VSライバル②
東京バトルドーム。
ドーム内は、真っ暗になり、ドーム中央にある、通常より大きな闘技場に、スポットライトが当たっていた。
そしてドーム内に、アナウンスが流れる。
まわりの観客席は、シーンと静まりかえり、これから行われことを、かたずを飲んで見守っていた。
『それでは、モンスタートランプ・ワールドカップ大会、日本代表決定戦の、決勝戦を行います。それでは対戦者・・・前へ!』
そのスポットライトが当たった闘技場の上に、先に、1人の少年があがってくる。
それは、バンダナと鋭い目つきが印象的な、山田 大地だった。
(・・・空・・・とうとうこの日がきたな・・・テメェを・・今日こそ・・・)
「!」
そして反対側から、もう1人の決勝進出者が現れる。
「・・・・・・・誰だ・・・おまえ?」
山田 大地はその者に尋ねる。
その者は、自分が思う、カッコいいポーズをしながら、名乗る。
「関東チャンピオン、伊集院一郎だ。さあ、このエリートのこの僕が、君の相手をしてあげよう・・・・・・・・・・・・・アレ?」
一郎が見ると、そこには誰もいなかった。
とある特別室。
そこは広く、テーブルとイスしかない、殺風景な部屋だった。
そこには、今大会で日本代表選手になりそこねた、数百名ものカードバトラー達が集まっていた。
そのなかには、空とみかんと真琴の姿もあった
真琴は空に尋ねる。
「本当のここで待っていれば、敗者復活戦はできるんでしょうか?」
「なくても・・参加賞のカードは貰えるわけだし、いいじゃないか」
真琴と空は、談笑しながらテーブルに座り、デッキの調整をしていた。
みかんは、壁によりかかりながら、訝しげな顔で言った。
「それにしても・・・あのときのマリアの言葉・・・・本当なのかしらね?」
回想
「あ・・あるんですかマリアさん?・・・敗者復活戦・・?」
「極秘ですけどぉ、ありますよぅ」
「ご・・・極秘・・」
空はマリアの言葉に喜んだ。
「よしっ、これでワールドカップ大会に、まだでられるチャンスがあるぞ!大地と一緒にでれる!」
「な・・何名、でれるんですか?」
真琴の言葉にマリアが答える。
「2名ですぅ」
「に・・2名・・・」
「あんたの言うとおり、本当に、敗者復活戦があるなら・・・あたし、大会を辞退しなきゃよかったわね・・・空と戦えるチャンスが、まだあったわけだし」
「みかんさんはまだぁ、大会のぉ辞退はぁ、取り消せますぉよぉ?どうしますぅ・・」
「いいわよ別に・・・あたしも敗者復活戦にいくわ」
「いいですかぁわざわざぁ・・」
「今度また空が、自分から負けるような、ふざけたマネしないように、最後まで見張らないとね・・・それに・・」
みかんは誰にも聞こえないような、小声でつぶやく。
「い・・一緒にワールドカップにでられなくちゃ・・・意味ないじゃない」
その小声に空は。
「んーなんだって?」
「な・・なんでもないわよ!バカ。それに、あたしと空で、代表枠2名は決定よ」
「心強いな・・・みかんが一緒に、ワールドカップに出てくれるなら」
「こ・・心強い・・・まあ、まあ・・あたしに心を奪われるのは、しかたないけどね」
「いやぁまったくぅ奪われてませんよぉ・・ぜんぜん・・耳鼻科いってくださぁいみかんさん」
「ま・・マリアさんも言いすぎです」
「もちろん、真琴も、応援にきてくれるだろ?」
「は・・はい師匠」
「ありがとな・・・でも、やっぱり、仲間っていいな・・・あいつとも・・大地とも、早くこんな関係に・・戻りたいな」
「し・・・師匠・・・・」
空のその言葉に、真琴は、2人の関係が、早く戻ることを祈るばかりだった。
