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グオオオオオ!!

巨大な敵が咆哮をあげる。


「チッ!見つかってしまったか」


青いマントを翻したヘブンブルーは、舌を打った。

ジリアンに吹っ飛ばされたイエローを助けることはできたものの、その隙に天界獣がこちらに気付いたのだ。

化け物は大きな体を揺らしながら、レンジャーたちに突進してこようとしていた。


「なんて大きさ……こんな奴に勝てるの?」


イエローを介抱するピンクが呆然と呟く。


「無理よ、今まで相手にしてきたどの怪人よりも強そう……」

「なあレッド、わざわざあんな怪物を相手にする必要はないんじゃないか?それよりもこの空間を脱出する方法を探そうぜ」


グリーン、イエローも同じく逃げ腰だ。


「ダメだ」


だが、半分沈みかけたビルの上に降り立ったレッドは、そう冷静に言い放った。


「俺たちをこの空間に閉じ込めた奴の意図は分からない。イエローの言う通り、ここからの脱出方法も見つけなければならないが――こんな怪物が世に放たれたら大変なことになる。こいつはここで絶対に倒すんだ」


戦隊のリーダーは仲間たちを見渡し、


「俺たちはいつもピンチに立ち向かってきたじゃないか。今回だって同じさ」


それから意を決したように怪獣に向き直った。


「行くぞ、ヘブンレンジャー!!」

「おお!!」


レッドの檄に合わせ、レンジャーたちは拳を突き上げた。



「食らいなさい!グリーン・ナイツ!」

「ブルー・インパルス!!」

「レッド・ドラゴン!!」


ヘブンレンジャーたちは怒り狂う怪獣に向かって必殺技を繰り出す。

派手な技の連発に、子どもたちも喜んでいるのかヒーローたちの(ポイント)もどんどん上がっていく。


『なかなか盛り上げてくれるじゃねえか。急に仲間割れしだした時はどうなることかと思ったが、こりゃアドリブでも十分回せそうだな』


モニタ越しにヘブンレンジャーの戦闘を見ていると、急に室長からの内部通信が入った。


『……随分とご機嫌で。こっちは何も聞かされずに放り出されて肝が冷えましたけど』

『はは、ナイスアシストだったぜ。ジリアン・ルージュ』


耳元でからから笑う男に殺意が芽生える。

決めた。この収録が終わったら絶対に一発ぶん殴る。


『ところで、どうやってアイツに勝つシナリオなんです?ヒーローの技を受けてやられたフリとか、タイミングは……』

『あ?そんなんねーよ』


私の質問に、男はまるで他人事のように答えた。


『は?』

『さっき言っただろ、あれははぐれ天界獣。天界に生息するホンモノの怪獣なんだから、こっちの言う事なんか聞くわけねーだろ』

『はあ!?何それ、役者を殺す気!?』

『まあ、本当にヤバくなったら一応助け船は出すつもりだから。ほら、もう一人の主役が合流したぞ』


無責任な脚本家の声に、私はバッとモニタに向き直った。




「レッド」


声とともに、漆黒の男が音もなく着地する。

赤い仮面のヒーローはすぐに声をかけた。


「ブラック!正気に戻ったのか!」

「ああ、ジリアンが術を解いてくれたんだ」

「……良かった!君が来たら百人力だ!」


猿芝居をするブラックに、レッドは不自然なくらい明るい声で応じた。

腹の底にリーダーらしからぬ黒い感情が見え隠れしていたが、ブラックは特に何も言わず、フイと顔をそらした。


「しばらくあの怪物を観察して、どう戦うか考えていた」

「そうか。で、どうする?」

「こいつ、図体はデカいが動きは単調だ。全員でかかれば倒せないことはない」


台詞の指示もないのに、ブラックはまるで攻略法が分かっているかのように淡々と答えた。


「だが、硬い皮膚のせいで攻撃が通らないんだ」

「どこかに弱点があるはずだ。おれが接近して弱点を見つけるから、援護してくれ」

「あ!ブラック!?」


