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勇者パーティー、解散配信します!〜なお解散の理由は世界滅亡です〜

作者: 一場令衣
掲載日:2026/09/27

 

【現在の同時視聴者数:54,210,000人】


「俺たちのパーティーは、本日をもって解散する」


 魔王城最深部、玉座の間。

 折れた柱と砕けた床を背に、勇者は沈痛な面持ちで頭を下げた。


 つい数時間前、俺たちは魔王を倒した。

 長い旅の果てに勝ち取った、人類の勝利だった。


 当然、全世界が見守るこの配信も、祝勝会になるはずだった。


 〈は?????〉

 〈魔王倒したばっかじゃん〉

 〈おめでとうって打っちゃったんだけど〉

 〈不仲説?〉

 〈聖女の取り合いか?〉


 流れるコメントを見つめながら、俺は杖を握り直した。


 魔法使い。三十歳、独身。

 勇者パーティーでは、主に後方から魔法を撃つ係だ。

 大事な話なのに、戦士の肩で俺の顔が半分隠れていた。


「理由は一つ」


 勇者が、顔を上げた。


「世界が、あと七日で滅びるからだ」


 コメントが止まった。

 配信の不具合ではない。


「詳しくは、私から説明します」


 賢者が一歩前へ出た。

 眼鏡の位置を直す、その指先が震えている。


「魔王の強大な魔力は、“真の災厄”を封じる核となっていました。魔王は世界を滅ぼそうとしていたのではなく、その存在自体で、世界の崩壊を防いでいたのです」


 〈待って〉

 〈じゃあ倒しちゃ駄目なやつ?〉


「はい」


「魔王の死と同時に封印は崩壊しました。七日後には災厄が完全復活します。現状、私たちの力で討伐することも、同じ封印を施すことも不可能です」


 〈なんで倒す前に調べなかった〉

 〈魔王討伐おめでとうのケーキ買ってきたんだが〉

 〈食べとけ。七日しかない〉


 勇者が、ぐっと拳を握った。


「だから最後の七日くらい、それぞれ自由に生きようと思う」


 世界を救う旅だった。

 そのはずだった。


 それが、世界の寿命を七日に縮めて、現地解散。


 帰りの馬車代は出るのだろうか。

 考えてから、七日後には金も意味がなくなることを思い出した。


 つらい。

 貯金してたのに。


「でしたら……」


 沈黙を破ったのは、聖女だった。


 淡い桃色の髪が、ふわりと揺れる。

 純白の法衣をまとった彼女は、胸の前でそっと両手を重ねた。


「最後の七日間くらい、皆さま笑って過ごしませんか? 神様からいただいた最後の時間ですもの」


 慈愛と清廉の聖女。

 周囲が祝福の光でキラキラと光る。


 〈聖女様……〉

 〈こんな時まで優しい〉

 〈やっぱ推せる〉

 〈最後まで応援します〉


 俺もちょっと泣きそうになった。

 そのときだった。


「聖女!」


 キラキラキラキラ。

 光魔法エフェクトを散らしながら勇者が前に出る。


「俺と結婚しよう。最後までそばで守る!」

 勇者が聖女の手を取った。

「ふっ、決まった……今のは撮れ高高いだろ」


「心の声が漏れてるぞ」

 俺は思わず突っ込んだが、誰も相手にしてくれない。


「聖女、好き、オラと田舎で|祝言〈しゅうげん〉!」

 戦士が反対側の手を取った。


「最後まで私と聖書を読みながら静かに過ごさないか?」

 賢者が、正面を押さえた。


「まあ……皆さま、こんな時に……♡」


