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異世界に召喚された! そう、我こそは…!


 初めてその姿を見た時、間抜けにも絵画が落ちてきたと思った。

 

 彫りが浅く、触れるのも憚れるほど細く白い首筋。

 その頃は包帯で視界を塞いでいたため白銀の髪と並び語られる淡青色(ライトブルー)の瞳は見えなかったが、それでも中学生とは思えない危険な色香を既に醸し出していた。

 浮世離れした容姿は情報を処理する脳すら現実の人物(モノ)でないと錯覚させ、酷く精巧な絵画であると一瞬思考をバグらせた。


「待ってくれ朔久くん! 話だけでも聞いてくれ!」


 見上げると建物の窓から身を乗り出して叫ぶ男がいた。

 垂直距離にして16mほど……つまり5階から周囲の目など気にせず何かを必死に訴えている。

 それを見てようやく今の一連の流れに違和感を覚えた時には、既に誰も居なくなっていた。


「な、何だったんだ今のは?」


 最初に名画が落ちたと思ったのはアレ(・・)が上から降って来たからだ。いやあ〜我ながら恥ずかしいぜ。

 3次元を2次元と見間違えたのは目の錯覚だろう。

 重度のオタクである俺がそんな見間違いを起こす筈ないので今回は相手も状況も悪かった…そうしておこう。


 だが上から降ってきたこと、これは全く以て分からない。


5階(あそこ)から落ちたのか? ってか片足で着地してたよな」

 

 しかも目隠しで。しかも動きにくい着物で。

 悩んでいる内に考えるのも億劫となり、もう全部見間違いって事にしてその場は一旦落ち着いた。


 けど本当はずっと心に引っ掛かっていて、ふとした拍子に脳内をループしてはその度にあの横顔が脳裏を掠めた。

 あれは劇薬だ。今の生活に不満は無いが、同時に人生への熱量に欠けている自覚があって日常から逸脱した強烈な刺激に強く惹かれてしまう。これが脳を焼かれるという事か。

 


「で? お前もこいつらの仲間か」


 再会の時は意外と早く訪れた。

 美人は何をやっても絵になるとは言うが集団リンチを返り討ちにする姿まで美しい。

 いや待て倒れてる奴ら人間の形してなくね? もしかしなくても異形の類じゃね?


「そ、その人達(?)とは無関係ですねハイ」


 マジか~! 刺激求めてるとは言ったけどラブコメのドキドキ感じゃなくてバトル漫画のワクワク感だったか~

 ってか近くで見ると雰囲気ハンパじゃねぇな。眩しいというかマブい。昭和のギャルか俺は。

 圧倒的な美の暴力に屈しそうになる俺!

 だがその時、視界に映ったものを見て急速に理性を取り戻すことが出来た。


「胸()っさ、萎えたわ」

「は…?」





「そんで見事魅了から抜け出した後にきちんと誤解を解いて、何だかんだ一緒に居たら友達認定くれたってわけ」

「死ね女の敵」


 どう俺凄くね? と横にいる女子に同意を求めたら汚物を見るような目をされた。解せぬ。


「無間に落ちろ変態」

「言い過ぎだろ!? せめて堆圧とかだわ!」


 それも嫌だけど! でもあの時は我ながらキモかったと思うから強く言えねえ~!


「ってか眼ぇ腐ってんの? その友達(ダチ)って男でしょ」

「イヤイヤ! あの時は今以上に髪が長くて着物だったから間違うって!」

「きも。……きも」

「何で二回言ったし!?」


 くうっ、こういう時に男の立場が弱いのは異世界(・・・)でも一緒かよ。まあ相手同郷なんだけど。


 あ、どうもぬるっと挨拶こんにちわ。鷹野蓮です。

 いきなりですが異世界に召喚されました。

 1世代ぐらい前に流行った古きよきテンプレ召喚です。


 なんか帰ったら(うち)のネコと戯れてる少女――こっちは今風のギャル?――がいて、餌を上げないでって注意しようとしたら二人とも魔法陣に攫われました。

 ライムギ…あ、うちのネコは無事逃げられました。別に悲しくは……無いと言ったら嘘になる。ぐすん。


“ニャーオ”


