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tears  作者: 榊ゆあ
12/16

12.京ちゃん


すごく嬉しかった。


最初に告白された時、この人のところに逃げてしまおうかと思った。


でもそれはできなかった。先輩がいる限り。


それでもあの人は助けにきてくれた。

また私に告白してくれた。



約束を…してくれた。












「瑠美ー!帰るぞ!」


「うん!」


付き合い始めてから、帰りは京ちゃんが私の教室にきてくれる。

京ちゃんの呼ぶ声のもとへ、私は笑顔で走っていく。

そして手を繋いで帰る。


帰りに寄り道をして、食べたり遊んだりして、いろんな事をした。


京ちゃんと一緒にいる時が私にとって1番笑顔になれる時だった。



「いい彼氏さんができて、瑠美も幸せだねぇ~。」


昼食中に陵子がにやにやしながら言ってきた。


「京ちゃん、すごい優しいんだよっ!」


「はい、ノロケはいいから!てかいつから京ちゃんなんて呼ぶようになったの?」


「最初は京介って呼んでたけど、京ちゃんの方がかわいくない?」


私は笑顔で陵子たちに言った。


「あー、はいはい。」


興味ないといった顔だ。


「何それー。」


「まぁ何でもいいじゃん?瑠美がそうやってよく笑うようになったの京介くんのおかげだし、私らこう見えても京介くんに感謝してるんだから!」


笑顔で陵子と亜矢は私の頭をぐしゃぐしゃにする。


「それ、京ちゃんに言ったら?」


「ん、今度言っとくよ!」


「それはいいけど瑠美!サボリすぎもいけないからね!」


「あ、はーい!」


京ちゃんと付き合いはじめてから、2人でよく授業を抜け出す事があった。

亜矢に注意されたものの、やめる気は全くない。








「瑠美、こっちこっち!」


「京ちゃんどこ行くの?」


その日も授業をサボり、2人は公園にいた。

京ちゃんは遊具を登っている。


「そんな上までいったら危ないって!」


「大丈夫だよ、ほら。」


登りが下手な私に手を差し伸べる京ちゃん。私はその手を掴む。

そして遊具の屋根の上についた。下を覗くと…けっこう高い。


「瑠美、見てみろよ。」


そう言って京ちゃんは空を見る。私もつられて空を見る。


「わぁ…。」


そこには雲1つない青空が広がっていた。


「…キレイ、青い!」


「だろ?少し空に近づけた感じするだろ?」


「でも、学校の屋上の方が高くない?そっちの方が空に近いじゃん。」


「学校の屋上なんてみんな知ってんじゃん。ここは俺たちだけの、空に1番近い場所だよ。」


京ちゃんはどうだと言った感じの満面の笑顔を私に見せてくれた。

そんな京ちゃんがとてもかわいらしかった。


「こんな高い屋根の上なんて誰もこないし、俺たちだけのとっておきの場所だよ。もし悲しくなったり、何かあった時は2人で、この場所で空を見上げて全部忘れるんだよ。」


京ちゃんが私の手を握る。


「…うん!」


私は屋根の上に寝転がった。屋根は思ってたよりも広かった。


「落ちるなよ。」


「京ちゃんが守ってくれるから大丈夫!」


「しょうがないなぁ…。」


そのまま私は眠りについてしまった。







「瑠美、瑠美!起きろ!」


京ちゃんが私の肩を揺らす。


「ん…もう朝?」


「何ばかなこと言ってんだよ、もう夜だよ。」


「え?」


夜という言葉に目を覚ますと太陽の眩しい光はなく、辺りは真っ暗だった。

…私、今までずっと寝てた!?


「ごめん、京ちゃん!」


「すごい気持ちよさそうに寝てるから起こそうか迷ったけど…もう夜だと思って…。」


京ちゃんは笑いながら言う。…恥ずかしい。


「それよりほら。」


京ちゃんが上を指差す。今度はなんだと思いまた空を見上げる。

…息を呑んだ。


そこには暗闇の中、いくつもの小さい光が浮かんでいた。…星だ。


「キレイ、キレイキレイー!すごいすごい!」


興奮する私を見て京ちゃんは言う。


「夜になれば星も見れる。最高じゃねぇか?」


「うん!うん!すごくいい!最高だよ京ちゃん!つれてきてくれてありがとー!」


京ちゃんに飛びつく。勢いで京ちゃんは後ろに倒れる。


「落ちるって、危ないだろ。」


「ごめんごめん。」


その夜は京ちゃんと寄り添い、ずっと星を眺めていた。







そんな日が何日も続いた。





でも、幸せはそんな長く続かなかった。








京ちゃんと付き合って1ヶ月。桜も消えた頃。

この日も授業をサボり、学校を抜け出した。

少し熱くなってきたので、アイスを買ってから公園に行こうとの事だった。

コンビニで自分の大好きなアイスを選ぶ。

そして買った後、私は早くあの場所で空を見たかったから走り出したんだ。

京ちゃんが後から追う。


「京ちゃん早く!アイス溶けちゃうよ!」


「そんな急ぐなって!危ないだろ!」


京ちゃんはいつの間にか〝危ない〟が口癖になってた。

そんな事も気にせず私は走り続ける。

すると道路が目の前にあった。そこは全くと言っていいほど自動車が通らない。

それを知ってた私はそのまま道路に飛び出した。


「瑠美!」


後ろから京ちゃんが叫ぶ。さすがに早すぎたかなと思い、京ちゃんの方を振り向こうとした時だった。

私を包む大きな影が目の前に現れた。足が動かなかった。


「え…?」



…頭が痛い…。ズキズキする…。

目を覚ました私の前にはトラックがあった。トラックは止まっている。

私はこのトラックにひかれそうになったんだ。そう判断した。

ここに私がいるって事は助かったって事?私…生きてる?

…京ちゃんは?

そう思い、地面に手をついて立ち上がろうとした時だった。

手に何かがついた。ベタッとした何かが。何かと思い、自分の手を見る。

自分の手には真っ赤な血がびっしりとついていた。


「何…これ…。」


誰かの悲鳴が聞こえた。その悲鳴によって人が集まってくる。


「…京ちゃん…?」


目の前にはぐったりと倒れた京ちゃんの姿があった。

京ちゃんの下には血が広がっていた。


「救急車呼べ!救急車!」


誰かがそう叫ぶ。


「ねぇ…京ちゃん…。」


私は京ちゃんのもとへゆっくりと近づいていく。

京ちゃんの着てたカッターシャツは真っ赤でも、京ちゃんの顔には汚れ1つなかった。

私がいくら京ちゃんの名前を呼んでも、京ちゃんは目をつぶったまま。


「京ちゃんてば、そんな演技やめてよ。」


キレイだった京ちゃんの顔は、私の手によって頬が赤くなる。

それでも京ちゃんは目を開けない。

京ちゃんの頬に、一粒の涙が落ちた。


サイレン音が聞こえてきた。


「…京ちゃん…、京ちゃん!」






サイレン音と泣き声だけが響いた…。



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