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再会

 鼓膜を破るかと思うほどの警報音で、雪那は意識を取り戻した。


 相変わらず手足は縛られたまま。無理な体勢で眠ったせいか、節々に痛みを感じる。


 目を開けた瞬間、鼻がぶつかるかと思うほどの距離に、自分とそっくりの顔があった。


 クロネが雪那の顔をまじまじと見つめていたのだ。


 「……なんですか」


 薄暗い部屋で、それよりも暗い瞳。

 寝ぼけた頭で話しかけたのはいいものの、相手はクロネだ。


 どうせ返事など返っては来ない──そう思っていたのだが。


 距離感はそのままで、その口が開かれた。


「雪那さん、ですね」

「は、はい……え?」

「当該人物を確認」


 クロネが懐からナイフを取り出し、身体を縛る縄にナイフを入れていく。


 様子がおかしい。


 クロネは余計なことを話しはしない。会話が成立するのは、それが誰かに命令されているからだ。

 それになぜ拘束を解いてくれる?

 彼女に命令しているのは櫻帥ではないのか?


「あ、あなたは一体……?」

「メッセージを再生します」


 言葉こそ発しているが、会話は成立しない。どこまでも無感情な声。


 その声はそのままに、口調が知っている人のものに変わった。


「雪那、俺はお前を助けるために研究所に入り込んでいる」

「っ」


 息を呑む。


「覚えてるか? このクロネは俺の部屋で罠にかかってたやつだ。今はハッキングで俺の命令通りに動いている」


 間違いなく、メッセージを残したのは千野ワタルであった。


「順調にいけば、俺は地下二階の武器庫に立てこもるつもりだ。そしてそこでお前と合流する予定でもある」

「合流、と言われましても。自分が今、何階のどこにいるのかも分かりません……」


「経路案内は、今お前の目の前にいるクロネがする。お前を見つけたら、できるだけ短い経路で武器庫を目指せるように命令を下してある」


 全ての縄を断ち切ると、クロネは自分の装備をいくつか外し、雪那に差し出してきた。


 握ったこともないそれらを、反射的に受け取ってしまう。


「気休めかもしれないが、武器は持っておいた方がいい。銃よりも投げ物のほうが頼りになるかもな。撃ったことがないならクロネに撃たせた方がまだマシかもしれん。そして──」


 クロネは最後に纏っている黒布をばさり、と持ち上げる。不健康な白い肌が露わになるとともに、その腹に大きな物体が取り付けられている。


「武器庫前は俺を追い詰めるために、クロネが大量に集まっていることが予想される。もちろん俺は対策するつもりだが……無事に辿り着いたら、最後にこのクロネを人混みの中に送り込んで自爆させろ。それ一つでは威力が足りないかもしれないが、他の奴らが持っている爆薬を誘爆させられれば全滅させられるはずだ」


 クロネ──ワタルの語る作戦に思考を奪われつつ、雪那は思う。


 なぜここまでしてくれるのか?


 彼はなんの大義があって、拾った命を再び危険にさらしてまで、自分のことを助けようとしてくれるのか?


 疑問が湧いてくる。


 それを見透かしたかのように、クロネは言った。


「悪いが、通信は盗聴の可能性があるから避けた。話したいことがあるなら合流してから話せ。がんばれよ」

「……」


「以上です。準備ができましたらここを出ます。巡回パターンと現在状況を最大限考慮した、安全な最短経路をご案内します」


 クロネの口調が戻り、拳銃を手にしてスライドを引く。


 臨戦態勢だ。


 彼女の無表情が、今は逆に、何も考えずに戦えと言っているように見えた。


 ──自分が助かるかは分からない。むしろ、助からなくてもいい。


 ただ、自分のためにここまで来てくれた彼のことが知りたかった。ここまでして自分を助けようとする、その理由を聞いてみたかった。


 そんな思いで、雪那は立ち上がり、クロネと共に暗い部屋を飛び出した。




 



