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第6話 オタクは家に連れ込まれる

 その後、なんとか脈拍を正常な速度にした後、駅に向かうとちょうど帰りの電車が来ていた。天子さんとその電車に乗った……のはいいんだけどものすごく混雑していた。つまり満員電車だ。


 そして天子さんといっしょに乗ったので必然的に乗車した位置は近い、そこに満員電車という要素が加わることで俺達は――そう、ものすごく密着した状態で電車に乗っているのである!


「ぐぅぅ」


 や、柔らかい……腕が『慎ましいながらも存在感を感じ、男の夢と希望が詰まっている』柔らかいモノにあたっている――!? コレは位置的に天子さんのむn……大胸筋か!? 意識しなくても本能が、細胞がその感触を意地でも伝えてくる――!?


 落ち着け、俺。心を無にすれば大丈夫だ。あっ、なんか腕に『トクトク』っていう天子さんの鼓動が……。天子さんもこの状況に緊張しているのか、割と早い鼓動だ。


「……尊い」

「んぅ、え? 今、ボクになにか言った?」

「い、いや。なんでもないヨ」

「そ、そう? ならいいんだけど……それにしても狭いね。えっと……ぼ、ボクの身体があたっているみたいなんだけど……だ、大丈夫かな?」

「い、いえ、ダイジョウブデス」


 錯乱した目の上目遣いと赤く染まった顔を見て吐血しそうな感覚になりながらめちゃくちゃ硬い返事を返した。


 そんな気まずい空気を維持しようやく電車内の人が減り始め、席が空き始めた頃に天子さんが「ね、ねぇ。小鳥遊くん……」と声をかけてきた。


「な、なんでしょうか……天子さん?」

「あ、あの……きょ、今日は助けてくれてありがとう! 小鳥遊くんが来てくれてすごく心強かった……すごくかっこよかったよ!!」

「かっ……!? あ、ありがとう」

「そ、それでね。お礼にお夕飯をご馳走させて!」

「へ……?」


 あ、天子さんの手作り……!?


 マ・ジ・か・よ!!!!!!!!!!!


 これは食べなければ! しかし、コレは天子さんに迷惑をかけることに繋がらないか? でもこんなチャンスを見逃すなんて俺にはできない! だがしかし俺は天子さんの温かいご飯を食ってみたい。嗚呼、どんな至高の味がするのだろうか! 天子さんの小さくて柔らかくてスベスベな手で握られ、切られた野菜が羨ましいぃ! あぁ、天子さんの微かに制服に残った匂い……くんかくんか、最高だぁぁぁぁぁぁ! 鼻腔をくすぐる甘く……そして汗を書いたのか少し酸っぱい匂い。ああ、俺の脳が溶けていくぅ。俺はこの世界の真理を知ってしまったかもしれいないな……! それすなわち、天子さんはこの世の至宝! いや、天子さんはこの世の生き物ではなく天上の民……? つまり天使ということだ! 天子さん、マジ天使!! よしっ、全世界に天子さんのよさをわからせてやるぞぉ! そのためには……。


「――小鳥遊くん? やっぱり迷惑だったかな……?」

「いえ、そんなことないですっ!」


 さらに「迷惑なんてとんでもない!」と必死に否定すると天子さんは満面の笑みを浮かべた。


「じゃあ、ボクの家に来てね! 腕を振る舞って作るから! 隣の部屋だから遅くなっても大丈夫だしね!」

「そ、それじゃあ、夕食のときに教えてもらえればすぐに行きますね」

「えぇ? どうせならボクとLINEを交換しよっ! そうすれば色々便利だし……というかご飯ができるまでボクの家でくつろいでいってよ!」

「っ!? わ、わかった」


 天子さんの発言に動揺しつつも、なんとか返事をしたが心のなかでは狂喜乱舞していた。だって女子の連絡先だぞ! しかも合法ロリの天子さんだぞ!? 喜ばないわけがないじゃないか。


 と、 そんなことをしていると駅についたようだ。ここからは徒歩で行くことになる。まぁ、アパートは割と近い場所に位置にあってそこまで歩かないんだがけどな。そしてアパーにつくまで天子さんが転校する前の学校の話を聞いてみた。


「うーん、そうだなぁ。一応、クラス全員とは仲が良かったかな……特に男の子がよく話しかけてきたけど、下心ありきだったね。その子達と比べて小鳥遊くんは純粋にボクと話してくれたし、見返り目的じゃなく本心で助けてくれたし……やっぱり他の男の子と違って特別・・なんだね!」

「そうなんですかねぇ……」

「……そうだよ。君はいつだってボクの――」


 そんなものかね、と思いながら話を聞いていると天子さんがなにか呟いた気がしたがよく聞こえなかったし一瞬だったので気の所為だったのだろう。


 そうして雑談しながら歩いているといつの間にか俺の部屋の隣の部屋の前にたどり着いていた。つまり、天子さんの部屋の前だ!


「ようこそボクの家へ! さ、たくさんくつろいでいって!」

「お、お邪魔しまーす」


 初めての友達の家、しかも女子の家だ……!


 陰キャボッチの俺にとっては希少な経験であり、『この瞬間を噛み締めよう!』という思いを抱きながら天子さんの部屋に入ると背後で鍵が「ガチャッ」としまった音がした。


「あはは! ようやく二人きりになれたね……小鳥遊――いや、緋凪くん! これからはずーっと一緒だよ!」


光がなく淀んだ天子さんの瞳にはハートが浮かんでいるように見えた。


 あれ? コレはヤンデレと言うやつなのでは……?


 やはり、俺には平穏は訪れないらしい。

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