嘘吐きな魔女
「はーい、これで出来上がり」
彼女が作った、狂気の作品。彼女の嘘の傑作。偽りモノ。
いらない文句まで出てくるが、美術的価値は相当なものだった。
「魔術師に魔術が使えないのはおかしいことでしょ?」
誰も作ったことはないのに、彼女が作ったその傑作は、単なる嘘の塊だった。
「君は嘘吐きだ!」
彼はそうやって批判した。その中に潜む闇が見えてしまったから。
「何故? あたしの作ったこれは誰にだって未来が見える額縁。それはそれは綺麗に絵になって自分が見えるんだから誰だって欲しがるに決まってるわ」
「魔術をそうやって使うな!」
彼は腹を立てて声を荒らげる。
「ただいま帰りました。教授、助教授」
助手が帰ってきた。
助手は魔術が使えない。教授は彼女、助教授は彼のことだ。
暗い室内でただ明るく光るその額に助手は興味を示した。
「あれ? 何も描いてないんですか?」
「正面から覗いてごらん」
「見ちゃいけない!」
助教授の言葉も聞かずに助手は額の中を覗いた。
「――!」
悲鳴も上げられないまま、助手は倒れた。
――未来の自分を見てしまってから。
「なにっ! 死んだのか?」
彼は助手を覗き込む。
「死にゃしないわよ」
額の本当の効果を彼女は知っていた。
「あんたも見てみたらいいじゃない」
唆されて彼はその額を覗き込み、そして息絶えた。
「その額は人の未来を暗く映すもの……。あたしは悪魔だからあんたとの未来は暗いところでしか見えないと思ったのに……」
二人も殺してしまったことに後悔はない。
刑で処罰されないように、この世から二人の存在したこと自体を消しさえ場すればいい。
「×××と×××の存在を消し給え!」
呪文を叫んで一息ついた。
「あんたはなんであたしから消えてくれないの……」
因縁の中だった、助教授のことを彼女は想った。