 施設内を、赤点がこちらに向かって動き出すのが確認できてから、十数分。


 補強壁越しの向こう側で、今までの銃撃とは比にならないほどの爆音がした。

 背にした補強壁にもただならぬ衝撃が伝わってくる。クロネに持たせた爆薬の威力の関係上、壁が破られることはないはずだったが、まとめて吹き飛ばされたかと思うほどの圧力が俺を襲った。


 地震か何かと勘違いするほどの衝撃のあと、壁の反対側は無音になった。

 向こう側に人の気配はない。


「雪那か!?」


 返事はない。

 端末に目を落とす。そこには確かに、この部屋の付近で動きを止めた赤点が点滅している。


 いや。おかしい。


 この赤点は、俺の部屋でハッキングしたクロネの居場所を示しているのであって、雪那自身を表しているわけではない。


 爆発が起こったのであれば、位置情報の信号を発するクロネは死んでいるはずだ。赤点は消えていなければいけない。


 予定外の出来事が起こった可能性がある。

 むしろ、今の爆発は雪那たちを迎撃した余波だったのではないか。そんな予測が頭をよぎる。


 だが、そんな心配は杞憂に終わった。


「……おーい、千野さん? 千野さんいますかー?」


 僅かに弱々しさを含んだ、聞いたことのある声がする。

 俺は急いで補強壁を撤去し、ほぼ炭と化したドアを雑に蹴り飛ばす。


 通路は別世界と化していた。


 爆発によって、見える範囲すべてが灰塵となっている。何かの配線がだらりと垂れ下がって火花を散らし、破裂した水道管から水が噴き出している。


 見回していると、通路の角に身を隠していた人影がゆっくりと顔を出していた。


「雪那! ……あ?」


 そこにいたのは雪那ではなく、クロネだった。


 慌てて銃を構えるが、彼女が攻撃してくる様子はない。


「あ、千野さん……そのクロネは、私を連れてきてくれた子です……」


 俺の足元から声がする。そこには見覚えのある肉塊が転がっていた。

 ところどころが焦げたその物体からは、人間の首から上だけがにょきっと生えていた。


「えっキモ」

「ちょ、ひどくないですか!? 意思疎通とるために頭だけ先に再生させたのですが!」

「あ、ああ……雪那か。悪い」


 部分的に回復を早めることができるらしく、頭以外の部分はまだ形成できていない。


 俺は雪那の頭が生えたそれを恐る恐る拾い上げると、武器庫の奥に運び込んだ。


 手持無沙汰そうに立っているクロネを入り口付近で警戒に当たらせ、俺たちはようやく腰を落ち着けた。


「てかお前、なんでまた裸なんだよ……」

「あの爆発の中心にいたら服がなくなってしまいました」


「当たり前だろ……せっかく買ってやったのに、二、三日でお釈迦にしやがって」

「許してヒヤシンス」

「ヒヤシンスどっから出てきた」


 武器庫の中を物色すると、爆薬を湿気から守るための布をみつけることができた。

 鈍い緑色のそれを剥ぎ取り、雪那に投げてやる。彼女はそれを生え始めた手で器用に受け止めると、絶賛再生中の身体に巻き付ける。ある程度体勢が安定し始めたところで、メディカルキットから包帯を取り出し、簡易的に髪を結った。 


「なんでクロネに自爆させなかった?」

「なんで助けに来てくれたんですか?」


 疑問が、二人の口を同時に飛び出した。


「……」

「……」


 見つめ合う。


 先に口を開いたのは俺だった。


「……クロネに持たせていた爆弾を、自分に括りつけて起動しただろ。俺の計画では、あそこでクロネに自爆させるつもりだった。クロネにくっつけたメッセージでもそう伝えたはずだ」

「……ここまで来るときに、あのクロネにとても助けてもらったんです。彼女のおかげでほとんど戦わずにここまでたどり着けました」


「情が湧いたのか? だからってお前が代わりに爆発することはないだろ。いくらお前が不死身でも、痛みはあるし身体が再生しきるまでに倒しきれなかったクロネに襲われるリスクもある」