 聖女は頬を染めた。


「わたくし一人しかおりませんのに、困ってしまいます……♡」


「えっ……あの、俺は?」


 三人の背中に声をかけた。

 返事はなかった。


 〈草〉

 〈一人余ってる〉

 〈魔法使いも誘ってやれよ〉

 〈世界より先にこいつの人生終わってる〉



 ─────



「世界を救う方法なら、ございます」


 玉座の間の扉が開いた。


 入ってきたのは、生き残った魔王の側近たちだった。


 魔族たちが左右に分かれ、その間を、一人の老臣が進み出る。


 勇者が聖女の手を離した。


「本当か!?」


「新たな魔王を立てるのです。魔王という存在そのものが封印装置。次代の魔王が誕生すれば、封印は再起動いたします」


 〈あるじゃん解決法〉

 〈解散取り消し?〉

 〈ケーキまだ食べなくていい?〉


 俺も、思わず一歩前に出た。


「じゃあ、すぐに決めよう! 後継者とかいるんだろ?」


「本来なら、四天王の誰かが継ぐ予定でしたが……」


 老臣の視線が、勇者へ向いた。

 魔族たちも、勇者を見た。


 四天王。


 倒したな。


 全員。


 一人ずつ、戦闘の生配信もしたな。


「……俺たちのせい?」


「はい。全部あなた方のせいです」


 勇者が黙った。


「魔王継承には、三つの条件がございます」


 老臣は指を立てた。


「一つ、魔王の核を受け入れられるだけの高い魔力を持つこと。二つ、健康で強靭な肉体を持つこと」


「そして最後の条件──即位するその瞬間まで、『童貞』または『処女』であることです。なお、即位後に喪失するのは問題ありません」


 玉座の間が、水を打ったように静まり返った。


 勇者が、そっと目を逸らした。

 戦士が、口笛を吹き始めた。

 賢者が、眼鏡を激しく拭き始めた。

 聖女が、頬に手を当てて「あらぁ♡」と呟いた。


「じゃあ、聖女は──」


「……聖女。俺が初めてって、言ってなかった?」


「待て。俺にも言ったぞ」


「……私にもですね」


 三人が、聖女を見た。


 俺も見た。


 五千万人も、たぶん見た。


「まあ♡」


 聖女は、にっこり笑った。


「わたくし、“何が”初めてとは、一度も申し上げておりませんけれど?」


 俺の頭の中では、何かが爆発した。


「勇者様とは、“勇者様と”初めて♡」

「戦士様とは、“戦士様と”初めて♡」

「賢者様とは、“賢者様と”初めてですもの♡」


「そういう初めてぇぇぇ!?」

「っていうかその話初めて聞いたんですけどぉぉ!?」


 俺の絶叫とともに、コメント欄が爆発した。


 〈初めて(3人)〉

 〈嘘はついてない〉

 〈契約書の穴を突くタイプ〉

 〈清純派とは〉

 〈世界滅亡の話どこいった〉

 〈魔法使いのことを誰か思い出してあげてください〉


 勇者が口を開けていた。

 戦士も口を開けていた。

 賢者だけは口を閉じていたが目が泳いでた。


 〈失望しました。聖女ちゃんのファンやめます〉

 〈俺たちが守ってきた清純派設定が……〉

 〈でも嘘はついてないんだよな〉

 〈余計タチ悪い〉


「まあ、皆さま、何を勘違いなさっていたのです?」


 聖女は悲しそうに眉を下げた。


「被害者ヅラすんな!」


 思わず言った。


 そこへ、一つのコメントが流れてきた。


 〈@勇者様の未来の妻♡プリンセス:許さない〉


 勇者の肩が跳ねた。


 隣国の王女殿下。

