序
完結まで毎日0時更新。どうぞよろしくお願いします
「え?」
目が覚めたら、見知らぬ部屋の中にいた。
白い天井、白い壁紙。窓はなく、床にはグレーのカーペットが敷き詰められている。
中央には目立つでかい事務用デスク、その手前にソファとローテーブル。
ぱっと見、どこかのオフィスの一室のよう。
「おう新人。お前の仕事、悪の組織な」
ここはどこだろう、と考えるより先に声がかけられた。
驚いて顔をあげると、いつの間にかデスク前の回転椅子に男が座っていた。
ふう、とタバコの煙を吐き出した男は、まあ座れ、とソファを指さした。
混乱しながらも、言われた通り革張りのソファに座る。
歩ける、座れる、見える、聞こえる。体に異常はないようだ。
横に立てかけてあった鏡を何気なく覗くと、制服姿の女が見返してきた。
顔も体型も、何もかもが変わらない。
まるできれいなままの姿に、ひょっとして自分は失敗したのかと思った。もしくは、これが病院かどこかで見ている夢かと。
「安心しろ、お前は確かに死んだ」
「!」
しかし、男が私の心を読んだかのようにそう答えた。
これが証拠だ、と彼はモニターをドンとローテーブルに置き、私の身体が地面にぶつかる瞬間の映像を見せてくれた。
流れていく動画を薄目で確認したが――ああ、確かに。これは確実に死んでいる。
自分がやったとはいえ相当にグロイ。通行人はびっくりしただろうな、とぼんやり思った。
ありがとうございます、十分わかりました、と小声でつぶやき、モニターから目を逸らす。
「それで……ここはどこなんです?」
「そうだな、まずは説明するか」
男は紫煙を吐き出しながら話し始めた。
男によると、ここは死後の人間が集う『天界』。
死んだ人間は、時期が来れば新たな生命に生まれ変わるが、その時が来るまでこの天界で穏やかな暮らしを送るのだと言う。
通常、天界で暮らす死人たちに労働義務はない。
しかし、自ら死を選んだ人間――自殺した者は違う。たったひとつの尊い命を投げ出したということで、ペナルティとしてここで働かなくてはならないらしい。
なるほど、と私は頷いた。
まあ仕方のないことだ、自殺したのは事実であるし、今更変えようがない。
付け加えて言うと――あの選択に、後悔は全くしていない。
私は今一度男を見た。
この男は、自殺した人間へ職を斡旋する『天界 界民課 自殺者職業案内室』、その室長だと自身を紹介した。
れっきとした神様の使い――俗に言う天使――と言われたが、あいにくとそうは見えない。
ぼさぼさの短髪、フレームなしの眼鏡。身に着けているものだって、しわくちゃのワイシャツとおじさんくさい臙脂色のネクタイ。見た目はうだつのあがらない四十路男といったところか。
「……おい、聞いてんのか?」
「あ、すみません。聞いてます」
不機嫌そうに唸った室長に、私は慌てて居住まいを直した。
「で、仕事というのは」
「天界の娯楽提供」
「娯楽……ですか?」
「そ。死人には食事も睡眠も必要ない。だが、圧倒的に娯楽が不足している」
「はあ……具体的には、何をすれば?」
「だから言っただろ、さっき」
男はタバコを吸い殻入れに押し付け、ニヤリと笑った。
「『悪の組織の女幹部』、よろしく」




