第6話 異世界の君、家を点検する（３）
うちにいる牛ちゃんたちはすべて乳牛。ちゃん搾乳してあげないと健康被害がほぼ確実に起こるので、ちゃんと日々のルーティンをこなすことが必要であることから、目的地牛舎に到着、早速作業を開始することにした。
なぜか電気が通っていることから機器はちゃんと動いているので、人手はかなり少ないものの何とか作業を進める。
搾乳手袋をはき（方言）、しっかり消毒したうえで搾乳作業を手際よく行っていく。子供のころから慣れ親しんでいる、体に叩き込まれている作業でもある。
「すごいですね」
どんどん、バルクーラーに生乳が蓄積されていく様子を見てのアオくんの感想。初めてみたらそう言うのもわからなくもない。
「これは部門に特化した英知だとおもうよ。でもこの大量の生乳とりあえず私が飲む分とゆくゆくチーズの原料とする分とするのはいいとして、どんどん毎日増えていくけどどうしよう」
この転写された世界では酪農文化はなさそうな気がする。アオくんの反応を見る限り、少なくともこの国にはないとみてよさそうだ。正直見たことがなくても、たいていこういうものは知識として軽く知ってはいると思うのだけれど、それが今のところ感じられない。
「チーズさんのスキルに【時間干渉】があったとおもうのですが、【倉庫】かそれに準じるスキルと組み合わせてうまく活用できるかもしれませんよ。ただ、最初は師匠からのレクチャーを受けた方が安全だと思います。組み合わせについて、特殊なスキルであることは確かなので事故が起きたら大変です。あと、時間へどの程度干渉可能であるかも検証してみたほうがいいですね」
アオくんはこの短い付き合いの中ではすごく慎重かつ聡明な子に見える。またはそう見えるだけで過去に大きな事故を経験済みでおとなしくしてるかのいずれかだと思うけど、聞くのも野暮なので今回はやめておく。今後も協力関係が続くのであれば、おのずと知れていくだろうし。
しかもって積極的に手伝ってくれるようで、感謝しきりだ。
「うっかり牛ちゃんに蹴られないようにきをつけてね～」
「わかりました。みんな、穏やかでチーズさんのこと、好きですね」
「ありがとう、そう言ってもらえると嬉しい」
そんなことをいいながら作業を続けた結果、まあまあの時間経過で完了することができた。
まだ何も知らないし使えてもいないけれど牧草にミネラルを加えるとかそういうのも、適合する魔法が使える人がいればうまく合成したりとかどうにかなるかもしれない。
現状、生乳ができたところで消費してくれる人がいないとどうにもならないので、国を再建するための資金を得るという点で、人員に加え、加工や販路の確保などは先ほどの王城のメンバーのお世話になることになりそう。
そしてアオくんは作業をしながら、先ほどの『この世界で生活にあたって覚えておいた方がいいこと』の補足も話してくれた。
やはりといっていいのか魔法が使えない人または魔法が極端に苦手な人はいること、そういう人は剣術を極めたり、魔法に頼らない医療を極めたりするがやはり魔法が併用できる人間にはなかなかかなわず、また、魔力が少ない人は占いを極めたりする活路もあると教えてくれた。
なぜか占いは魔力量の少ない人間の方が的中率が高いらしい。
私には魔法の適性がちゃんとあることがさっき確認したステータスボードでわかったので、ひとまずこの転写世界のスタートラインには立っている。
作業が終わり休憩後、アオくんは師匠の”凍結の魔女”さんが私に魔法を教えてくれるように謎通信で算段をつけてくれた。こちらもひと段落をついたら王城に向かうということに。
そこそこ打ち解けてくれたのか、最初より会話がかなりしやすい。
「転写によりこの国にやってきた方は強力な魔力とスキルを初期段階で持っていますので、あっという間にこの世界でできることが増えると思いますよ」
そこで思いつくは私の飼い犬。
「え！じゃあ”うい”も転写犬だからなにか強力なパワーとかもっているのかな。同じ哺乳類だし」
しっぽをぶんぶん振りながら大きな目でこっちを見ているういをみてちょっと期待してみる。
アオくん曰く他者のステータス確認や鑑定はもう少しレベルがあがって条件が揃ってから、という話なので、まずは魔法を覚えたり、レベルアップのために経験値を稼ぐことから始めなければならないみたいだ。
そして休憩後、貧困にあえぎ凍結してまで国を救おうとする王と、その協力者である魔女、そして弟子たちに家の冷蔵庫と自家菜園レベルではあるものの自分の家で育てている野菜をつかって料理を作って持っていくことを考えた。
お近づきのしるしに。口にあうといいのだけれど。