 勇者の配信には必ず現れる、筋金入りのガチ恋勢である。


 〈@勇者様の未来の妻♡プリンセス:誰よその女〉

 〈@勇者様の未来の妻♡プリンセス:勇者様に私の初めて捧げたのに〉

 〈@勇者様の未来の妻♡プリンセス:許さない〉

 〈@勇者様の未来の妻♡プリンセス:許さない〉


 〈@勇者様の未来の妻♡プリンセス:私以外の女にプロポーズするなんて〉


 〈@勇者様の未来の妻♡プリンセス:世界滅亡より許さない〉


「いや、姫様。今、それどころじゃ」


 〈@勇者様の未来の妻♡プリンセス:勇者様は黙ってて〉


 勇者が黙った。


 魔王の前でも引かなかった男が、一行で黙った。


 〈勇者ガチ恋姫きた〉

 〈世界滅亡より修羅場が増えてる〉

 〈七日も持たんぞこの人間関係〉


「……話を戻してよろしいでしょうか」


 老臣が言った。


「「「「はい」」」」


 俺たちは、きれいに声をそろえた。



 ─────



「四天王亡き今、必要な魔力と肉体を備える高位魔術師は、極めて限られます。さらに、最後の条件まで満たす方となりますと……」


 老臣の視線が、俺で止まった。


 勇者が俺を見た。

 戦士も見た。

 賢者は、ようやく眼鏡をかけ直した。


 全員の視線が、ギギギ……と、一斉に一人の男へと注がれる。


 三十歳、独身。恋人いない歴三十年。


 趣味は魔力の自主練。


 童貞。


「……なんだよ。なんでみんな、俺を見るんだよ」


 震える声で呟く俺に、賢者が憐れみの目を向けた。


「魔法使い。この中で……というか、この国の一流魔術師の中で、その年齢までその条件を完璧に維持しているのは、あなたしか心当たりがありません」


「なんでなんだよぉぉぉぉぉぉ!!!! 確かに俺は三十でチェリーだけどさぁ! なんで世界を救う最後の希望が俺の貞操なんだよコンチクショーめがァァッ!!」


 俺の絶叫とともに、コメ欄は大爆発を起こした。


 〈三十年間守ったものが世界を救う〉

 〈童貞が人類最後の希望〉

 〈お前の三十年は無駄じゃなかった〉

 〈本物の魔法使いになってて草〉


「本職だよ! 最初から!」


 老臣が、深々と頭を下げた。


「もはや、あなた様しかおられません」


「もっとこう、ほかにいないの!? 魔族のすごい人とか!」


「ですから、四天王が」


 俺は仲間たちを振り返った。


「俺たち、俺の代わりに就職するやつまで消してたのかよぉぉぉ!」


「頼む」


 勇者が、俺の肩をつかんだ。

 悲壮な表情と光魔法によるキラキラしたエフェクト。

 悲しげな瞳が俺を捉える。


「世界を救ってくれ」


 さっきまで俺を置いて聖女と結婚しようとしていた男だ。


「……断ったら?」


「七日後に、世界中の生命が死にます」


 賢者が答えた。


「選択肢ねえじゃねえか!」



 ─────



 俺は泣きながら玉座に座った。


 魔王の力(?)が、体の中へ流れ込んでくる。


 骨の奥まで熱い。

 膨大な魔力が全身を巡り、城が震えた。


 この力なら分かる。

 世界のどこかで、今にも引きちぎれそうになっている封印が。


 俺は歯を食いしばり、そこへ魔力を叩き込んだ。


 つながれ。

 閉じろ。

 もう二度と出てくんな。


 恋人もできてない。

 結婚もしてない。


 ようやく世界を救ったと思ったら、魔王に転職させられたんだぞ!


 せめて長生きくらい、させろ!