「おーよしよし、俺の味方はお前だけだ」

「うわっ、とうとう自分で鳴き真似してるし」


 そこ、気持ち悪いとか言わない。


 しかし困ったな。漫画やアニメで見るなら未だしも本当にファンタジーな世界に来てしまうとは。

 魔法や冒険自体は嫌ではないしむしろ楽しみなんだが、置いてきた家族が…というのは帰る理由としては鉄板か。

 あと湊がすげー気になる。あっ、湊っていうのは俺のダチで、さっき話したどこでも世界的名画(モナ・リザ)みたいな美形男子な。はい、自分語り終了~っと。


「ねえ、あの内容ってマジだと思う?」

「あの内容ってどの内容……いや嘘ですごめんなさい」

「ふざけんな真面目な話よ」


 怖え~~どっから出したんだよその鞭。これ以上やったらマジで怒られるから流石に空気読もう。


「現時点で帰れる方法はない。迷宮の最深部にいる〖精霊姫〗と契約したらその可能性があるかも(・・)。だから頑張ろうって話だけど……な~んかフワッとしてんだよな」


 異世界(こっち)にきて最初に説明を受けた時にも思ったが、命を賭して挑めという割に攻略後の流れが曖昧な気がする。

 勿論これまで誰も成し遂げたことが無いから大方予想で脚色しているんだとは思うが、それにしたってこの伝承には不信感が否めない。


 本当に踏破出来るんだろうか。

 そもそも帰れる保証はあるのだろうか。

 

 迷宮との物理的な距離があるため何が真実で何が伝わってないのか、それすら確かめようがない。

 向こうでは日々様々な情報が発信・錯綜しているためネットリテラシーが重要だとされるが、ここは大元の情報自体が日本に比べて乏しいため最初は違いに苦労するかもしれない。


「幸いこの国の人達は迷宮への関心が薄いから無理強いさせられることは無いだろうし、その点だけは安心できる」


 森を隔てた先にある(・・・・・・・・・)ミロス(・・・)地方(・・)では勇者を絡めての利権争いが国単位で生じているらしく、まだ育ち切ってない勇者を突撃させて無駄死にさせた事があるらしい。

 それを聞いた時にこれがフィクションの世界ではなく今の俺達の現実なのだと否応なしに実感させられた。


「何が安心よ。(あーし)らを戦わせるのは変わりないんでしょ」

「まあそうなんだが…」


 思ったより精神(こころ)にキてんな。まあ無理もないか、俺だっていきなりそんな事言われて驚いてるんだし。

 最近は地球と異世界を自由に行き来できる緩~い異世界モノも増えているが、残念ながら世界観まで最新ではないらしい。そこはスローライフで良いよ。


「マジふざけんなっつの。この世界のことなんだから自分達で何とかしろし」

「それな」

 

 う~む、顎にカウンター級のド正論。これはお相手立てませんね。相手居ないけど。

 けどそうだな。もうこの際だし喚ばれちゃったものは仕方ないと割り切ろう。

 このまま文句を言ってても問題は解決できないし、現状それしか方法が挙がらないなら迷宮(それ)に向けて力を付けるのは最優先。家に帰れないと嘆くのは全部やった末に万策尽きた時だけだ。


「よし、なら自分の身は自分で守らないとな」

「は? アンタやる気なの」

「どっちみち無事に帰るためには鍛えないとだろ」

 

 あと迷宮とか抜きにしても強くなれるなら個人的に断る理由が無い。


 テスト16敗、カラオケ69敗、創作125敗、スポーツ334敗、ゲーム443敗、お菓子詰め合わせ7敗、好感度5敗、変顔3敗……etc.


 これ全部湊に挑んで負けた回数だ。どっかの超能力漫画の兄みたいになってるが彼方(あっち)が通算4000敗以上しているのに対し、俺はまだ(・・)1708敗しかしてないので負け数的には少ない。単純に対戦数自体が足りないだけだが。

 ってかじゃんけんのような運勝負に『未来視』使ってくるとかどんだけ負けず嫌いなんだよフザケンナ。俺以外の相手には適当に負けたりしてるのに何故なんだ、解せぬ。


 俺が湊との勝負にこだわるのは自分を認めたいからだ。

 世間から見た俺の評価はスーパースターに纏わりつく厄介なモブファンその1。つまり腰巾着ないし金魚のフン。

 格が釣り合ってないと陰口を叩かれるなんて日常茶飯事だし、俺も湊も一々否定するほど真面目に取り合ってない。だって凄く面倒じゃん。

 勿論その評価に甘んじるつもりは毛頭なく、アイツの隣に立って対等の友人を名乗るぐらいしないと他ならぬ俺が納得しない。


 最初は退屈な人生からの脱却という打算から始まった関係だが、今では俺自身が特別に……あの日感じた〝刺激〟の一部に為るべく奮闘しているのだ。


 あとは純粋に勝ちたいが占める。


 油断慢心がデフォの才能の権化(バグチート)から一勝を捥ぎ取った時、果たしてどんな顔をするのか今から楽しみだ。

 格闘は力量差があり過ぎて途中から選択肢に入ってなかったが、今回の召喚も見方を変えれば一気に差を詰める好機(チャンス)かもしれない。


「よっし、やるぞー!」

「ダル。どこから出るのその熱量」


 ふふんっ、そうやって軽んじてればいいさ。

 いざ助けられた時の控えめな「あ、ありがとう…」待ちだからな!


「うッ…何だか寒気が」

「それじゃあ最初は――」



「うんうん、レン殿は気合十分だな! という事で先ずは素振り5万回(・・・)から始めようか!」



 朝からよく通る快活なバリトンボイス。

 それが聞こえた瞬間、俺達は迷いなく駆け出した!