レッドの話も聞かず、ブラックは一瞬で飛び上がり、相手に近付いていく。

勝手な行動を、と戦隊リーダーは憤慨したようだが、止められる筋合いはない。

ヒーロー内の仲間割れという勝手な筋書きから、ジリアンが元のストーリーラインに戻してくれたのだ、それを無駄にするわけにいかない。

それに。


「こっちには、時間がねーんだって」


男がボソリと呟いた声は、誰にも聞かれなかった。



「一度集合だ、ヘブンレンジャー」


ほどなくしてブラックは怪獣の弱点を見つけた。

口だ。口の中に弱点の核があり、そこを攻撃すれば倒すことができる、とブラックは呼びかけた仲間のヒーローたち全員に伝える。


「口……なら上あごと下あごをそれぞれ攻撃して、口を開かせようか」

「そうだね。それで二人で固定したところを、ブルーの矢で射抜けば……」

「いや、矢だと弱い。直接攻撃を叩きこまないと核は壊れないだろう」

「じゃあ、どうするの?」

「それにあいつ、火を噴いてくるんだぞ。直接っつったって……」

「火を噴いた後、再び火を吐き出すまではインターバルがある。その隙に、誰かが口の中に入り込んで弱点を突くのがいい」

「なっ……危険すぎる!そのまま口を閉じられたら食われてしまうぞ!」

「ああ、だからこの中で一番素早いおれが行く」


ブラックがそう宣言した途端、イエローがなんだと?と声をあげた。

またお前がオイシイところを持っていくのか、とでも言いたげな様子だ。

ブラックは少し考えた後、カチッと内部回線のスイッチを押した。


『お前の言う通りだよ、イエロー』

『は?』

『おれには(ポイント)が要るんだ、そのためには手段を選んでいられない。こいつはおれ一人で倒す』

「な、お前っ!」

「イエロー、やめろ」


カッとなったイエローはブラックに食って掛かろうしたが、レッドが止めた。暴れ回る敵の前で揉めている場合ではない。


「分かった、ブラックの策で行こう。まずは奴の前をバラバラに飛んで攪乱し、火を噴かせるぞ」


最後にそうまとめ、作戦が決まった。



「え、もう終わった……?」


現場にたどり着いた時目にしたのは、咆哮を上げながら頭をグラグラ揺らしている怪獣だった。

戦隊ヒーローたちの行動は、遠隔でカメラ映像を見て知っていた。

複数人で敵の周りを飛び回って怪獣に大量に火を吐かせた後、ブラックが口の中に入って弱点である口の中を攻撃したのだ。

あのデカブツが演技でも仕込みでもなく、馬鹿室長が用意した本物の怪物だったということで心配して来てみたのだが……すべては取り越し苦労だったか。

やれやれ、と私は肩をすくめた。


「今回もお手柄じゃない、ブラック。これなら願いもかなえられるんじゃ――」

『そうはいかねえぜ?ヘブンレンジャー』


その時、役者全員に内部通信が入った。

通信相手はもちろん、いつもヤニくさい無責任なメガネ。


『何だ、どういうことだ?室長』

『ヒントもなしに天界獣の弱点を見つけてそこを突くって作戦は見事だった。だがな、見てみろ』

『え』


その場にいた全員が顔をあげた。


「まだ倒れていない……?」


ぽつりとグリーンが呟く。

その通りだった。

ブラックが口の中に入ってすでに数分経っているが、怪獣はまだ立ったままで、ブラックの方も出てくる様子がない。


『甘くみるなよ?天界獣はそんなヤワじゃねーよ』


室長はそう言って、殊更楽し気に笑った。




「チッ、浅い!」


カメラが切り替わり、怪獣の口の中のブラックが大写しになる。

ブラックは今一度サーベルを振り下ろした。

が、舌の上に描いてあるマークを何度刺しても、その中心の核には到達しない。


「口の中まで硬いってどういうことだよ」


また舌打ちをして、悪態をつく。

ここに入ってもう何分経った。次にこいつが火を噴けるようになるまで、あとどれくらいだ。

