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tears  作者: 榊ゆあ
11/16

11.約束

高校1年の春。

桜が舞う入学式の日。


「京介~!お前クラス何組だった?」


そう聞いてくる桧塚拓馬ひづかたくまは中学で1番仲が良かった友達だ。


「俺2組。」


「なんだよ~クラス違うじゃねーか。俺4組だよ。」


中学から仲のいい友達と同じ高校だと安心できる。


「そーなんだ。」


「なんだよその言い方!さびしーじゃねーか。」


興味なさそうに言うが心の中はかなりのショックだ。


「まぁいいや。早く教室行こうぜ。」


「ああ。」


下駄箱に向かおうとした時だった。

たくさんの新入生がいる中、たった1人だけ目に映った。

髪が肩より少し下まであってサラサラで、すごくかわいい子だった。

桜がとても似合う子だった。


「瑠美ー!私達同じクラスだったよー!」


「ほんと!?やった!」


その子は瑠美と呼ばれていた。



その日から俺は瑠美という子が気になり始めていた。





禾坂瑠美。隣の1組。性格はとても明るい子だった。

いつも友達と3人でいる。友達思いの優しい子。

クラスの前を通る時、ついつい足を止めてしまう。


「なんだよお前。また愛しの瑠美ちゃん見てんの?」


「はっ、なんだよその言い方!」


拓馬がからかいにくる。それにむきになる自分がいた。


「そんなむきになんなって!でもさ、あの子は諦めた方がいいぞ?」


「何でだよ。」


普通そこは友達として無理だと分かっていても応援するところだろーが。


「あの子、2年に彼氏いるんだよ。入学式の日に告られたんだって。」


「そんなの関係ねぇよ。奪ってやるよ。」


「いやぁ…その先輩はやめとけって。」


「はぁ?」


「3年の人達も手つけられないようなやばいヤツだからだよ。」


「てかお前よくそんな情報知ってるな。」


「俺の情報網なめんなよ!…とりあえず、あの子はやめとけ。彼氏さんに目ぇつけられたら痛い目見るぞ。」


「そんなの知らねぇよ。」


俺は瑠美ちゃんが好きなんだよ。彼氏がいる程度で諦めるか。





ある日の事だった。日直で仕事が遅くなり、帰りの下駄箱でくつに履き替えようとしてた時だった。

奥の下駄箱の方で話し声が聞こえた。

声の場所からして、隣の2年の下駄箱からだった。


「俺さぁ、欲しいのがあんだけど。」


「…前にも欲しいとかいって、あげたばっかじゃん…。」


この声は…瑠美ちゃん?じゃもう1人の男の声は彼氏?


