの弟さんが・・・」
意外な答えに真琴もみかんも驚く。
「無愛想な弟だが・・・・・よろしく頼む」
マリアはめずらしく、深々とおじぎをした。
だが姉が頼んでいる横で、弟は、無関心に携帯ゲーム機で遊んでいた。
「ほら、クルト。挨拶をしろ」
姉に諭され、マリアの弟がため息をしながら挨拶をする。
「ふぅ・・・・・海原 クルトです・・・よろしく」
淡々と、何も感情をこめず一言いうと、すぐまた、携帯ゲーム機で遊び始めた。
(なんだかな・・・・・)
真琴はその様子を見て不安を感じる
(この日本代表メンバーで、本当に大丈夫なのかな・・・・特に・・・)
真琴は、一番の不安要素である2人の人物を見た。
そこにいたには、山田 大地に突っかかる、伊集院 一郎の姿だった。
「ふふっ山田君・・・勘違いはしてないかい?」
「あ?」
「言っておくが、このまえのカードバトル・・・僕は全然本気をだしていないからね・・・
たまたま勝ったからって、僕より強いだなんて思っちゃいけないよ」
「・・・・・・・・・・・・」
大地はあからさまに無視した。
「くっ・・・この僕を無視する気かい?予選大会優勝者であるこの僕を・・・・君はあくまでは準優勝者にすぎないのだよ・・・あまり調子に乗らないでくれたまえ」
「・・・・・・・」
(うぜェーな・・・誰だこいつ?・・・・・・・・・ああ!・・・思い出した・・・・あの、お漏らし野郎か・・・)
「今度は全力でやってあげるよ」
「全力で漏らすのか?」
「ち・・・違う!そっちじゃない!」
一郎は過去の赤っ恥を言われ、赤面する。
真琴はその様子を見て、苦笑いすることしかできなかった。
「あ・・・あははっ」
(あの2人・・あいかわらずだな・・・・・・ホント・・・大丈夫かな?)
真琴は、このチームに対してのチームワークに、ものすごく不安を感じていた。
「おーいみんな」
「師匠!」
ロビーの奥から、空が手を振って近づいてくる。
「みんな集まっているみたいだな」
「師匠、どこ行ってたんですか?まさか・・・いま空港に着いたんじゃ?」
「いや、昨日から着いてたよ」
「えっ!昨日・・・・」
「ああ、昨日、空港に着いて、ここでずっと寝泊まりしてた」
「えーーー!昨日から!・・・な・・・なんで、わざわざ・・・・」
「今回、遅刻したらヤバいからな・・・ここで寝泊まりすれば、さすがのオレでも遅刻しないだろ」
「い・・・いや、そ・・そうかもしれませんけど・・・その間、一人で暇じゃなかったですか?」
「全然。空港にあるバトルドームで、ずっとカードバトルしていたからな、退屈はしなかったよ」
「そ・・そうですか・・・」
(さ・・・さすが師匠・・・)
みかんはあきれた顔で空に言う。
「あんたね・・・空・・・・まったく・・・何考えているのよ?」
「ん?モンスタートランプのことだけだけど」
「・・・・あっそ・・・・・・・・・・空、その・・・もしよければ、今度、こんなことがあったら・・・・あ・・あたしが、起こしにいってあげるわよ・・・い・・・言っておくけど、仕方なくだからね、感謝しなさいよ」
「いやいい」
「はぁ?・・な・・・なんでよ・・・せ・・せっかく、このあたしが・・・・」
「それはマリアに頼んであるからいい」
「はぁ?」
「昨日も、マリアに頼んで、起こしてもらったんだ。そのあと一緒にこの空港まできて、ここで寝泊まりしたんだ。さっきまで一緒にカードバトルしてたのも、マリアだしな」
「ちょ・・・ちょっと・・・あ・・・あんたたち・・・い・・・一体・・・・ど・・・関係なのよ?」
「ん?いちおう付き合っているけど」
「はへぇ?・・・え・・・・えっとぉ・・・・い・・・いま・・・・な・・・なんて言ったのかな・・・・?」
みかんはその言葉に耳を疑い、もう一度空に聞き返した。
「だから・・・恋人になってほしいって前にいわれて・・・・マリアと恋人になったんだ」
「ええええええェェ!そ・・そんなバカな・・・・・う・・・嘘でしょ・・・」
みかんはその言葉に驚愕して、フラフラに倒れそうになる。
「ほんとほんと」
空は明るいのノリで答える。
「あ・・・あんたねェーー!・・・い・・・・一体、どうつもりで、なんてことしてくれてんのよ!」
みかんは、空にすごい剣幕で詰め寄る。
そんなみかんにマリアは、そっと近づき耳元で囁く。
「ふふっ・・恋は先手必勝だ・・・」
「がァっ・・・こ・・・・この・・・」
みかんは怒りとショックのあまり、その場で気を失いそうになるが、なんとかこらえた。
「空ァァァ!あんた、この女のこと好きなの?」
「え?好きだぜ。カードバトル強いしな」
「なっ!・・・・そ・・・そういう意味じゃなくて、女として好きかどうかって聞いているのよ!」
空は少し考えて答えた。
「んーー・・・よくわからないな・・・・マリアに恋人になってほしいって言われて、恋人って、どんなで、具体的どういうものなんだって聞いたら、マリアが毎日一緒にいて、カードゲームする関係って言ったから、ならいいやって思って、付き合ったんだけど」
「それ、詐欺じゃない!」
「いや・・・・でも・・・・明確には間違っていないような・・・・・」
「あんたバカじゃない!・・・そんな適当な理由で付き合って、人生最大のイベントを棒に振って」
「ど・・どうやら師匠は、告白されて、カードゲームが毎日一緒にできるからっという理由で、付き合っているみたいですね・・・・恋人の意味もよくわかっていないみたいですし・・・」
「ってか、それ・・・全然恋人同士じゃないじゃない!お互いがお互いを好きでもなんでもないじゃない!」
みかんはマリアを睨みつける。
「ふっ・・・」
「ふっ・・・じゃないわよ、あんたァ!・・・・・・・・・そうよ・・・それならあたしにも、まだチャンスがあるってことじゃない・・・・そんな適当なら・・・あたしにだって・・・」
「チャンス?なんのことだ、みかん?」
「なっ・・なんでもないわよ!ば・・バカ・・・う・・・うるさい」
「?」
みかんは真っ赤になる。
その様子をはなれて見ていた明智 佐衛門は、ため息をつきながら一言つぶやく。
「はぁ・・・・・それなら、うちにも・・・チャンスはあるんやろうか?」
「い・・いえ・・・佐衛門さんは男ですから・・・なにもないと思います」
「はァ・・・・殺生やな・・・・」
(い・・・いや・・・あ・・・あるからダメなのかな・・・・)