「でもマリアさん・・なんでそんな極秘情報を知っているんですか?そんな噂は、まわりでも、誰もしてませんでしたよね?」
「そりゃあぁそうですよぉ、大会本部しかぁ知らないことですからぁ。他のみなさんにはぁ、開会式でぇこう伝えてありますぅ。大会の敗退選手には、参加賞として特別なカードを配布します、ですから、敗退したあと、すぐにこちらで用意した特別室で、お待ちください。って、でもぉじつはぁ・・・・参加賞でなくぅ、敗者復活戦でしたーみたいなぁサプライズで、みんなをぉおどかせて、喜ばせようという、極秘計画なんですぅ」
「ならなんで、それをマリアさんが?」
「それは秘密ですぅ・・でも、すぐにわかりますよ・・・お楽しみにー」
「じれったいわねーいまここで言いなさい」
「それではぁみなぁさん、またあとでぇあいましょう・・バイバーイ」
マリアはのらりくらりと、その場を去って行った。
「いっちゃいましたね・・・・マリアさん」
「ったく、ホント、掴みどころのない女ね・・」
回想終了
バン。
「!」
そのとき、特別室のドアが、勢いよく開いた。
その奥から、1人の少年が、ズカズカと中に入ってくる。
「大地!」
「空ァ!」
それは山田 大地だった。
大地は空の胸元を掴む。
「テメェ―・・・空ァァァ・・・・・」
2人は無言で見つめ合う。
一方は無表情で、どこか哀愁を感じる顔、もう一方は、怒りの中に、どこかやるせなさを感じる顔。
みかんが真琴の耳元で尋ねる。
「ちょっと、あいつが大地って奴?」
「はい」
「ずいぶんガラの悪そうな奴ね・・」
「みかんさんも、人のこと言えませんけどね」
ガスッ。
「痛いッ・・!足踏まないでください」
空は大地に尋ねる。
「もう、決勝終わったのか?」
「・・ああ」
「優勝したのか?」
「知らねえ―よ!どうでもいい、そんなこと・・・」
「そうか・・・すまないな、大地・・・約束守れなくて・・」
「あやまんな!その言葉はもううんざりだ!あいつらも、同じことばかり俺に言って・・・俺に・・・・会いさえきてくれなかった・・」
(それって・・・大地君を捨てた親御さんのこと・・・?)
大地は全身を震わせながら言った。
「おまえは・・・おまえは・・・おまえだけは絶対・・・・・・・・」
「大地・・」
「チッ」
大地は何かを言いかけると、それをやめ、空の胸元を掴む手を手荒く放す。
大地は特別室を出て行った。
「大地・・・・・」
その後ろ姿を空はずっと見ていた。
「師匠・・・・・・大丈夫ですか?」
「いや、結構・・・ダメージでかいかも」
「・・・・・・・・」
「みなさぁん、それではぁ、敗者復活戦を開始しますよぉー」
特別室のドアから、食空気を読まない声で、マリアが入ってきた。
「アレは・・・マリアさん?」
「な・・・なんであの女が・・・!」
真琴とみかんは、マリアのいきなりの登場に動揺した。
その敗者復活戦という言葉に、これまで参加賞のためにここに集まってきていた、何百名ものカードバトラー達がざわめき立つ
「敗者復活戦だと!」
「おい、なんだ、そんなの聞いてないぞ」
「マジか!」
「よっしゃー」
さまざまな反応が聞こえてくる。
マリアは、観光ガイドの持つ、旗のような物を振りながら、案内する。
「それではぁ・・みなぁさん、ドーム内にぃおこしくださぁーい」
1人のカードバトラーが、マリアに聞いた。
「それよりあんた・・誰だよ・・・いきなり現れて・・・」
「わたしですかぁ・・わたしはぁ」
マリアはメガネをとり、その長い銀髪の三つ編みを解いた。
「アレは!」
