第4話 男子高校生は自意識過剰な勘違いに気をつけよう!
ホームルームのあと、まぁ当然のことだろうが転校生である天子さんにクラスの奴らが群がって話を聞いていた。
ん? 俺はどうなんだって? HAHAHA、陰キャで若干コミュ障な俺が話しかけられるわけないじゃないか。
しかも今はクラスメイトのほとんどが集まってるんだぞ? つまり人口密度がえぐい、そして俺の席は隣だからどうなるかわかるだろ? 俺の席の周りにも人が沢山いるんだよ、だから近寄りたくねぇよ速攻退避したわ。……そう、退避したと思っていた。
「ねぇ。小鳥遊くん、今いいかな?」
「んひっ」
退避して一息つき、懐に入れていたラノベを取り出して読んでいると急に後ろから声をかけられ思わず喜色にしまった奇声が出た。
――やっっっっっべぇ! 油断してたところに不意にあのキューティクルボイスで話しかけられたから変な声出ちまったぁぁぁぁ! こんなの『えっ、きも』って言われるに決まっている、終わった……。
「ふふ、面白い声だねー! ……ちょっと可愛かったけど」
あっ、笑った顔も最高に可愛い……。って、ナンテイッタ? 近くにいたから聞き取れたけど最後にぼそっと何か言ったよな……。
カワイイ? 誰が? いや、きっと気の所為だ。徹夜のし過ぎで頭おかしくなったのカナー(棒)
「そ、それでなんの用なんでしょうか?」
「えーっとね、まだ小鳥遊くんにちゃんと挨拶してなかったから……は、話したいなぁ、って」
マ・ジ・か・わ・い・い
まずこんな陰キャに挨拶するなんてええ娘や……しかも最後にもじもじして恥じらいながらそのセリフを言うのはマジヤバババイ(ヤバいの最上級)。身長差のせいで上目遣いをしながら少し赤く染まった頬にほんのり赤い桜色の唇をモニョモニョさせて精一杯こっちに喋りかけようとしてて健気でカワイイし、ほかにも……。
「えーと、小鳥遊くん大丈夫? 具合悪い?」
「俺は至って健康なので大丈夫です。ええ、何も問題ありませんとも」
「ふふ、変なのー。じゃあ、改めまして、僕は天子彼方っ、かなたって気軽に読んでね!」
彼女はTHE陽キャといったふうに元気よくハキハキと自己紹介をしこちらに握手を求めてきた。だがそれは他のクラスの陽キャとは違い、安心するというかなんというか……俺の中のの他者《陽キャ》を隔てる心の壁をくぐり抜けて来るようなそんな気がした。
嗚呼、天子さんはなんて尊いのだろうか……。
「俺は小鳥遊緋凪です、こちらこそよろしく」
「うんっ、よろしく!」
そう、自己紹介しながら握手を交わした。
キーンコーンカーンコーン
「あ、もうすぐ授業は始まるね! じゃ、席に座ろうっ」
「あ、あぁ」
……フォォォォォォォッ! あの天子さんの手を触ってしまった、すごい柔らかかった! 女の子の手ってあんなに柔らかくてすべすべで触っていて気持ちいいものなのか!?
あぁーッ、ヤバい天子さんと触れたこの手を臭ってみたい……天子さんの香りを! ハッ、さすがそれはまずいだろ! 隣の席にご本人が座ってるんだぞ! っていうかそれをやったらもう、アウトだろ! 俺は紳士にならなければならない、落ち着くんだぁ!
そうしてなんとか踏みとどまった俺氏は、匂いは嗅がずとも天子さんと触れ合ったときのことを思い出しながら握手の余韻を味わうのだった……ちなみに授業のことはなんにも頭に入ってこなかった。
◆
「はぁ、ようやく放課後か……」
長かったようで短かった。いつもはクソ長く感じる時間もホームルーム後の時間に起きた出来事のせいで短かく感じた。あと、さすがにかなり時間が経ったせいで手のひらに残る天子さんの感触も消えてしまった……残念だ。
さて、今日の放課後は『ドイツ語でポロっとデレる隣のアーシャさん』の最新刊が出るようだから駅前のア◯メイトに行こうかな。そうと決まればさっさと行こう!
放課後の予定を決めた俺は鞄を背負いラノベの新刊を求めて学校を出発した。
〜???side〜
「見つけたよ、僕のナギくん……あぁ、早く君と結ばれたいなぁ」
謎の小さな人影ははそう呟き、校舎裏から姿を消した。