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第71話 王城の近況報告『イオと魔女と勇者』

 ナットの王城、活動する人数はかわらないが、前より慌ただしい空気がある。 


 具体的に言うと、ミアカのみ農場運営のために復活させたことにより王にも王城の維持以外に、仕事ができた。

 ミアカの人たちは外界との接触を極力避け生活をしてきたこと、凍結の魔女の魔法により自分の村以外に興味をもつという思考自体が、思い及ばないように制約されているため、現状問題は起きづらい。

 ただ、日々増え続ける生乳をどうするかという問題を除けば。


 今ちょうど生乳の成分分解を行い、加工をするという仕事について「イオが適任」という師匠の鶴の一声により、オレがやるという話になったわけだけれども、毎日数時間、同じ加工の魔法の自走ランをかけて、放置する。その間暇。

 という生活が開始されて数日、今までが決まった時間拘束のない生活を送っていたせいか、それなりに負荷になる。


 しかし、その魔法の自走ランを全自動にすることはできなかった。自動で走らせようにも、日によってわずかではあるけれど成分に変化があることから、一度はその倉庫を見に行き、成分を分析し、適切な方法で分離を行わないと、せっかくミアカの人たちが頑張って生産した生乳が最高の状態ではなくなることを艦見るに、面倒くささよりも自分真面目さが勝ってしまう。手は抜けない。

 しかも、今までどおり、師匠のお守りまでついてくる始末である。


 最近は救国の魔法使いが師匠こちらに接触してきたがるのをチーズさんのあにさんが寸前で全部妨害してくれているものの、やっぱり近く、同じ国内に気配を感じてる分それなりにストレスは大きく感じているようで、今まで見たことがないレベルでびくびくしている。


 アオからの情報からみても、■■様の感情の機微よりも自分を優先したであろう魔法使いがやらかした、というのが有力な線であるものの、実際ことがおきたのが千年以上前であることを鑑みても、記憶のあいまいさはあるように思える。


 ◆


 アイツが同じ国の中、チーズ宅に居を設けてから、毎日が落ち着かない。

 記憶を封印し捨てたせいで、何が原因でアイツがあそこまで苦手なのかが全く記憶から飛んでしまっていて、ただただ『嫌だった』という覚えだけがわたしを苛む。

 同郷の産まれで、同じ学校に通い、ずっと一緒にいたことは覚えている。そこまでは。

 一時いっときからアオとイオ、チーズの兄から憐れみにみた感情の波を受け取ることはあるけれど、原因が何かは全くわからない。


「■■様、そろそろチーズさんの近況、見たほうが良いのではないのですか?あなたがこの世界に召喚したのですから、最後までしっかり責任を持ってください」


 イオに言われるそれはすごくわかっている。ストレスと向かい合わないといけないこともよくわかっている。でもこの長い寿命から鑑みても人生のほぼ避けてきたことに今直面しているのだから、ぶっちゃけ無茶言うな。

 小娘だった時代の私がヤケで記憶を封印した結果によりこのもやもやがあるのであれば、今の私が記憶の箱を探して開放してしまったほうが楽になるのではないか。昔は許容できなくても今なら許容でできるものだってあるはず。その事象がそのうちに入るかどうかはわからないが。

 そんなことを毎日毎日悩んでいると、チーズの兄から隣国への外出許可と、件の魔法使いの同時連行の許可申請があった。

 チーズはふわっとこの国を出入りしているが、実は強い制約がある。国から出たら最後、ナットのことは外の国の人間には話せないといった制約が課されているのである。アオとだけ話すことができることと、他国の人間に対してはジャミングがかかるという、実はかなり強い魔法が課されている。

 私のリソースをガンガン削るに至る原因はたくさんある。リソースの軽減のために、弟子たちには世界と一緒に記憶を一部失ってもらっている。


 もしかすると、奴の協力を得られるのであれば、この制約を開放することも叶うかもしれない。ただ、トラブルが起きたときに対処するための力だけはちゃんと蓄えた状態で開放しないと、何かが起きてからではもう遅い。

 

 しかも、奴より私が優先すべきものが1つある。これを今知るものは王のみとなるが。 私が倒れると、もう一人、大事な大事なあの子が、共に倒れてしまう。


 ◆


 この世界に来て、俺は妹のおまけで闖入したようなことを聞いた。そもそもが妹のもつ「時間干渉」のスキルの干渉をもろ俺が受けたことからだ。

 正直別の世界線とはいえ『救国の勇者』の名折れ感すらある。複写体とはいえ、巻き込まれて時間停止してたなんて情けない。


 もともと地球に前にいた異世界から戻った時点で、すべての権能を持ち越した状態で帰還していたことから、地球の運用の範囲外みたいな人間になっていたことはわかる。何をしていても世界の『外側』で生きている感覚だ。それはそれで、面白いからよかったのだけれども。

 普通に働くには腕でどうにでもなったので、お金もある程度溜まったし、人の縁も多分にできた。この先実家に車で行ける範囲の札幌で、故郷にもどって従業員を雇ってレストランを開業しようかと思って帰郷したついでに実家に寄ったタイミングで今回のこれに巻き込まれたものであるし。きっと、複写元の俺はきっと予定通りの開業を果たし、それなりに成功を納めるだろう。


 複写元の俺がどんな人生を歩んでいるかなんてことは正直知ったことではないが、複写された俺がこの世界で果たすべき役割は妹のサポートはもとより、それなりにきっとあるのだろう。数奇な人生ここに極まっているけれど。


 とりあえず、「凍結の魔女」が拒否を続ける限り、「救国の魔法使い」と引きはがしておくのが(■■がかわいそうなので)正解なのもわかる。しかしもう一匹の救国くんは千年まともに接触することができなったせいか、俺が気づく範囲でも数回凍結ちゃんにちょっかいを出そうとしていたのでとりあえず引きはがし、期が熟すのを待とう。こればかりは本人じゃないと解決できないやつだし。

 

 チーズが南国に旅立った翌日、家の畑の整備もひと段落おわったところから、冒険と商売と開業の基礎をつくりに隣の国にギルド登録に行く伺いを魔法使いを引き連れ、ナット王に立てる。別に拒否されるようなものではなかったがためにあっと言う間に口頭とはいえ許可がおりた。

 さて、妹の冒険のおまけかもしれないけれど、俺の冒険も再開するwith救国の魔法使い。


 今回の目標は「国の復興」ということだから、タイトルロールの妹に頑張ってもらいたい。

 俺は俺で、「最強のサポーター」となってやろう。

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