第98話 吉祥の白竜(5)
緊張による汗で、服はもうべちゃべちゃだった。でもそんなこと、気にしている場合ではない。
『イオ、サーチ開始しよう』
『了解』
テレパシーによる会話でタイミングをあわせ、広く開いた魔力の幕を、地上に向かい降ろしていく。
漏れのないように 少しずつ、少しずつ。
地上に降ろした時点で大まかな状態での遺伝子的なヒットは20件、その20件にマークをのこしたまま余剰魔力を回収。
『よし、次の段階にすすんだな。こっちもマッチングしやすいように増幅するぞ』
兄さんたちからのデータ提供支援が強くなる。これは、なんというか、より集中力がいるが、そのおかげでヒット数が5まで絞られる。
そこで大きなノイズが入る。
『こっちの探知に気づかれて、逆探知されてるね』
魔法使いさんからの通信。
「それでもつかんだこの糸、離しちゃだめなんですよね」
『もちろん、その通り』
『私の凍結魔法に近寄ろうとするとはしゃらくさい、相手になってやろうかの。お前たちは気にせず続けて』
師匠からの言葉も力強い。逆探知のジャミングは凍結魔法の延長だったんだやっぱり。
魔力のヒット先の精度をあげ、ヒット人数が2人まで絞られた。繋いだ魔力からの映像確認も開始する。探査で伸ばした魔力を伝って映像が脳裏に焼き付いてくる。
探査する相手は竜の伴侶という話だったが、いずれも人型。人型変異のスキルをもっていることが伺い知れる。
その一方がいま、逆探知を仕掛けてきている相手となる。ただこちらで防護にあたっているのは世界の双璧を成す魔法使い。大きな実力差を感じることすらできず、座標をずらすことでカモフラージュ、うまくいなされている。
こちらからは捜査対象かどうか確認してからではないと、アクションを起こすことはできない。
「抽出した情報を照らし合わせた結果、血縁として近すぎて絞れないね」
おそらく今ヒットした対象はウララさんの伴侶またはその父親、伴侶の兄弟程度の近さのうちのいずれかなんだろう。
「ここまで絞ったらもう、ウララに確認してもらうしかないかな、どう思うイオ」
「もうそれしかない気がする」
一息、息を吸い込む。
「兄さん、僕たちのところに届いている対象の映像そちらに投射したいのですが、余力がないので僕たちからそちらへ投影できるライン一本引いてくれますか」
『オッケー』
その言葉と同時に今まで兄さんから送られてきている情報投影のラインとは別の、映像出力ラインがゲートを通じて敷かれる。しかしこの人の二つ名は『勇者』らしいけど、むちゃくちゃ器用だな、と思う。これで料理も上手いとか何事だよっておもうけど、今はそんなことを考えている場合ではない。
兄さんにこちらが獲得した情報を出力しつつ、対象2人分のラインはしっかり確保。一応そのラインは向うから辿ろうとはされたが、切ろうとはされていないのは幸い。
「映像、送ります」
そう言って、こちらの脳にある映像をラインから出力する。出力先での作業は兄さんと魔法使いさんに完全に任せてしまうが、余裕がないから仕方がない。その辺のいろいろは未来の自分に期待して、今はお願いできるものはお願いしよう。
◇
『映像の出力、これ、投射しちゃっていいよね』
「ぜひ、よろしくお願いします」
それから、兄さんは【無限フリースペース】内の居室に2つのモニターを作成し、投影を開始するようだ。その映像を見るのはウララさん。
『お義父様と、お義兄様です。私の旦那様ではありません。』
喜びの声色と反する声が聞こえた。
結論、イオともども真っ青になる。何か落ち度があったか?やったことは間違っていないはずであったのに。魔法は失敗であったのか。頭の中でぐるぐるする。
『アオ、イオ。集中を切らすな。なんかヒットする結果が妙だったんだ、きっとウララ側から接触があると思われて何かしら仕掛けがされている。ただ、今度はこの2人というサンプルが手に入るんだからこっちの捜索精度があげられる。ギアあげていくぞ!』
『了解しました。具体的にはどのようにしたらよいのでしょうか』
僕たちはこの魔法を伸ばしサーチする魔法までのプロセスまでしか知らない。
『で、ノリ。どうしたらいい?』
『私だよりですか?仕方がないですね。ではまず、今回ヒットした二人の情報をスキャンするのですが、まず、今マーキングしている魔力を確定します。言い方は悪いですが、取れない盗聴器をつけるつもりで確定させてみてください…………………、はい、上手です』
なんとかできた。突然与えてくる要求がでかいよ魔法使いさん。
『今俺がやっている遺伝子データを読み取る魔法式をお前たちに送るから、さっきつけたマーキングに打ち込め』
次の指示は兄さんから。矢継ぎ早に強い魔法の応用式の使用を指示される。ただ、できると期待してくれているのはうれしい。本当に集中を切らせている場合ではない。
兄さんから送られてきた抽出式は完全に僕たちにとってはプログラムを走らせることしかできないオーバーテクノロジーな式だった。実際いままで行った同様の魔法では、対象物がしっかりしたものばかりであったので、あいまいから本筋を探すような応用魔法は使ったことがない。この人たちは本当に、すごい。
かわって師匠からの通信。
『聞け、アオ、イオ。その義理の父親と兄は最初は兄のみであったが今は義父も必死に逆探知してきてるぞ。おちょくりがいがあるほどに結構負の感情が見えて面白くもあるが、よくないところもよく見える。ウララを攫った手引きはだれがしたんじゃかのう。フフ。わたしは楽しんでいるから安心してそっちの任務遂行にあたってくれ』
『私は何もできないから、ういと一緒に応援だけはしっかりするよ!』
不思議と笑みがあふれてくる。それは隣にいるイオも一緒。こんなどう考えても世界最高峰の魔法使いたちを援軍に持ち、こんな楽しい魔法行使はしたことがない。