 玉座から光が噴き上がった。


 城を覆っていた不気味な揺れが止まり、俺の中で、何かががっちりとかみ合った。


 老臣が顔を上げた。


「封印の再起動を確認! 災厄の復活、停止いたしました!」


 コメント欄が、爆速で流れ始めた。


 〈うおおおおおおおおお〉

 〈助かった!?〉

 〈世界救ったぞ!!!〉

 〈魔王様ありがとう!〉

 〈ケーキに魔王即位おめでとうって書き足した〉


「新魔王陛下、万歳!」


 魔族たちが膝をついた。


「万歳!」

「万歳!」


 勇者も戦士も笑っていた。

 賢者は安堵の息をつき、聖女は手を合わせている。


 俺は玉座の上で、両手に顔を埋めた。


「即位理由だけ、歴史書に書かないでくれ……」



 ─────



「なお、先代魔王様の全財産も相続していただきます」


 老臣が言った。


 俺は指の隙間から顔を上げた。


「……全財産?」


「はい。この魔王城と広大な領地。金鉱、魔石鉱山。そして、宝物庫に収められた金銀財宝でございます」


「どれくらい?」


「人間の大国の国家予算、数百年分ほどかと」


 三十歳、非モテ魔法使いが、一瞬にして世界一の大富豪へと成り上がった瞬間だった。


「………………」


 聖女の目が、キラリと光った。


 勇者と戦士が「あ」と察した顔になり、賢者が「聖女、露骨に目が変わっていますよ」と突っ込むが、もう遅い。


 聖女は凄まじいフットワークで魔法陣を駆け上がり、新魔王となった魔法使いの腕に、自らの豊かな胸を全力で押し当てて飛びついた。


「魔王様ぁ〜♡ よくよく考えましたら、わたくし昔から、あなたのその知性的で落ち着いたところが本当に素敵だと思っていましたのぉ〜♡」


「えっ。あっ。そう、かな」


 腕が豊満な双丘に挟まれてる。柔らかい。理性が飛びかける。


 が、ギリギリ踏みとどまって思いだす。


「って三分前まで俺のこと選択肢にも入れてなかったよね!? 目が完全に金貨になってるよ聖女ちゃん!?」


 〈聖女の掌返しハナホジレベルでワロタwwwww〉

 〈ガチで金しか見てねえええええええええええ!!〉

 〈現金な聖女(物理)〉


 聖女は頬を赤らめ、すっと視線を伏せた。


「それに……即位したあとなら、その……」


「その?」


「魔王様が三十年間、大切に守ってこられたものを失っても、世界には問題ないのですよね?」


「えっ」


 俺の口から、すごく間抜けな声が出た。


「わたくし、人助けは聖女の務めだと思っておりますので……♡」


「えっ」


 心臓が跳ね上がる。


「俺にもついに、三十年目の春が……」


「その理屈で童貞を救済しようとするな!!」


 勇者が突っ込む。

 なんだよ童貞救済、素晴らしいじゃないか!


「いや待ってよみんな! 俺が誰と夜を過ごそうが俺の勝手でしょ!? 世界救ったんだからご褒美あっても──」


「待てぇぇぇぇぇぇい!!!!」


 嫉妬に狂った勇者、戦士、賢者が、凄まじい殺気を放ちながら新魔王(俺)を包囲する。


「許さないぞ! 悪の権化! 魔王!」

「聖女、オラと祝言!」

「まぁ、成り行きですが致し方ありませんね」


 コメント欄は完全に爆発寸前の大盛り上がりとなった。


 〈世界を救った途端にこれだよwwwwwwww〉

 〈魔王討伐第二ラウンド、まさかの「理由:聖女(金)」〉

 〈勇者たち、魔王戦の時より目がガチで草〉

 〈金額を聞いた瞬間に態度変えやがって! 汚い、聖女汚い!〉


 玉座の間に、勇者と戦士のガチの怒号が響き渡った。


「魔王から離れろ聖女! それは世界の危機を救った汚いチェリーだぞ!」

「子供、たくさん欲しい!」

「聖女! これは完全に資産狙いでしょう!」


 賢者の指摘に、聖女は肩をすくめた。


「まあ♡ 人聞きの悪い」


 否定はしなかった。


 〈失望しました。聖女ちゃんのファンやめます(二回目)〉

 〈さっきやめただろ〉

 〈ちょっと戻ってた〉

 〈ちょっとでも戻る要素があったのかよ〉


 〈@勇者様の未来の妻♡プリンセス:許さない〉

 〈@勇者様の未来の妻♡プリンセス:魔王ごとその穢らわしい|聖女〈おんな〉を消してやる〉


 王女殿下、聖女のついでに俺を消そうとしている。


 だが、聖女は見ていた。

 うるんだ瞳で、俺を見上げていた。


 正確には、俺の向こうにある金を見ている。


「訂正します!!」


 勇者は配信へ顔を向け、高らかに宣言した。

「勇者パーティー、即日再結成します!!」

 そしてグッとガッツポーズ。

「よしっ、これで出演者の中で俺の好感度高!」


「聞こえてるんだよぉ!」


「なんでだよ!? 俺がいま世界救っただろ!?」


 勇者が剣を抜いた。

 ついさっき世界を救った俺に、切っ先が向けられている。

「今度の討伐対象はお前だ、新魔王!  聖女をその汚い金でたぶらかす悪の権化め!」

「……決まったぜ」


「魔王様ぁ〜、あんな貧乏勇者ほっといて、早く宝物庫の金貨の数を数えにいきましょう♡」


「なぁっ!?」


「この状況でも目的がぶれねえな!?」


 勇者が剣を向ける。

 戦士が武器を構えた。

 賢者が杖を持ち直した。


 見慣れた陣形だった。

 敵側から見るのは初めてだった。


 なのに──

 どうしてこうなった!?


「俺、世界救ったんだよなぁぁぁぁぁ!?」


 俺──新魔王の涙の絶叫が響き渡るなか、配信の画面には、視聴者たちからの最後の祝福(?)の弾幕が、これでもかと流れるのだった。


 〈【速報】勇者パーティー、解散時間:約一時間〉

 〈世界滅亡は回避、人間関係は滅亡〉

 〈聖女ファン息してる?〉

 〈勇者ガチ恋姫まだ「許さない」連投してて草〉

 〈魔王(30)、童貞を守って世界と財産を手に入れる〉

 〈なお命は元仲間に狙われる模様〉


 〈勇者パーティー解散配信 ──完──〉

 最後まで読んでくださりありがとうございます。

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