第62話 実家の現状とアップデート(1)
王城を出て30分、私とういとアオくんは自宅へ帰った。この距離でも前はいつも車を使っていたので、健脚になりそう。
家の敷地に入ると牛舎が切り分けられてなくなったため、『牛がいるぞ~!!』という匂いが薄れている。何気に寂しい。
その代わり、実は飼っていた鶏ちゃんたちの勢力図が拡大している。「鶏卵は渡せない!!」という兄の主張により、鶏ちゃんたちは居残りになった。確かに鶏の飼育数は、移譲をするほどでもなかったことと、 鶏は牛に比べると手間のかかりかたは少ないし、環境を作ってあげればある程度の期間、お留守番もできる。しかも新たに買ってきたヒヨコがつがいでいるのでまあ、増やそうと思えば1世代だけだけど増やすことができる。
家の玄関に近づくと、家の裏で音がしていたのできっと兄さんが何かやってるんだろ~と思い、家庭菜園ゾーンに回ると、土まみれで収穫作業をしている、兄と救国の魔法使いの姿があった。
「チーズ!お帰り!」
「兄さんただいま~ってどろどろじゃない!」
「ちょっと畑拡張してた」
「私は、手伝いです」
おおよそ土いじりと縁遠そうな魔法使いが、農作業ルックを着せられ、活動している。ぶっちゃけ素で面白い。兄と背格好がそこまで違わないため、服を借りたのだろう。麦わら帽子までご丁寧にかぶらされている。
「いいところに帰ってきた!ファストフード店っていえばポテトフライ?フライドポテト?まあどっちでもいいや。じゃが芋が必須だろ?もうちょっと畑を増やそうかと思って」
「ポテトプランターを隣の家が貸してくれて植えてたはずだから、うちには機械がないから手植えするしかなくない?広くしたところでいま人手が足りないから、人海戦術はきついよ」
うちはどちらかというと牧畜系の設備がそろっていたし、メインだったから、畑系の農機は借りていただけなのでそんなにはない。
「それはいいとして、まず土起こしをしてるんだけど、そもそも農地じゃなかったから土がいまいちなんだよ。お前の地属性魔法でどうにかして。そこのアオに聞いたんだけど、初魔法で土めちゃくちゃ出したんだろ」
今なんと。こらアオくん。横を見ると、顔をそらしてういをなでている。
「どのぐらいの範囲耕す予定なの?」
「今ある分とあわせて最低20ヘクタールくらい」
要するに、東京ドーム4個分。手で耕す気なのか。
「そもそも今種芋ないでしょそんなに」
「そこでだ、お前の時間干渉スキルでさーっと育てればいいんじゃない」
いとも簡単にそう宣う。
「そんな器用な使い方できるほど、使いこなせてない」
「よし!使いこなせ!待ってるぞ!」
私の育成には協力しないとかいっときながら、私のもつスキルは使うというのか、兄よ。
「俺料理人だからか四大元素でいうと、得意なのは火と水魔法だから、日照りと水害の心配だけはないんだけどね~。あと、俺の手伝いをすると復興も早くなるし、求められるレベルまで自己研鑽するとほら、レベルもランクもあがるよね」
詭弁すぎる。
そこで小さい悲鳴があがる。振り向くと半泣きな魔法使いさんがいた。
魔法使いさんは、ミミズを殺生してしまたらしい。まあ、畑だし。
「で、この畑の向こう側一帯の土を起こせばいいんですね。」
アオくん参戦。
「兄さん、そこ一帯に水捲くことができます?ほこりが立たない程度に」
「合点承知」
天に向かって手をかざすと、空が曇りはじめ、畑予定地だけに霧雨が降り始めた。マジでか。こう、こういう時に雨とか降らせないで最低限でどうにかしてしまうのほんっと器用だし、 いつの間にか兄がスーパー兄になっているではないか。
「よし、頼んだ!」
「頼まれました!」
「なんというか、この世界の法則外の魔法って面白いね~。結構彼といるのは面白いよ」
鍬に両腕をかけながら、魔法使いさんが話かけてくる。
「ちょっと変わってますが、私が跡取りにならなきゃいけなくなった原因ですが、結果絶対成功しそうな強さがある、自慢の兄ですよ」
「だろうね~」
と、返事があった。だろうどころかですですです。
そんな感じでしゃべっている間に、地上から20センチぐらい上から地をえぐるような鎌鼬の大群ともいうべき衝撃波がその一帯を襲い、ものの5分前後で土が掘り起こされていた。
「こんなかんじでいかがでしょう」
「ありがとう!助かった!君も器用だね」
「何年も世界最高峰の魔法使いの元で学んでないですからね」
「そうでしょ、そうでしょ」
なぜか偉そうに肯定し、にやける魔法使い。貴方じゃない。
「じゃあ、ここにチーズ、〔土魔法〕をよろ!」
だそうで。この世界だと【地】属性魔法らしいけどわざわざ訂正はしない。同質のものなんだろうし。
「兄さん、土だすだけでいいんだよね。」
「いいよ~」
さっきの兄さんの見様見真似で、アオくんが耕した一帯に両手をかざし、土、土!良い土をください!と目を瞑り念じる。エネルギーは走っている感覚はあるが、何かが出ている感覚がない。
「あれ?なにもおきてないきがする。」
そう言って目を開けると、上空5メートルぐらいのところに、空と地にサンドイッチされるがごとく、土の塊というか板が浮遊している。
「ぎゃーなにこれ!こわ!」
アオくんはぽかーんとしている。動揺してないで助けろ鬼教官。
「失礼しました、レベルだけ上がったせいでしょうね。そっと降ろせますか。できるだけ、そーっと!そーっと!コントロールすることに気を付けて降ろしてみてください」
「そーっと!そーっとね!」
ものすごい集中力を発揮し、土の塊は上空5メートルから1メートルぐらいまで降下、あと少し!
というところで、指先から体をめぐっていたエネルギーがすっぽ抜けた感覚と同時に、土が落下、ドォオオンと轟音が鳴り響いた。
作業中のMP切れのガス欠といった迷惑沙汰をおこしたのだった。




