卒業
「健二!」
振り返ると隆宗が立っていた。
「遂に卒業だな。こうしてみると早かったよな…。」
隆宗がしみじみした表情で言う。
「あっという間だったな。」
「バスケ部の連中も寂しがってるぞ。」
「本当に部活ばっかりの高校生活だったな。」
「うぇ…。あの走り込み思い出しただけで気持ち悪くなるな。」
「でもそのお陰で県大会で優勝できたじゃん。」
俺が言うと隆宗が頷いた。
「でも、もっとバイトとかしてみたかったな。」
「バイトしてどうすんだよ?」
「馬鹿だな~。バイトとかしたら他校の生徒とも知り合えるかもしれないんだぞ?運命的な出会いをして彼女とか出来たりして!」
「お前女子と話すと緊張してまともに喋れないじゃん。」
「うるせーな!バイトとかしてるうちに喋れるようになるかもだろ?」
「わかったわかった。」
俺は笑いながら聞き流した。
「健二先輩!隆宗先輩!」
呼びかけられた方向を見るとバスケ部の後輩たちが駆けつけてきた。
「来てくれたのか。」
「当たり前じゃないですか!本当にお世話になったんですから!」
後輩の伊藤が笑顔で答えた。
「お前ら俺らのことなんか来てていいのか?3年女子も卒業しちゃうんだぞ?告白するなら今しかないだろ!」
隆宗が意地悪そうに言った。
「お前が言うなよ。女子とまともに話せないくせに。」
「お、お前!後輩の前でまで言うなよ!」
慌てる隆宗を見て後輩たちが笑っている。
「でも、正直先輩たちが引退してから不安でした。支えられてたんだなって実感したんです。」
「俺たちだってそうだったよ。」
「そうなんですか?でも本当に感謝を伝えたくて…。」
そう言って伊藤が合図を出すと後輩たちが並んで俺たちの前に立った。
「本当にありがとうございました!俺たちも先輩たちみたいに後輩を安心させられるよう頑張ります!」
後輩たちが深々と頭を下げた。
「悪く無かったよな。この3年間。」
俺が呟くと、隆宗も小さく頷いた。
「じゃあ、俺は先に行くわ!元気でな!」
隆宗が俺に手を振った。
「お前もな。」
隆宗の背を見送りながら伊藤に言った。
「なぁ、伊藤…。」
「何ですか…健二先輩。」
「あいつ…留年したのに何であんな堂々としてんだ?」
「さぁ…。」
「来年…あいつとも仲良くしてやってな…?」
「はい…。」
俺と後輩たちはゆっくりと小さくなっていく隆宗を見つめていた。