第5話 不審者には気をつけよう!(意味深)
「よしっ、最新刊の入手完了だぜ!」
オタグッズが密集している場所にある最寄りの本屋に行き、ラノベの最新刊を入手した俺は店の前で小さくガッツポーズをしながらそう呟いていた。
「このあとの予定は特にないな。じゃ、とっとと家に帰って――」
「や、やめてください!」
家に帰ろうとしていると……突如、女性の悲鳴が聞こえ、驚きで体をビクッと震わせた。
くそっ、フラグを踏んだか……? これだからフラグってやつは……なかなか侮れないな。
そんなふうにくだらない事を考えながら悲鳴の方を見るとそこには最近見た小さな姿が……。
「え!? 天子さん!?」
嘘だろおい、まさかの天子さんかよ……。てかなんでこんなオタクの巣窟に……? いや、そんな事を言っている場合じゃないな。
この状況を見た他のオタクは見て見ぬ振りをして通り過ぎていくが、俺は天子さんがナンパかこじらせたオタクであろう男に手を掴まれているところに駆け足で近づいていった。
「おい、そこの人。嫌がってる女の子に乱暴は良くないんじゃないか?」
「だ、誰なんだな! せ、拙者はロリロリな天子たんと結ばれるんだなっ! でゅふふ、天子たんの手すべすべなんだな!」
「や、やめて!」
……ギルティ!!!!
こじらせオタクめ……! しかもロリコンじゃないか! ロリを見守るのではなく手を出すなんて……許されざる罪だ! しかも嫌がっている子に乱暴をするのはおいたがすぎるだろう。
俺は懐からスマホをサッと取り出し、素早く110番に電話をかけ最終通告を行う。
「それ以上やるなら警察に電話するけど……やめる気はあるか? 今なら天子さん次第だが通報は勘弁してやるぞ」
「うるさいんだな! け、警察なんかに拙者のロリへの愛は止められないんだなっ!」
ロリコンなオタクはそう言い、俺に向かって殴りかかってきた。ただ、がむしゃらに腕を振り回しているだけのため避けるのは容易だ。そしてある程度距離を取ったあと警察に通報した。
「天子さん、ちょっと失礼」
「え? きゃっ」
またロリコンに捕まっても困るので天子さんの手を取り、警察が来るまで逃げ続けた。あ゙ぁ゙、天子さんのて柔らかいなぁ。夢見心地だぜ。え、あのロリコンと同じじゃないかって? いや、これはあのロリコンとは違って手はだしてないから、救助のために必要だったからしょうがないんだ……!
少し経ったあと無事警察が来て、ロリコンは捕まった。俺達は少し事情を聞かれただけですぐに解放された。親に連絡は行ったが俺達が悪いわけじゃないから大丈夫だ……多分。
「天子さん、大丈夫だった? あんな不審者に付きまとわれて……」
「う、うん。大丈夫だよ。ボクは緋凪くんに守ってもらえたから……!」
トラウマになっていないか心配で声をかけたが大丈夫なようでひと安心だ。これで心残りなく家に帰れる。
「あ、あの……小鳥遊くん!」
ようやく家に帰れると思い、帰宅の準備をしていると天子さんに呼ばれてしまった。天子さんの方に振り向くと顔を少し赤くしモジモジしながら立っていた。
「ありがとうっ! 助けてくれて……本当に嬉しかった!」
「っ! いや、当然のことをしただけだよ」
不意打ちの『ありがとう』は死ねるって! 仰げば尊死。それに対応できた俺、すごくね?
「あとね、ここまでしてもらった上で言いにくいんだけど……ボクの家まで送ってくれないかな?」
「んぐっ」
流石の俺でも、不意打ちの『家まで送って』は耐えられなかったようだ。少し表に出てしまった。
「えーと、転校したばっかりでこんな事があって、まだ少し怖くなっちゃって……」
「そういうことなら……俺で良ければ送っていくよ。どこらへんに住んでるの?」
まぁ。無理もないだろう。転向して早々に変態と出逢えばこうもなる。送っていくことにした俺はどこらへんに家があるのか訪ねた。
「えーと。ボク、今日引っ越したばかりであんまり正確な住所がわからないんだ。ちょっとマップを開くから待ってて」
天子さんはスマホを開いて『GougleMAP』を開き場所を見せてきた。この見覚えのある地形にアパート、これもしかして……!?。
「多分そこ、俺の住んでるアパートだわ」
そう、先週大家さんに言われた入居者は天子さんだったのだ! なるほど、ならいっしょに帰ればいいな。って、つまりこれは……ギャルゲーやラブコメあるあるの『一緒に家に帰るイベント』か!? 最高かよ、マジで神様ありがとう。
「えぇ!? 緋凪くんもこのアパートなの!? やった、嬉しい! 緋凪くんみたいな|やさしくてかっこいい人が一緒で!」
……。
「緋凪くん、大丈夫?」
「っあ、いや。ちょっと俺には刺激が強すぎて……」
はッ! 一瞬、思考が停止してたぜ。え、かっこいい? まじで? やはり、もしかしたら天子さん……俺に気がある? ふぉおおおおおお! ついに俺にも春がきたぜぇぇぇぇ! すまんな、蓋鍋よ。『年齢=彼女いない同盟』は抜けさせてもらうぜ! 俺が先に彼女持ちになる!
「ふふ。緋凪くんってば、ボクを意識してくれたのかな? でも、そういうのはもう少し後でね」
いたずらっぽい微笑みを浮かべた彼女は小悪魔のように見え、俺は心臓の音が高速で鳴り響くのだった。