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tears  作者: 榊ゆあ
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15/16

15.この場所で。


公園についた時には空は暗くなっていた。

私は学ランを両手で持ち、息を切らして公園の入り口に立ちつくしていた。

あたりを見渡しても公園には誰もいない。


「京ちゃん…。」


中央に位置する遊具の所までゆっくり歩いてく。

学ランを強く握りしめる。


「何?」


後ろを振り向く。そこには学ランを着ていない、カッターシャツの京ちゃんがいた。


「寒いからさ、それ、返して?」


京ちゃんは私の持つ学ランを指さして言った。


「あ、うん…。」


京ちゃんのすぐ前まで行き、学ランを渡す。素早く京ちゃんは学ランを羽織った。


「ねぇ…京ちゃん。」


京ちゃんの顔がまともに見れない。


「久しぶりに聞いた。その呼び方。」


優しい声で京ちゃんは言う。


「…。」


言葉が出てこない。言いたいことがたくさんあるのに。

手が震えだす。


「寒いの?」


そう言うと、京ちゃんは私の両手をとり、自らの手でそっと包んでくれた。

京ちゃんの手はとても温かかった。


「冷たいなぁ、瑠美の手。」


笑いながら言う。

私は言葉が出なくなっていた。


「瑠美?」


言わなくちゃ…、今言わなくちゃ。


「…京ちゃん。」


「ん?」


声が震える。


「…ごめんね…ごめんね、京ちゃん…私のせいで…。」


京ちゃんの顔が見れない。下を向くと涙がでてきた。


「私のせいで…京ちゃんが…。私が道路なんか飛びださなきゃ…。」


涙が一粒一粒、落ちていく。


「瑠美…、顔あげて?」


私の両手を包んでた手を離し、今度は私の頬に優しく触れた。

私はゆっくりと顔をあげる。

京ちゃんの顔は怒るでも責めるでもなく、優しい表情をしていた。

あの頃の京ちゃんの顔だった。


「瑠美が悪いんじゃないよ。だから泣かないで。」


「違う…私が京ちゃんを…。」


「俺、約束したよね?〝瑠美を守る〟って。俺は瑠美を守れたから、いいんだよ。」


「京ちゃん…っ。」


「でも…ごめんな…。ずっと約束、守れなくて。そばにいれなくて。」


悲しそうな顔をする京ちゃんを見て、さらに涙が溢れだす。


「ううん…。」


「また瑠美に会えてよかった。」


「私もだよ…京ちゃん…。」


京ちゃんは優しく私を抱きしめてくれた。

私も京ちゃんの背に手をまわす。

やっぱり京ちゃんは温かい。



少しして、京ちゃんから離れると私は言った。


「私…ショックで記憶がなくなってて…京ちゃんに会った時分からなかったの。思い出せなくてごめんね…。」


「知ってたよ。」


「え…。」


「いつも公園に来て泣いてるの、見てたから。」


…そうだったんだ。

京ちゃんはずっと、私の事をみててくれたんだ。

ずっと見守っててくれたんだ。

京ちゃんは守ってくれてるよ。

約束、守ってくれてる。


「もう一度瑠美に会いたくて、ずっと話したかった。だから、こうやって話せてうれしいんだ、俺。」


京ちゃんは子供みたいににっこりと笑った。

その笑顔につられて私も笑う。


「瑠美、おいで。」


そう言うと京ちゃんは遊具を登りはじめる。

私も笑顔で後を追いかける。


「ほら。」


上までたどり着いた京ちゃんは私に手を差し伸べる。

私はその手をつかむ。


「ありがとう。」


そうして私は遊具の上に登ることができた。

空を見上げる。そこには真っ暗な中、たくさんの星が広がっていた。

記憶がなくなってから一回、京ちゃんに見せてもらった星空。

記憶が戻ってから2人で見る空は違った。

2人だけの場所。

私たちだけの、とっておきの場所。

京ちゃんは前に、ここで1人、泣いてたよね。

それは私を1人残してしまったから…?