真琴は気づく、マリアがメガネをとった姿が、あの時、登校中に見た銀髪の女性だということを。
マリアは、普段のまぬけな口調を変え、高圧的で自信満々な声で、皆に、自分の正体を明かす。
「私は、日本モンスタートランプ協会会長の、海原マリアだ。はじめまして、よろしく・・みなさん」
「ま・・・マリアさんが、日本モンスタートランプ協会の会長・・・!ま・・まだ中学生なのに」
「い・・・一体。これはなんの冗談よ・・・悪夢にもなってないわよ・・・それにあいつ、かなりキャラ変わってない?いままであたしたちの前で・・猫かぶってたのね」
「アイドルの時、猫かぶっているみかんさんには、非難できませんよ・・・」
「うっさい」
空は感心したようにマリアは見ていた。
「あいつ・・・すげェー奴だったんだな」
そんな空の視線に気づき、マリアはウインクした。
マリアと、数百名のカードバトラーたちは、特別室から移動して、ドーム内にはいった。
そして中央の、一番大きな闘技場の上に、マリア一人があがり、マイクで話し始めた。
「これから、敗者復活戦の内容について話す。一度しか言わないので、心して聞くように・・
日本代表選手はいま、6名中4名が決まっている。そしてあと、2名の選抜方法についてだが・・・」
マリアはぴっと、右手の指2本を前に出す。
「1、敗者復活トーナメントの優勝者一名」
「2、今大会の優勝者とカードバトルし、勝った者が先着で一名、日本代表に選ばれる。」
それを聞いた、何百名ものカードバトラー達は、ざわめき立つ。
「この1と2、どちらにでるか選んでほしい・・・ちなみに、今大会の優勝者は・・・・」
みかんは、闘技場の外に、人差し指を向ける。
そこにいたのは、空のよく知る人物であった。
「ふふふっ・・・僕が、今大会の優勝者、伊集院 一郎だ。僕に挑戦するのはやめたほうがいい・・どうせ勝てないのだから」
一郎は闘技場に上あがり、スカした感じで言った。
「おい・・・アレ、関東チャンピオンの・・・伊集院 一郎じゃないか?」
「マジかよ・・・そんな奴に勝てるわけねぇーよ」
「や・・やべぇーな・・・おい・・・・俺、敗者復活戦トーナメントのほうに、でようかな・・」
一郎の素性を知り、皆、選択肢2のほうではなく、1の敗者復活戦トーナメントの方を希望するものが、ダントツで多くなった。
「し・・師匠・・・い・・伊集院くんですね・・・」
「ああ、ひさしびりだな・・・あいつ。ずっとバトル堂に来てなかったから、心配したぞ。じゃあオレは、あいつとやるよ。あの時のバトル楽しかったしな」
その言葉を聞きみかんは。
「じゃああたしは、トーナメントのほうに出るわ。これで空と一緒に、ワールドカップにでられるわね」
「ああ」
「いや・・・・そんな簡単には・・・・・・・・・・いえ、なんでもないです」
モンスタートランプにおける、2人の自信満々な態度を、変えるのは無理だと判断し、真琴は口をつぐんだ。
ポジティブさ、それが彼らの強さの原動力だと、真琴は知っていたから。
闘技場のマリアは、さらにマイクで、敗者復活戦について話し始める。
「1度どちらかに決めた場合、変えることはできないので、よく考え決めてほしい。では、チャンピオンへ挑戦したい者は、この闘技場の上にあがってくれ。あがった者のなかから、今大会上位入賞者から優先して、カードバトルを行うことができる。同じ順位の場合ランダムで選ばれる」
「それじゃあ1回戦負けした師匠が、挑戦しようとしても、結構、あとのほうになっちゃうかもしれませんね」
「まあ、伊集院だし、そう簡単には負けないさ」
「そうですね・・・いちおう、関東チャンピオンですから」
