VSライバル①
「空くんが・・・・勝ちましたね・・・でも・・なんだか喜べませんね・・・」
真琴の言葉にみかんは。
「まあ・・よろこぶのは、決勝にいってからでも・・いいんじゃない・・?」
そのみかんの言葉を、マリアが否定する。
「それはぁ、ないとぁ思いますけどねぇ・・・」
「は?」
敗北した佐衛門は、ガックリとうなだれていた。
「・・・・・・・・うちの負けやな・・・最後にしては・・・・最高にたのしかったどすな・・・もう悔いはあらへん・・・」
「兄ちゃーーん」
「兄貴」
「お兄様―」
うなだれる佐衛門の側に、兄弟が集まってくる。
「ごめんな・・・うち負けちゃった」
「謝んなよ!謝んのはオレたちの方だよ、もっと応援できなくて、ごめーーーん」
「兄貴がんばったよ、最高のカードバトルだったよ」
「えーーーんお兄様――!」
お互いがお互いを慰め合うなか、空は兄弟達に近づいていった。
「いや、オレの負けだ」
「!・・・あんた・・一体、何を言うてはるんや・・?」
佐衛門は、空のその言葉に動揺する。
空はいきなりお腹をおさえ、闘技場の外の真琴達に話しかける。
「いててっ・・実はオレさ、さっきコーラ飲みすぎたみたいで、お腹壊したみてぇーだ・・今日、これ以上カードバトルするのは無理そうだ・・・だからこの勝利、辞退するよ。佐衛門、次の試合オレの代わりにがんばってくれよな」
「え?・・・ええ・・わ・・わかりました・・・」
「じゃあ」
いきなりの展開に佐衛門は、まるで夢でも見ているかのように、その場で呆けていた。
「し・・師匠!」
「空!あんたどういうつもり!」
真琴とみかんが空に詰め寄る。
空の行動に、2人が難色を示すなか、マリアはその行動を受け入れた。
「はぁーい、わかりましたぁ・・大会本部の会長にぃ、わたしからぁ、辞退をぉ連絡しておきますねぇ」
「ああ、ありがとうマリア。頼む」
「いえいえぇ」
「ちょっとマリア!あんた・・よけいなことを・・・!」
マリアはみかんの唇にぴっと、自分の人差し指を当てる。
「決めるのはぁ空くんですよぉ・・わたしたちはぁそれがぁどうあれぇ、受け入れましょうよぉ、それがぁ友達ってぇもんじゃないですかぁ?」
「・・・・・ちっ・・・・わーったわよ」
みかんは舌打ちしながらも納得した。
「でもボク・・・正直な話し・・・師匠がこうして負けてくれたことが嬉しいです・・・師匠らしいというか・・・・これが師匠って感じで・・・」
真琴はどこか複雑そうな笑みで笑う。
「・・・・そうね・・・・・・理解できないけど、空らしい・・・・それで理解できちゃうんだから、仕方ないわよね」
「わたしはぁこうなることはぁ、はじめからぁわかってましたよぉ」
空は佐衛門に声をかけた。
「じゃあ、オレ、トイレにこもるわ。オレのかわりに、日本代表になってくれよな、頼むぜ佐衛門」
「え・・ええ・・・や・・約束します・・・」
空はトイレとは、逆方向に走っていった。
その姿を佐衛門は、まだ呆けながら見つめていた。
佐衛門のまわりを兄弟たちが囲む。
「やったぜ、兄ちゃん、ラッキーだな」
「兄貴、次もがんばれよ」
「お・・お兄様よかったですねー」
「・・・み・・みんな・・・うち勝ったどす・・・まあ、負けたんやけど」
そんな複雑な顔の兄に、着物を着た妹が、何か言いたそうにモジモジしていた。
「お・・お兄様・・・」
「なんや・・佐姫?」
「あの・・・・さっきの空さんってお人・・・もしかしたら、ロビーでのわたくしたちの話し、聞いていたかもしれませんよ」
「え?」
佐衛門はそのとき、空がとったすべての行動の、疑問が解けた。
そしてスッキリした顔で笑う。
「そうどうすか・・・・そういうことどすか・・・なんや、まったく・・・・空はん・・ありがとう・・・うち、あんたの気持ち、絶対無駄にはしまへんよ。あんたのかわりに、うち、かならず日本代表になりますさかい」
「お・・お兄様・・な・・なんか顔赤い・・」
「うち・・・・・・もしかしたら、空はんに、ホレてしまったかもしれへん」
『ええええええええええ!』
兄弟たちの悲鳴が響く。
