第8話 オタクは幸せな朝食を味わう
「かなたん最高ォォォォ!」
帰宅して一番に出た言葉がコレである。もう一度言おう、カナタさんの部屋から帰っての第一声がコレである。
自室に入ったことで緊張の糸が切れ、嫌でも先程のことを思い出してしまう。あぁ、カナタさんの唇柔らかかったな……。しかもいい匂いがした……。
「ふぉぉぉぉぉぉ!」
あの女子と話すことでさえ高難易度だと感じていた俺が、オタクをこじらせてボッチの非リアと化していたこの俺が……出会って1日であんなに想ってくれた超好みのロリ美少女とキスができるなんてな……。
でもあの元気系僕っ娘のカナタさんが重度のヤンデレだとは思わなかったなぁ……。でも他の人に重いと呼ばれそうなカナタさんの性格も行動も全て俺のためって思うとすごく嬉しい気持ちでいっぱいになるな。あとカナタさんに手錠とか目隠しをつけられて耳元で『……好きだよ』とか言われるのは普通にこうふn……ご褒美かなぁ。ダメだ……俺、カナタさんのことが本当に好きになったみたいだ。カナタさん……あぁ、明日また会うのが楽しみだなぁ。
帰宅後寝るまでカナタさんのことしか考えていなかった俺はやはり、骨抜きになっているみたいだ。そしてカナタさんの家でキスをした、というインパクトで夕飯を食べ損ねたことさえ忘れ寝るのであった。
◆ ◆ ◆
「――くん、――きて」
うぅ、眠い。呼ばれている気がする……? あとなんか腹の上に重さを感じる。というか俺は一人暮らしで誰もいないはずなんだけど……?。
まだ寝たいという身体を無理やり動かして目をこすりながら起きると俺にまたがっているエプロン姿のカナタさんが――。
「えぇ!? え、なんでここに!?」
「緋凪くんの朝食を作るためだよ! ……もしかして嫌だったかな?」
「ぐはぁ!」
エプロン姿+上目遣い+不安そうな目は破壊力高すぎるって! ま、まずいこんな『朝起きたらカナタさんが作った朝食を二人で食べる』生活なんて幸せすぎて耐えられない!
「もちろんいいですよ! ……なんなら嬉しいし。あ、でもカナタさんの迷惑にならないかな?」
「迷惑なんて思うわけがないよ! かっこいい緋凪くんがボクの作った朝食を食べてくれるなんて嬉しいなぁ。緋凪くん、大好きだよ!」
そう言って俺の頬にキスをして「御飯作ってくるね―!」と言って台所に向かっていった。俺は不意打ちのキスに一瞬呆けた後、昨日のことは夢じゃなかったんだなぁと改めて実感した。
そしてササッと制服に着替えてリビングに行けばこの数分間に何が起きた!? と、思えるほどの美味しそうな朝食が机に並んでいた。朝が弱いせいで飯抜きかエナドリとゼリー飲料しか食べていなかったので、久しぶりの温かい朝食に涙が出そうだ。
「さぁ。早く食べよ、緋凪くんっ」
「うん、カナタさん」
普通のカナタさんも、ヤンデレ状態のカナタさんも俺は好きだ。こんな日常が長く続くように俺も頑張らないといけないな、と思った。いつかカナタさんと付き合いたい。そして――いつか結婚したい、俺はそんなふうに考えていた。
そんなことを考えて温かい朝食を食べていた俺は気づかなかった。カナタさんの口角が上がっていたことに。