「それはそうなのですが……でも、味方のクロネがいれば、ここからの動きに幅が広がるのではないですか?」


 俺は考える。確かにクロネの存在はまだ使えるかもしれない。逃げるにしろ、敵の親玉を叩くにしろ。

 アドバンテージが多いことに不満はない。


 だが、と俺は雪那の再生したばかりの手を握った。


「お前が死なないことを利用した策で戦うつもりはねぇ。ここから先は絶対にこんなことはするな」


 雪那は頬を少し赤らめて、纏った布に顔をうずめる。


「……なんで、千野さんは私のためにそこまでしてくれるんです? 私が捕まったところで手を引いていれば、命を懸ける必要なんてなかったのに。私なんかの、死んでも生き返るだけの、出会ったばかりのやつのために」

「……」


 一瞬の逡巡。


 だが、思い直す。俺たちは今、いつ殺されてもおかしくない状況にある。


 話ができるのは、今だけかもしれない。


 俺は煙草でも吸いたい気分になりながら語り始めた。


「俺には、姉貴がいた……いや、いる」

「お姉さま、ですか?」


 幼少期の記憶、トラウマとなったあの時の記憶について、俺は語った。


 目の前で父と母がクロネの手で殺されたこと。

 姉が攫われ、その姉の言葉によって見逃されたこと。


 雪那の表情が、悲痛なものになっていく。身体はとっくに治りきっていた。


「小さいころに生き別れになっちまって、今じゃ生きているかもわからない──そう思っていた。この前の一件があるまでは」


 ドロッセルの様子が一変したときのことを思い出す。


 彼女は急に口調を変え、俺を見逃すと言った。

 なぜ俺のトラウマがあそこでフラッシュバックしたのか。


 それは、大量のクロネに囲まれたあの状況が、両親を殺された時の光景と同じだったから……ではない。


「あの時のドロッセルの態度……話し方が、姉貴と重なったからだ」

「どういうことです……?」


 何故、あの時のドロッセルが姉と同じように見えたのか。その理由は俺にもわからない。説明できない。感覚的な部分で、俺はあれを姉だと認識したのだと思う。


「とにかく、姉貴は俺が想像しているよりも深く、お前らやこの施設に関係しているのかもしれない。だから、俺は首を突っ込むことにした」

「……そうだったんですか」


 雪那は初めてワタルの部屋で過ごしたあの日、デスクにあった古い家族写真を、ワタルが風呂に入っている間に見たのを思い出していた。あの家族写真は新しいものを撮らなかったのではなく、もう二度と撮れなくなってしまったのだ。


「だから、俺が今ここにいるのはお前のためだけじゃない。俺自身のために、俺はここまで来た」


 その言葉を、雪那が事実と受け取ったか、慰めと受け取ったかは分からない。

 薄暗さのせいで、表情は読み取れない。


「……私も、過去の話をしてもいいですか?」

「……ああ」


 まだ新たなクロネが現れる様子はない。もしかしたら先の爆発で、施設内にいるほぼすべてのクロネを倒すことができたのかもしれない。


 敵地の真ん中ではあるが、俺は彼女の話を聞くことにした。


「私が昔というと、本当に昔のことになってしまいますね。……あれは、まだ私が長い眠りにつく前のことです」


 雪那はそう切り出した。


「私も、昔は普通の子供だったんです。怪我をしてわんわん泣いた記憶もあるし、母親に絆創膏を貼ってもらって、おまじないをかけてもらったことも覚えています」

「今みたいな体質ではなかったってことなのか?」


 頷く雪那。


「いつからか、私の日常は変わりました。はっきりと何があったかは覚えていませんが、鮮明な記憶が残っているころには、私はもうこの研究所にいたんです。不死身の、実験台として」

「不死身の実験台……?」


 その言葉だけでろくでもないことが理解できる気がした。


「どんな死に方をしても必ず蘇生するのか? 完全に再生するまでの時間は? 臓器ごとの再生速度は? 水死した後そのまま水中に放置したらどうなるのか? 毒物が身体に残り続けたらどうなるのか? ……そういったことを、人体実験されました」