「待てよ」
「!」
1人の少年が闘技場の上にあがってくる。
「俺がソイツとやる」
「アレは・・大地君!どうしてあそこに・・・彼はもう、日本代表に選ばれたんじゃ・・」
マリアは大地に尋ねた。
「キミはたしか・・山田 大地といったな?キミはもう、準優勝して、日本代表に選ばれている。敗者復活戦にでる必要はない」
「オレがコイツを倒して、代わりに、敗者復活の優勝者として、挑戦を受ける」
「!・・・大地君・・一体、何を考えて・・・・・・」
マリアはやれやれと言う顔で、伊集院に尋ねる。
「どうする・・・現チャンピオン、私はどうでもいいのだが、キミたち当事者同士で決めてくれ」
「かまわないですよ、僕は。僕にとってこの大会は、本当につまらないものでしたから・・・準決勝も決勝も・・」
回想
準決勝。
「うちはこの試合辞退します」
「!」
「うちは元々・・お情けでここにいる身どす・・・・代表に選ばれた以上、これ以上勝ち進むのは、無粋ってもんやろう・・・」
決勝戦。
「・・・・・・・・・・・アレ?・・・いない」
『おーっと、山田選手いきなりどこかへいってしまったーーーー!よって優勝は伊集院 一郎選手だあああああ』
回想終了
「まったく・・・僕に負けるのを恐れて、君もあの佐衛門とかいう者も、逃げかえってしまって・・・まったく、この大会は僕以外クズばかりだ」
「い・・伊集院くん・・ま・・・またあんなこと言って・・」
「あははっかわらないなーあいつも」
一郎は、ビシッと大地に指さした。
「それをなんだい君は・・・いまさらのこのこ出てきて・・・この僕に勝てるつもりなのかい・・・・不届きもめ・・」
「じゃあ俺とカードバトルしな、俺がテメェーをジュリンして、その減らず口を2度と聞けなくしてやるよ」
「ふぅー・・かまわないよ・・・戦ってあげるよ。このまま、不戦勝で優勝したチャンピオンとか、陰口を叩かれて、伊集院家にドロを塗る訳にはいかないからね。ここで君を負かして、君の汚名を挽回させてあげるよ」
「ぎゃははははははっ・・いいぜ、楽しませくれよな。俺は、自分を強いと思っている奴をジュリンするのが大好きなんだよ」
「口だけは達者だな。みんなも見ておきたまえ、この僕の実力を、そして悟りたまえ、この僕にカードバトルを挑戦する無意味さを。君はある意味、ここにいる負け犬どもの救世主かもね」
「あ?」
「僕の実力も知らず挑んでくる者がいたら、かわいそうだからね。ここで君を徹底的に打ちのめして、僕との実力と才能の差を、皆に見せつけてあげよう」
「くくくっ・・・テメェー・・・随分、ジュリンしがいのありそうな奴だな・・・楽しみだぜ」
大地は一郎を、舐めまわすように見た。
それはまるで獲物の味をたしかめるように、その視線を一郎は嫌った。
「・・・なんだいその目は・・・不細工な・・・人を睨みつけるように見て・・・勘にさわる。君みたいな勘違い野郎には、教えてあげるよ。カードバトルの恐怖をね・・・2度とモンスタートランプができなるくらい、徹底的にね・・」
「おもしれェー・・早くジュリンしたくて、たまらねェぜ」
ギロ。
「!」
大地は、闘技場の外の空を、一瞬睨みつけた。
「本番の前のウォーミングアップだ・・・楽しませもらうぜ、ハエがァ」
「師匠・・・・・大地君はきっと・・・・」
「ああ・・・大地が、ここでオレとカードバトルを望むなら、やってやるさ・・・全力で・・・・・」
二ッ。
「楽しくな」
「師匠・・・・・・」
関東最強と戦うというのに、大地の意識はいま空にだけ集中していた。
自分の力を、その者に誇示したいかのように。