 声とは反対の方へと――


「アンタが大声出すからバレたじゃない!」

「俺のせいかよ!? どうせ見つかってたわ!」


 ギャースカ喚きながら脚だけは爆速で回す。

 捕まれば訓練と称した地獄のブートキャンプが始まる。

 強くなりたいのは山々だが、物事には限度というものがある。

 三日続けて筋肉痛からの早朝~日の入りコースは流石に勘弁願いたいと言うか、筋肉が作られるより先に身体が壊れるのよ。


「はっはっはっ! 先にランニングからか! よしっ、ならば軽く100(・・・)km(・・)目指して頑張ろう!!」


 う゛お゛お゛盛大に勘違いしてる~~!!? 絶っ対捕まりたくねえ~~!! その距離はフルマラソン2回以上なのよ!


「ぐおおっ!! 身体ギシギシする!!」

「口より脚動かしなさいよ!」


 あと初日から思ってたが走るの速くね?

 普通に並走してるけど俺も鍛えてるだけあって男子の平均タイムより上だからな。もしかして陸上やってた?


「……いや、やっぱ動かさなくていいわ」

「は? ゲラぶッ!?」


 あ、あの女、足掛けしやがった!

 綺麗な走行フォームからの汚い騙し討ちが決まり、派手に転んで加速が0になる。


「痛…くねえっ! これがステータスによる恩恵……って感心してる場合じゃなかった!」


 早くこの場から逃げねえと。あのギャルっ娘は後でキツく叱るとして一からまた加速してもすぐに追いつかれる。かと言って隠れてやり過ごすのは現実的じゃないし……となればやるしかないか。


「魔法はイメージだ。全身の血管に魔力を巡らせるのを想像して、次に造形を頭の中でシュミレーションすれば」

「む? 何かする気だね」


 キタキタァ! 手に魔力が満ちるのを感じる。

 後はこれを崩さないようにセッティングして、と


「これが俺の第一歩だ! 〝弾けて搔き乱せ〟《風砲弾(エアバレット)》!」


 球状に渦巻く風の砲弾を地面に向けて放ち、衝撃により拡散した風圧が俺を空高く打ち上げる、って高あぁい!?


「おお! 既に魔法を使えたのか!」


 やべぇ出力の事まで考えてなかった! どうする、距離を空けたは善いがこのままだと地面と2次曲線を描いた後に人型のクレーターが出来てしまう。ええい儘よ!


「〝弾けて搔き乱せ〟《風砲弾(エアバレット)》!」


 激突する直前に今度は出力を抑えてもう一度撃ち出し、それによって飛距離こそ伸びないが高度は抑えられた。

 これを繰り返すことで安全に着地できると考えた俺は、途中で魔力切れ(マインドダウン)しないよう慎重に次の魔法を練り上げていく。


(イケるっ、このまま距離を空けたら今度こそ――)


「凄いぞレン殿! だけど魔法を使ったら鍛錬にならないな!」


「ちっくしょお! 逃げられなかったァァ!!」


 何となくそんな気はしてたけどさぁ!?

 魔法も使わず脚力だけで追いつくとかどうなってんだこの男はっ、まだ空中だぞ!


「さ、キララ殿も回収したことだしコースに戻ろう!」


 そんで地上に居ないと思ったらもう捕まってたんかい。

 ヘイヘイ彼女~、死にかけの眼してるけど大丈夫そ? 

 これから地獄の扱きが待ってる…って痛ぁ、ゴメンて


「ヤマトダンジたる者、例え日の中水の中だろうと生き抜く力を持って然るべし。ならばこの程度の鍛錬など朝飯前……そうだろう二人とも!?」


………ふっ。大和男児、ね


「だからよく知りもしねえ理想を目指すなよ!?」

「あーしもアンタも大和男児じゃねえっつの!! 聞けえーー!!」






 拝啓。天宮湊さまへ。


 春もたけなわの季節となりましたが、そちらはどうお過ごしですか。

 

 こちらは憧れだったファンタジー世界に飛ばされましたがハッキリ言って地獄です。


 なので助けてくださいお願いします。

 いやほんとマジで。


 この領主様の息を止める……のはヤリ過ぎなので穏便に攫ってくれると幸いです。


 ねえ、どうせお前(あなた)のことだから一緒に飛ばされてるんでしょ?


 お願い助けて死ぬこれマジで死ぬ。


 助けて。


 助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて

 疲れる重い怠い意味ないマジ無理ぽよ昭和かここは水くれ頼む助けて酸素欲しい癒しどこ折角異世界俺は他界他界



……………何だろう。


 湊が巨乳の女の子といい感じの関係になってそうな予感がビビッと来た。




……

…………




 次 会 っ た ら 絶 っ 対 負 か す ‼





 なんでまあ、早めに助…け……te、





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