「……」


 言葉を失う。


 研究者がどのようにして雪那が不死であることを見抜いたのはわからないが、その性質を調べるために非道な人体実験を繰り返していたのだ。何度も何度も。


 彼女のかわいらしい顔が何度叩き潰され── 


 彼女の細い首が何度折られ、捩じ切られ──


 彼女の華奢な肢体が何度引きちぎられ、燃やされ、嗜虐の限りを尽くされたのか。


 死ぬことすら許されず、逃げ道のない苦痛を何度も味わう地獄。

 俺程度の想像などはるかに超える量の血が流れ、悲鳴が叫ばれたに違いないのだ。


「……大丈夫です。あくまでそれは記憶で、今痛みや苦しみがあるわけではありませんから」


 雪那は自分自身を安心させるように胸を撫でる。

 しかし、その身体はまだ僅かに震えていた。


「……いや、わかる。俺にも、さっき話したように苦しい記憶がある──お前のそれとは、全く比べ物にならない程度の、ちっぽけな記憶だが」

「そんなことありません。一番辛い記憶は、誰にとってもそれが一番辛いものです」


苦笑する雪那。


「実は、お話にはもう少し続きがあります。話してもいいですか?」

「……ああ」


「その実験と並行するようにして、私にはもう一つの実験が行われていました。それが、クローン開発実験です」

「……まさか」


 俺の脳裏を最悪の予想が過る。雪那は俺が何を考えたのかすぐに理解し、頷いた。


「そのまさか、です。クロネのベースとなっていたのは私だったんです──と言っても、それに確信が持てたのは、ついさっきのことでしたが」

「そんなことが……」


「驚くことでもないかもしれません。私は不老不死という特殊な体質ですから、それを受け継いだクローンが完成すればとんでもないことです。私の遺伝子を組み込んだ人類が、死すら克服することができたかもしれませんからね。それを目的とした研究が行われるのは、理解できます」

「……」


「でも、その研究は上手くいかなかった。無限の屍を積み重ねて、実際に完成したのは、知能も身体能力も低く、どんなにケアをしてもたった半月しか生きられない失敗作でした。それが、クロネです」


 雪那は静かに続けた。


「そのうち、私の世話や実験をするのが白衣の研究員から、ボロ布を纏ったクロネになりました。その頃には、もう頭にあれと似たような機械を付けていましたから、完成したクローンの、せめてもの使い方を思いついた、といったところだったのでしょうね」

「……」


「たくさんのクロネが研究所内を歩き回っているのにも違和感がなくなった頃、私はこんな噂を耳にしたんです──永久機関が作れるかもしれない、と」

「……そこに繋がるのか」


「はい。その仕組みについても耳にすることができました」


それは、と雪那が言葉を切る。


「──それは、不老不死の人間と、生物に触れるとその身体を溶かし、効率よく熱として分解する……そういう特性を持つ、メルクリウス溶液という名前の液体を組み合わせた、熱を利用する発電方法でした」

「なっ……!?」


 頭が真っ白になった。


 永久機関。不老不死。生物の身体を溶かす液体。


 全てがひと繋ぎになるような感覚がした。


「大量のメルクリウス溶液を用意し、私のような不死の人物を沈めて密閉します。すぐにその人間の身体は溶け、跡形もなくなってしまう。しかし、その状態からでも不死身の身体は自動的に再生を始めます。その再生した部分を溶かし、熱を取り出し、発電して、また再生する……そのようなシステムを目指していたようです」


「その液体は……俺の両親を殺したものと同じ……」


 雪那は首を縦に振り、俺の言葉は肯定される。


「あれは人を殺すにも便利です。証拠も何も残りませんから」


 なるほど、永久機関の技術が秘匿されるわけだ。まさしく人柱として扱われる人が存在していることになるのだから。永久機関が生活の一部となった今ならばまだしも、200年前に初めて稼働したころにその事実が明るみになっていれば、間違いなく倫理問題に発展していたはずだ。


