02.知りたい。
「泣いてたの?」
先に沈黙を破ったのは男だった。
「別に泣いてなんかないよ。」
「目の下すごい腫れてるよ。」
知ってる。すごく痛い。
「なんか悩み事がるなら聞くよ?」
「…その前に初めて会ったのに名前とか言わないの?」
「あ、確かにそうだね。ごめんごめん。君の名前は?」
「そこは自分から言うもんじゃないの?」
「俺の名前なんて別にどうでもいいよ。」
…何言ってんの?この人。
「私の名前は瑠美。禾坂瑠美。」
「…ふうん…。」
自分から聞いといてその反応…。
「あなたの名前は?私教えたんだから、教えてよ。」
「何だと思う?」
「もったいぶらないで教えてよ。」
「星がキレイだね~。」
「ちょっと!」
私…この人苦手だ。
でも星を見ている彼の瞳は輝いて見えた。
「京介。」
「え?」
「俺の名前。矢上京介。」
「きょうすけ…」
「そ。見ての通り瑠美ちゃんと同じ高校で1年!」
「1年!?」
同じ学年でこんなイケメンがいたら気づかないワケがない。
でもこの人見かけたことあるっけ…?
しかも〝瑠美ちゃん〟って馴れ馴れしいな…。
「それじゃ話もどって、なんか悩みでもあるの?」
京介は私の方には向かず、夜空を見つめたまま言った。
その瞳は星を見ているのではなく、どこか遠くを見ているかのような瞳だった。
正直、悩みなんてものじゃない。
自分でもわからないんだ。
「彼氏に振られたの。」
嘘。まったくの嘘です。
「…へぇ…。」
「何?〝へぇ。〟って。」
「いや、以外だなぁと思って。瑠美ちゃんかわいいのに振るやつなんているんだ。」
「はぁ…。」
言えない。もう後戻りはできない。嘘でしたなんて言えない。
悪気は全くないんだけど。
「最低だな。その男。」
…さっきまで明るい口調とは違い、京介は真剣な表情になった。
輝いてた瞳も、今は真っ黒。
京介は続けて言った。
「あんたを1人にするなんて」
その言葉の裏にどんな意味があるのかは分からない。
でもその発した声からは怒りや悲しみのこもったようにも聞こえた。
「…なーんて!びっくりした?」
私は驚いた表情のまま京介を見つめていた。
「そんな怖い顔しないでって。ジョーダンだよ。」
「怖い顔してたのはどっちよ。」
そう言いつつも、まだ京介から目が離せれない自分。
京介は笑ってる。
その京介の目をよく見ると、ひどく腫れていた。京介も私と会う前、
あの遊具の屋根の上で泣いていたのだろうか。星を見ながら。
それは何の涙?誰のために流した涙?
知りたい。京介の事をもっと知りたい。
「でも失恋わさ、自分を強くするものだと思うよ。」
私はこの短時間で、京介の事をもっと知りたくなってきた。
京介への質問が頭の中を巡る。
聞きたい事が、たくさんある。