一応攻撃は効いているようだが、確実に核を潰さなければこの怪物は倒せないだろう。

――時間がない。

焦りばかりが先走り、彼の仮面の隙間から幾筋も汗が垂れた。


『よおブラック、調子はどうだー?』

『…………。』


とそこに、のんきな声が耳元で聞こえた。


『順調にいってそうだったが、ここにきて当てが外れたか?流石のお前もこいつ相手じゃ分が悪いんじゃねえのか?』

『うるさい』

『でも、もう時間ないよなあ?ど~~する?助けてやろうかぁ?なに、ちょぉっと(ポイント)払ってくれればすぐに』

『うるさいって言ってるだろ、ペテン師』

『天使だ、クソガキめ』


フンと不服そうに鼻を鳴らす室長。


『だがどうするつもりだ?あと一分もすればこいつの火の息でお前は火だるまになるぞ』

『いいから黙って見てろ』


お前人気だしさあ、できれば殺したくねーんだけど、とブツブツ言う男に構わず、ブラックは通信を切った。


「仕方ない、この技を使う時が来たか」


ふうと息を吐いた彼はそんな台詞を口にした後、サーベルを一度鞘に戻した。

そして、目を閉じ右手を前に差し出す。

すると、不思議なことが起きた。

ブラックの翼が消え、体中のエネルギーがすべて一点――腕の中に集中する。

手の内に生み出されるのは、彼の着ている衣装より黒い、漆黒の刃。


『あ、おい!それは十五話でお披露目する予定の新必殺技だぞ!』


イヤホン越しに聞こえる室長の絶叫を無視し、ブラックはさらに集中する。

この技を使えるのは一度きり。

しかもエネルギーの消耗が激しく、翼を形成する力すら失うものだが、ブラックは怪物を倒すために使うことを決めた。


「――ブラック・イーグル」


ギャオオオオオオッ!!

一閃。

黒い閃光が散ったブラックの超必殺技は怪獣の口を貫き、核を打ち砕いた。

怪獣は断末魔を上げた後、完全に沈黙した。

あとはここから脱出するのみ。ブラックは立ち上がろうと足に力を入れたが、


「……くっ!」


思ったよりも体の消耗が激しく、その場から動くことができなかった。

必死に手を伸ばして外に出ようとするも、グラリと怪獣がバランスを崩すと同時に、重力に従って口が閉じようとする。


「ああっ!ブラック!」

「まずい!」


ヘブンレンジャーたちが飛んで助けに行こうとするも、距離が遠すぎて届かない。

あと数秒で口が閉じる、その時だった。


「――世話が焼けるわね、ヘブンブラック!」


悪の女幹部ジリアン・ルージュが怪獣の上に飛び移り、不適に笑った。


「ジリアン!?」

「アンタは私が倒すって言ったでしょう!こんなところで、死ぬんじゃないわよ!」


シュッと鞭がブラックの胴体に巻き付き、怪獣に飲み込まれる寸前に口の中から引っ張り出される。

そのままブラックは空中に投げ出されたが、体をひねりビルの上に無事着地した。


「やった!!」

「すごい、さすがブラック!!」


とブラックを褒めたたえるヘブンレンジャーたち。


「ッ、ジリアン!!」


だが、怪獣を倒した本人はガシャッ!とフェンスを掴んで階下を覗いた。


ドガッ!

「っ!」

瞬間。

ジリアンは天界獣の最期の頭突きを食らって吹っ飛ばされ、ウィップを取り落とした。


「あ」


ヘブンレンジャーと違って、ジリアンには翼はない。

ウィップを失い丸腰になった今、


「やば」


このまま真っ逆さまに落ちるだけだ。


「(……ブラック)」


落下する寸前、ビルの上に立つブラックの姿が見えた。


「……なによ、ヒーローのくせに」


珍しく動揺した様子の男に、ジリアン・ルージュはふっと笑った。


「前向きなさいよ、アンタがこの物語の主役でしょ」


最後に大人気ヒーローに一泡吹かせてやったようで、愉快な気持ちになった。




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