「世界には永久機関が千基以上もある。その全てにお前と同じ、不死身の人間が使われているってことなのか……?」

「そういうことになりますね」


 雪那と同じ体質の人間が、世界中の永久機関に沈められている。


 半信半疑ながらも、目の前に雪那という証拠が存在するのだから、信じるほかになかった。


 だから、この方法を生み出した天才──改め、マッドサイエンティストは永久機関を構成する技術を公開しなかった。できなかったのだ。人々の理解が得られないことを予想したうえで、永久機関という夢を現実のものとしてしまった。


「──私は東京の永久機関の核として、メルクリウス溶液の中に落とされました。しかし、それ自体はそんなに悪いものでもありませんでしたけどね」


 脳を灼かれ、苦しんでいた両親の姿は、今も脳裏に焼き付いている。


 だからこそ雪那の言葉の真意が理解できず、俺は訊ねた。


「メルクリウス溶液に溶かされ続けるのなら、苦しみが永遠に続くのと変わらないんじゃないのか?」


「これは不死身の私たちにしかわからない感覚でしょうが……痛覚というのは、脳があって、神経があって、その神経から信号が伝わるから痛く感じるわけです。脳が溶けてなくなっていれば痛くないし、同じように、肺がなければ呼吸ができなくても苦しくないんですよ」


 自らの身体を順番になぞっていく。指先、手、腕、肩を通って正中線、そこから首を通って昇っていき、頭に辿り着く。


「初めて会った時、200年の間眠っていたとお伝えしましたが、永久機関の中にいた時間は、本当にただ眠っているようでしたよ。脳がなければ考えることすら放棄できます。無意識のまま、ふわふわと漂っているような時間が続きました。その時間は、今まで味わってきた櫻帥の実験から逃げ出せる、最高の時間に感じられました」


「……そして、永久機関が壊れるとともに、あの中から解き放たれて再生が始まり、目覚めたというわけか」


「そうなります。永久機関を壊したのは何者だったのか、私にもわかりません。でも、それは私にとってはあまり関係ないことでした。目を覚ました時に痛みや苦しみはなく、太陽の光が降り注ぐ場所に、自分の足で立っていた。それこそが何よりうれしかったんです」


 雪那は大きく伸びをする。


「そして、ドロッセルやクロネたちは恐らく、私という核を永久機関に戻そうとして狙っている──と。これで、私の昔話は終わりです。千野さんにも関係がないわけではなさそうだったので、話してみましたが……あまり面白い話ではありませんでしたね」


「いや……これで、ドロッセルやそれを操っているヤツをぶちのめす理由が増えた」

「え?」


 俺のセリフに、雪那が疑問符を浮かべる。


「元々はお前を連れて逃げることも考えていたんだがな。そこまでする奴らを生かしておく気がなくなっただけだ。俺たちはこれからドロッセルたちをぶっ殺して、永久機関の再建を止める」


「そ、そんな……不可能です! ただでさえ一度負けているのに……」


 雪那が言っているのは、マンションのエレベーターを降りた先で鉢合わせたあの時のことだろう。


「あれは負けたってか、状況が悪すぎて諦めただけだ。直接戦ったわけじゃない」

「だとしてもです! 私やクロネたちとは関わらないことで命を助けるという約束だったのに、これでは……」


「それならもう遅ぇな。ここまで侵入して、クロネを死ぬほどシバいた後に言われても」

「それにっ……」


 雪那は頭をフル回転させ、どうにか俺が戦いに行くのを止めようとする言い訳を探しているようだった。


「それに……私を昔実験台にしていた科学者──箕土路櫻帥が、脳を電脳世界にコピーして生きていたんです。そんな残忍な男のもとに、千野さんを行かせるわけにはいきません!」


「そいつはいい話を聞いた」


 だが、最後に出てきたその言葉は、俺の心に燃え始めた炎に油を注ぐこととなった。


「え……?」


「だってお前を八つ裂きにしまくった男がまだ生きてるんだろ? 気が済むまで復讐するチャンスだ」

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