08.遊具の中の2人
「雨が降ってるから、遊具の中に行こう。」
そう言って京介は私に腕を掴んで遊具の中へ連れていったくれた。
遊具の中は天井が低いため、座ることしかできない。
私が座ると目の前に京介が座った。
狭いということもあって、京介との距離も近い。
体育座りをすれば足の先端がくっつく程度だ。
「今日は私服じゃん。」
京介が雨によってべたべたになった私の服を見て言う。
「そーゆー京介は制服じゃん。」
京介はいつもと変わらない制服の姿だった。
「休日でも着てるやつとかいるじゃん。」
「まぁそうだけど…。」
京介の考えてる事は本当によく分からない。謎だ。
「…今日…何でここに来たの?」
「瑠美ちゃんこそ何で来たの?」
「ねぇ、その瑠美ちゃんて言うのやめてよ。前の時はお前とか言ってたくせに。」
「あぁごめん、悪気はなかったんだけど。じゃあ瑠美でいい?」
「うん。」
「で、瑠美は何で公園に来たの?」
「それ私が先にした質問なんだから、京介が先に答えてよ。」
「途中で話をずらしておいて何を言う。」
「いいから!」
「瑠美がいると思ったから。」
「…え…。」
胸が締め付けられそうになった。
私がいるって思ったから?
京介の顔がまともに見れなくなった。
「こんな天気の悪い日に、雨が降ってるって分かってても?」
「うん。」
「休日でも?」
「関係ある?」
「いや…。」
「現に瑠美はいたじゃん。瑠美だって俺に会いたかったからここに来たんでしょ?」
「…うん。」
なんか恥ずかしくなってきた。
京介には私の思ってる事が分かるの?
静まり返る遊具内。どちらからも話す気配がない。
聞こえるのは降り続く雨の音だけ。
ふと京介の顔を見てみた。
さっきまでお互い雨に打たれてたため、まだ乾いてないのか滴がポタポタと髪を伝って下に落ちていく。
顔が熱くなってってるのが自分でも分かる。
「…お前、顔赤くないか?」
京介が私の顔を覗いて言う。
…近い!
「そ、そんな事ないよっ!」
私の言ってる事を無視して京介は私におでこに手をあてる。
京介の手は大きかった。
「お前、熱あるじゃん!ずっと雨の中いるからだよ!」
京介はしょうがないなといった感じで上に着ていた制服を脱ぎ始めた。
「え、な、何してるの!?」
「濡れてるけど、こんなもんでもないよりはマシだろ?着てろよ。」
そう言って学ランを私に差し出してきた。
「…でも、京介は?寒くないの?」
「俺は大丈夫だよ。お前の方が心配だし。」
胸が熱くなった。私のために…。
「ありがとう、京介。」
「うん。」
受け取った学ランを上から羽織る。
濡れてると思ってた学ランは、中は全然濡れてなくてすごく温かかった。
京介の温もりがあった。
「ヘックション!」
京介がくしゃみをした。
鼻をこする京介。
「京介…寒いの?」
「だから俺は寒くないって。」
「今くしゃみしたじゃん。」
「誰かが俺の噂をしてるんだよ。」
そう言うと京介はまたくしゃみをした。
「ほら、また誰かが俺の噂を…」
私は学ランの半分を京介にかけてあげた。その半分を私が羽織ってるから、隣同士でくっつく体勢になった。
「これならいいでしょ?」
笑顔で京介に微笑みかける。
「…ありがと。」
照れくさそうにお礼を言う京介はすごくかわいらしかった。
隣に京介が居て、温かかった。
しばらく2人は目の前に見える、雨が降り注ぐ景色を見ていた。
雨が止む気配はない。眠気が襲ってきたのか、京介の肩に頭を置いた。
京介は何も言わない。
「ねぇ、京介…聞いていい?」
目をつぶったまま聞いた。
「何?」
「私がさっきベンチで座ってた時…何で泣いてたのか聞かないの?」
「聞いてほしいの?」
「そーゆーわけじゃないけど…。」
「無理して言わなくていいよ。何か事情があるんだろうし。」
京介は静かに笑って言った。
…こんな事、言っていいのか分かんないけど…。
「…京介…。」
「ん?」
「…私ね、自分が分かんないの。」
「…うん。」
「前に学校に行かない理由は何かが足りないって言ったけど、何が足りないのか分かんないの。」
「うん。」
京介は切なそうな顔をして、ただただ、私の話を聞いてうなずいていた。
「その何かを…私は失っちゃったの。」
「うん。」
「考えれば考えるほどわかんなくなっちゃって…自分が何でここにきたのかも分かんなくなっちゃって…」
「うん。」
「自分が何を忘れてるのかも…涙が何でこんなにもでるのかも…もう何も分かんなくて…」
気づけば私の目からは涙が溢れ出していた。
「自分が…わかんなくて…。」
すると京介は私の方に向き直り、優しく抱きしめてくれた。
突然の出来事に驚く。
「…京介…?」
京介は黙ったまま、私を抱きしめている。
とても…温かい…。
抱きしめる京介の腕の力が強くなっていくのが分かる。
「京介…苦しいよ…」
京介は黙ったままだ。
「京介?」
「ごめんな…。」
「…え?」
ごめん…?何が…?
分からない。何を言ってるの?京介…。
「約束守れなくて…ごめんな…。」
遊具の中の2人に関係なく、雨は速度を上げ降り続く。