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第28話 家政霊(かせいれい

山奥の限界集落に、空き家を一軒購入した男がいた。

 名は滝本洸平、三十五歳、元サラリーマン。

「もう都会は疲れた」と言い残し、スマホも持たず、ぽつんと一人暮らしを始めた。


 その家には、古くから「座敷わらしならぬ座敷ゆうれいが出る」との噂があった。

 近所の婆さんが言うには、「深夜になると勝手に食器が片付いたり、洗濯物がたたまれたりする」らしい。


 洸平は最初、笑って聞き流していた。


「そのくらいなら出てきてもいいけどな。手伝ってくれるなら」


 そう冗談半分に言っていた、ある晩のこと。

 布団に潜ってうとうとしていると、天井裏から音がした。


「カタ……カタ……」


 続いてギシリと床がきしむ音。何かが階段を降りてくる。


(来たな……)


 洸平はそっと目を開けた。


 そこには、半透明の着物姿の女が、掃除機をかけていた。


「……なんで今!?」


 女はピタリと動きを止め、驚いた顔でこちらを見て言った。


「えっ、夜中のほうがホコリ立たないから……」


「そういう問題か! せめて明るいうちにやって!」


 その日を境に、幽霊は堂々と現れるようになった。


 次の日から、洸平は逆に利用し始めた。


「洗濯、終わってる? 柔軟剤はあの無香料のやつで頼む」

「風呂場のカビ、塩素系OKだよ。遠慮なくね」

「あと、今夜はカレーな。和風だしで炊いてみて」


 幽霊は最初こそ戸惑っていたが――


「……頼られるって、いいですね」


 と、次第に笑顔を見せるようになった。


 村の噂も変わった。


「滝本さんの家、夜中に明かりがついてるけど、もう一人いるのかしらねぇ」

「いや、あの人、“見える人”らしいよ」

「逆に使ってるって、どういうこと……?」


 ある日、洸平が疲れてそのまま布団に倒れ、「ありがとう」と言い忘れた。


 翌朝、台所にこんな書き置きが残されていた。


「本日は業務をボイコットさせていただきます。

感謝の言葉がないと、やる気が出ません」



慌てて謝りに行くと、幽霊はちゃぶ台に正座して拗ねていた。


「私は、ただの家事要員じゃありません……!

心のこもった“ありがとう”が、供養です!」


 洸平は頭をかきながらつぶやいた。


「……めんどくせぇな……」


 それでも、その日から彼は毎晩、幽霊に丁寧に頭を下げて「ありがとう」と言うようになった。


 幽霊はどこか誇らしげに、今夜も掃除機を走らせている。



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