「また欲しいのがあったんだって!お願いだよ瑠美~。」


「うん…分かった。」


かばんを開ける音が聞こえる。おそらく金を出してるんだろう。


「…はい。」


「さんきゅ!瑠美!」


そして2人は帰っていった。

その後姿は好きで付き合ってるようには見えなかった。


俺はその姿を見続ける事しかできなかった。






昼の時間、俺が1組の男子と話してた時だった。

4~5人の2年の先輩がきた。先頭には瑠美ちゃんの彼氏。

先輩がくると自分の彼女を探し、名前を呼ぶ。

普通だったら喜んで彼氏のもと行くものの、瑠美ちゃんは違った。

先輩が瑠美ちゃんの名を呼ぶと瑠美ちゃんは怯えるかのようにして先輩のもとへ行く。


俺には分かる。

瑠美ちゃんは先輩が好きじゃないんだ。


「なぁ、瑠美。金欲しいんだけど。」


「…お金ないよ…。」


「そんな事言わないでさぁー。」


「…先輩が使いすぎるから…。」


そのやり取りを目の前で見つめる。


「…ちょっとこっちこい。」


人の目を気にしたのか、瑠美ちゃんの腕を掴むと先輩は消えていった。



放課後。



1組の前を通った時にふと気になって教室を見た。

するといつもの友達と3人で瑠美ちゃんはいた。

でも、いつもの明るい感じとは違う。瑠美ちゃんは泣いていた。

頬を見ると、赤くなっていた。

連れてかれた後、殴られたんだ…。

…最低だ。


「…大丈夫?」


廊下の窓からそのまま話しかけた。

3人は驚いた様子でこちらを見る。


「えっと…、隣のクラスの…?」


「矢上京介!…それより…頬、大丈夫?赤くなってるけど…。」


「あ、大丈夫です!気にしないでください!」


友達が気遣って言う。


「…そっか。」


帰ろうとした時だった。


「心配してくれてありがとう。」


声のした方に振り返って見ると、涙を拭いて腫れた目をしながら瑠美ちゃんは笑いかけてくれた。

胸が締め付けられる感じがした。




…決めた。


俺は明日、瑠美ちゃんに告白する。


俺は絶対に、悲しい思いをさせたりしない。









次の日の放課後。1組行き、瑠美ちゃんを呼び出した。


「禾坂さん!話があるんだけど。」


「あ…はい…。」


校舎の裏に連れてきたはいいものの…校舎の裏って定番だよな…。

そう思いながらも、瑠美ちゃんと向き合う。


「改めて自己紹介するけど、俺、2組の矢上京介って言います!」


「あ、うん、知ってるかもしれないけど私、禾坂瑠美です…。」


「はい、知ってます!」


つい丁寧口調になってしまう。


「俺、初めて見た時から禾坂さんの事が好きでした!俺と付き合ってください!」


勢いで頭を下げる。緊張で顔を見れない。心臓がバクバクしてる。


「…私…彼氏いるの…先輩の…。」



…結果は…分かってた。



「…だよね…。」


そう言って顔を上げると笑ってるつもりでも目に涙がたまってる瑠美ちゃんの姿があった。


「ごめ…ごめんなさい…ありがとう…。」


「うん…。」


瑠美ちゃんはずっと謝ってはありがとうとばかり繰り返していた。




その日から俺の頭の上にだけ雨が降ってるかのようだった。


「そっか、振られたか…。あんな男のどこがいんだろうな、瑠美ちゃん。」


「気安く瑠美ちゃんて呼ぶなよ。」


「振られたお前が言うな。無理にでも別れさせればいいのに。」


「そんな事する権利俺にはねぇよ…。」


「とにかく元気出せよ!ま、男の失恋の立ち直りは長いと思うけどな!」


励ましてんのか…?こいつ…。

拓馬は人事のように能天気だった。


瑠美ちゃんとはあれから話していない。目があっても無視。俺を避けるようになった。

彼氏から何か言われたんだろう。


「…しばらくは恋なんてできないだろうな…。」


空を見上げて、俺は言った。






昼、自販機で拓馬とジュース選びをしていた。

どれにしようかと悩んでいたら、自販機の向こう側に見える教室が目に入った。

ドアの窓から瑠美ちゃんの姿が見えたのだ。


「瑠美ちゃんだ…。」


「え?」


気づいたら俺は教室の方へ走っていってた。

教室についた時、中から話し声が聞こえた。


「何だって?」


「私…先輩と別れたいんです…!」


先輩の低い声と…瑠美ちゃんの震えてる声だ。

話の内容からして…別れ話だ。


「おいおい、こーゆーのってやばくないか?」


拓馬が焦って言う。


「静かにしろ!」


こちらの様子には気づかず、中では話が続く。


「俺と別れたいの?」


「…う、うん…!」



ばしぃっ…。



鈍い音がした。どさっと何かが倒れる音が聞こえる。


「ふざけんなよ。この俺がお前みたいなヤツと付き合ってやってんだからありがたく思えよ。お前は金でも集めて俺に貢いでりゃいんだよ。」


頭の中で何かがプツッと切れる音がした。


気づいたら俺は先輩に殴りかかっていた。

教室中に鈍い音が響き渡る。


「なっ、んだよお前!」


「お前こそなんだよ、女殴るなんて最低だなっ!」


「はぁ!?てめぇには関係ねぇだろ!」


「おおありだぁ!」


そう叫んでもう一発先輩を殴った。


「おいおいやめろよ京介!」


拓馬が止めにかかろうとするが俺は聞かなかった。


「なんだよお前!いいよ!そんな女くれてやるよ!うぜぇ…」


そう言って先輩は逃げるように教室を出て行った。

教室には俺と拓馬と瑠美ちゃんの3人が残っていた。


「…京介くん…。」


瑠美ちゃんが心配そうに俺を見つめてくる。


「あ、ごめん、ついカッとなっちゃって…頬…大丈夫?」


「…ありがとう…。」


「え…。」


「ありがとおおおお…。」


瑠美ちゃんが泣きながら俺のそばに寄り添って泣き始めた。

その姿を見て瑠美ちゃんを守りたいと強く思った。


瑠美ちゃんの肩を掴んで大声に近い声で言った


「瑠美ちゃん!俺、やっぱり瑠美ちゃんが好きです!誰よりも瑠美ちゃんが好きです!俺と付き合って下さい!」


「…瑠美ちゃん…?」


「あっ…つい…。」


いつも裏では瑠美ちゃんて呼んでたから…。なんて事は言えなかった。拓馬もやれやれといった顔をしている。


「…いいよ…。」


「…え?」


「…お願いします!」


驚いた…。思わず目を丸くさせる。


「ほ、本当に?」


「うん!」


そこには笑顔で笑う瑠美ちゃんの顔があった。


「その代わり、瑠美ちゃんじゃなくて、瑠美でいいから。よろしくね…京介!」


「は、はい!」


また出てしまった。丁寧口調。

拓馬が隣で微笑ましそうに笑っている。

嬉しすぎて心臓がバクバクいってる。



そして俺は言った。



「俺、約束する!」


「約束?」


瑠美が興味深そうに聞き返す。


「ああ。」


瑠美の手を握り締めて、言った。










「俺が絶対、瑠美を守るから。」









命に代えても…絶対に。



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