「相変わらず1人じゃ登れないんだな。」


「うるさいなぁ。」


京ちゃんが笑ってる。

京ちゃんが、私の隣で笑ってる。

あの頃に戻ったみたいだった。


「そういえば前に熱だしたとき…ごめんな…。瑠美を1人置き去りにして…。最低だよな。」


「ううん。大丈夫だよ。熱も冷めたし。」


「ほんとごめん…。」


京ちゃんは顔を曇らせる。そんな京ちゃんの肩に頭を置く。

前に雨が降ってた時と同じ。


「…京ちゃん。…私…。」


「うん?」


「ずっと京ちゃんにすがりついてた。京ちゃんがいないから学校に行かなくなって、京ちゃんを理由に私ずっと逃げてた。」


「…。」


「でもこれからは1人で生きてかなきゃいけない。京ちゃんがいなくても…。だから私、ちゃんと学校に行く。もう逃げたりしない。」


京ちゃんは黙ったまま空を見上げていた。


「京ちゃんの分も、生きてく。」


「…1人じゃないよ…。」


「え?」


「瑠美は1人じゃないよ。友達がいる、家族がいる、瑠美は今まで1人で生きてきたわけじゃないだろ?姿は見えなくても、俺もずっと、そばにいるよ。」


空を見上げたまま京ちゃんは言った。

私は思わず涙が出そうになった。


「…ぐすっ…。」


「泣かない!ほんと瑠美は泣き虫だなぁ。」


笑いながら京ちゃんは自分の袖で涙を拭いてくれた。


「京ちゃんの前ではそんなに泣いたことないもん!」


「俺がいなくなってからどんだけ泣いたんだよ。」


「そっ…それは…。」


…図星です。そんな縮こまる私を見て京ちゃんは再び笑う。



…京ちゃんはこうして今目の前で笑っているのに…。

こんなに近くにいるのに…。

京ちゃんはもう…いっちゃうんだよね…?



そう思うと胸が強く締め付けられた。

京ちゃんにべったりとくっつく。


「どうした?」


「…。」


言いたくない。言えない。

〝最後だから。〟…なんて。


京ちゃんは私の暗い顔を見て安心させようとしたのか、私の手をとり重ねると、指を絡ませた。

空を見上げる。


するといろんな感情が溢れ出した。

それが涙となって頬を流れた。

慌てて下を向き、顔を隠す。…泣いてばかりだ。

京ちゃんはもう何も言うことはなかった。代わりに握っていた手を離し、私の方に向き直ると優しく抱きしめてくれた。



「…っ、京ちゃん…いなくならないで…っ!」


違う…京ちゃんはいかないといけないのに…。

分かっていながらも逆の事を口にしてしまう。

ううん、本当はずっとこのままで、そばにいてほしい。

本当は京ちゃんがいなくなるなんて考えるとすごく寂しい。

泣きながら京ちゃんの服を掴む。

京ちゃんは黙ったまま。


「ずっと…そばにいてよ…。」


無茶な事を言ってるのは分かってる。…でも…。


「…瑠美…。俺はここにいるよ。ずっとここにいる。」


違う…違うよ…、そうゆう事じゃない。

こうやって抱きしめ合うことも、手を繋ぐことも、一緒に笑い合うことも、この公園で一緒に空を見上げることも、もうできないなんて信じたくない。


「…う…ぐすっ…。」


「瑠美、俺がここにいることを忘れないで。悲しくなったり、辛くなったりしたらこの公園に来て、また一緒にこの場所で空を見よう。俺はここで待ってるから。」


京ちゃんが優しく、でもどこか震えた声で言った。


「…ほんとに…?」


「うん。ほんとに。」


「約束してくれる?」


「約束するよ。」


そう言うと京ちゃんは抱きしめてた腕を離すと、小指を出してきた。

私も小指を出す。

2人は小指を絡めると笑顔で笑いあった。


「…約束だよ、京ちゃん。」


「ああ。」


小指を離した途端、急に睡魔が襲ってきた。


「…なんかもう、眠いかも…。」


「転がるか。」


そう言って京ちゃんは転がると真横に腕を伸ばす。…頭をのせろという合図だ。

私はそれに従って京ちゃんの腕に頭をのせ、寝転がる。

寝転がると、辺り一面が光り輝いていた。まるでプラネタリウムだ。


「キレイ。」


「だな。」


そして私は京ちゃんの方に向きなおった。

…京ちゃんはどうしてこんなにも温かいのだろう。


「京ちゃん…。」


「ん?」


「大好きだよ…。」


「俺も…。好きだよ、瑠美。」


そして私は、眠りについた。

































目を覚ますと、辺り一面が眩しかった。

…朝だ。

眩しい…目がぼやけて周りが見えない。

分かる事は、ここは自分の部屋じゃないということ。

ここは……公園だ。

それも、遊具の屋根の上。

…そうだ、昨日私は京ちゃんと一緒にここで…。


でもどこを見ても、公園中を見渡しても、京ちゃんの姿はなかった。


「京ちゃん…?」


どこにも京ちゃんはいない。その理由は分かった。



京ちゃんは…いったんだ…。



でも京ちゃん、約束してくれたよね。

〝ここにいる〟って。

忘れないよ。もう忘れない。

私はまた、ここにくるよ。

京ちゃんのいる、この場所に。





立ち上がろうとした時だった。

手に何かが触れた。

ざらっとした感じの…。

その場所を見てみる。

…文字が…彫られている。

ペンか何かで彫ったような、雑な字が刻まれている。

それは短い文となって刻まれていた。

よく見えないため、顔を近づけて読んでみる。


その文を読んだ瞬間、目から涙が溢れ出してきた。

文字の上にポタポタと落ちていく。

落ちた涙は、文字の間へと染み込んでいった。

涙が止まらなかった。




そこには、こう刻まれていた。











『るみへ

 

 であってくれてありがとう


         きょうすけ』
















私は拭いきれない涙を拭って空を見上げた。

そして心の中で言った。





京ちゃん、私も、京ちゃんに出会えて本当によかったよ。


本当に、京ちゃんでよかったよ。



出会ってくれて、本当にありがとう。



好きになってくれて…ありがとう。









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