「に・・兄ちゃん・・兄ちゃんがそれを言うと、シャレになってねーからよ」
「うちは、本気どす」
「ま・・マジ・・・・」
弟はものすごく引いた顔をしていた。
そんな弟に、佐衛門は舌をペロっと出し言った。
「冗談どす。勘忍な」
空たちはロビーにいた。
「んじゃ、負けたことだし、帰るか」
「まったく・・あんたは・・トイレはどうしたの?」
「ああ・・治った」
「・・・・あっそ」
その空の言葉に、みかんはあきれ果てていた。
「あの・・・師匠が飲んだのって、コーラじゃなくてポカリですよね?」
「ああ・・そうだっけ?」
「そうですよ、もう・・・」
そう言いながらも真琴は、どこか嬉しそうだった。
「よかったんですかぁこれでぇ空さん?」
「ああ完璧にな」
「よくないわよ!どこも・・ったく・・あんた、一体何考えてるのよ・・・約束があるんでしょ?絶対守らなきゃいけない約束が・・」
「ああ」
「だったら・・・」
「たしかに約束は、決勝であいつ戦うことだ・・・でも、俺は、約束を守りたいがためだけに、決勝にいくわけじゃない」
「・・・他に、何があるっていうの?」
「決勝であいつに、オレのモンスタートランプへの想いを、すべてぶつけることだ」
「ぶつける・・・・だったらなんで負けてあげたの・・・?」
「負けてあげたんじゃない・・・負けなきゃいけなかったんだ・・・・」
「?」
「大地が、オレに対して1番怒っていることは、オレがモンスタートランプを捨てたと思っていることだ。だからオレはあいつに、想いをぶつける。モンスタートランプのへの俺の想いを。だけどオレが、佐衛門からモンスタートランプを奪ったら、きっとあいつに、この想いを100パーセントぶつけるのは無理だ。きっと中途半端な気持ちで、戦わないといけない。それじゃあダメだ、あいつに伝わらないし、あいつとのカードバトルも楽しくできない。それじゃあ意味がないんだ。オレはあいつと・・・すべてをだしつくして、全力でぶつかりあいたい。それがオレにできる、あいつへの、唯一の罪滅ぼしなんだ」
「それでも・・・・大地君との約束を、破ってしまうことになるんですよ?・・・きっと、また大地君は師匠を恨むんじゃ・・・」
「かもな・・でも、約束ならまたいつでも守れるさ。オレたちの夢は、まだまだこれから、果てしなく遠いんだから・・・・」
「そ・・空くん」
みかんはその言葉に、ため息を吐いて。
「・・・・・ったく、男って・・・ホント、バカね」
「それはぁ同意ですぅ」
「奇遇ね・・マリア、あんたと気が合うなんて」
「まあぁ・・嫌いじゃぁないですけどねぇ、そういうのぉ」
「そうね・・・ったく・・」
「師匠はいいことしましたよ。佐衛門さんの兄弟も喜んでいましたし・・・」
「そうか?礼を言いたいのはオレのほうだよ・・・さっきのカードバトル・・メチャクチャ楽しかったしな」
空は屈託ない笑顔で笑う。
(・・・師匠・・・よかった・・・約束を守れなかったこと、全然落ちこんでない・・・・・・・でも・・・・ちょっとくらい落ちこんだほうが、いい気もしますけどね・・・・あははっ)
「じゃみんな帰ろうぜ。今日は、何かおごるよ」
「・・あんた、お金あるの?」
「ない!だからカードバトルで払うよ、うちで朝まで・・」
「はい、師匠、お付きあいします」
「はぁ・・・あたしも付きあうわよ・・・あんたを大会で倒せないなら・・・あたしもこれ以上、この大会に出る意味ないし」
「いいのか、みかん?」
「ええ、というかもう、辞退の申し込みはしてきたしね。そろそろ受理されるじゃない?それに・・・あんたの家でカードバトルしていたほうが、よっぽど楽しそうだしね」
みかんは苦笑いする
「そっか・・・じゃあ今日は、みんなで、祝勝会・・・ならぬ祝敗会だ!」
「はい」
「くすつ・・何よそれ?」
「あのぅ」
「ん?」
マリアが、そのいい雰囲気に、水をさすようなことを言った。
「敗者復活戦にはぁ、出ないですかぁ?」
『え?』
皆、一斉にマリアの方を見る。
「あ・・あるんですかマリアさん?・・・敗者復活戦・・・」
「極秘ですけどぉ、ありますよぅ」
「ご・・・極秘・・」